20代からの仕事術㉕〜会社の看板を外したとき、あなたに何が残るか ─ これからの「安定」の定義〜
こんにちは、土井啓史です。
私は大学卒業後、NECで7年間の営業職を経験したのちに独立し、これまで複数の事業を立ち上げてきました。現在は、転職支援とITスクールを運営する株式会社Career Art、そして訪問看護事業を営む株式会社グリーンメディカルの代表を務めています。
人材会社の代表として、業界や役職を問わず多くの優秀な方々とご一緒する中で、特に意識的に接点を増やしているのが20代のビジネスパーソンです。彼らの圧倒的な成長スピードや柔軟な発想には、毎回新鮮な驚きを覚えます。
なぜ、これほど短期間で目覚ましく力をつけ、成果を出せる人がいるのか。その背景を突き詰めていくと、共通する考え方や日々の微差の習慣に行き着きます。すべての結果には必ず原因があり、その原因は日常の地味な積み重ねにあります。これは私自身が実業の現場で深く痛感してきた事実です。
本連載「20代からの仕事術 ―― 結果を出し続けるための仕事の本質」では、早く体得すればするほどキャリアに大きな差がつく習慣や思考法を整理しています。
今回のテーマは、終身雇用が崩壊した今の時代の「安定」についてです。
私はもともと大企業で働いていたところから事業を立ち上げましたが、その過程で、「安定」という言葉の意味を何度も考えてきました。
大手企業に所属していることは、確かに一つの安心材料です。しかし、会社の信用や看板と、自分自身の力は同じではありません。
私自身がNECを離れたとき、強く実感したのは、「会社の看板がある自分」と「看板を外した自分」とでは、周囲からの見られ方も、求められる力も変わるということでした。
終身雇用という前提が揺らぐ今、会社に所属しているという事実だけで、個人の将来まで保証されているとは考えにくくなっています。
では、これからの時代における「安定」とは何なのでしょうか。
会社に所属することは、将来の保証ではない
かつての終身雇用は、企業と働く人の双方にとって、将来を見通しやすくする仕組みでした。
一つの会社に入り、経験を積み、昇進しながら定年まで働く。それが代表的なキャリアモデルとして捉えられていたからです。
しかし現在は、技術、顧客ニーズ、競争環境、働き方が短期間で変化しています。企業自身も、現在の事業や仕事が将来まで同じ形で続くことを保証できません。
ここでお伝えしたいのは、一つの会社で長く働くことを否定する話ではありません。
一つの会社で専門性や信頼関係を積み重ねることには、大きな価値があります。問題なのは、「会社に所属している」という事実と、「自分の将来が守られている」という状態を同じものとして考えてしまうことです。
キャリアを考えるうえで注意したいのが、個人の市場価値と、所属企業の知名度や信用を混同することです。
ここでいう市場価値とは、単に年収が高いことや、転職しやすいことだけを意味しません。特定の会社の肩書や制度だけに頼らず、異なる環境でも課題の解決に貢献できる可能性を指します。
会社名を外したとき、自分は何ができるのか。
どのような課題を解決できるのか。
周囲にどのような価値を提供できるのか。
これから問われるのは、どの会社にいるかだけではありません。その環境で何を学び、どのような価値を生み出せるようになったかです。
これからの安定は「変化しても価値を出せること」
これまでの安定が「同じ会社に雇用され続けること」だったとすれば、これからの安定は「環境が変わっても価値を出し続けられること」だと、私は考えています。
真の安定とは、変化が起きない状態ではありません。
外部環境や組織の構造が変わったときにも、自分で状況を理解し、必要なことを学び、周囲と協力しながら次の行動を選べる状態です。
そのために必要な力は、資格や肩書だけではありません。大きく分けると、次の三つに集約できます。
課題を見つけ、必要な知識や方法を自発的に学ぶ力
周囲と信頼関係を築き、率直に意見を交わせる状態に貢献する力
個人の成果だけでなく、チーム全体が成果を出せる仕組みをつくる力
こうした力は、会社が変わっても持ち運ぶことができます。
ただし、「どの会社でも同じように成果を出せる」という意味ではありません。環境によって、求められる役割、仕事の進め方、意思決定の速度、評価基準は異なります。
私自身、大企業とベンチャー、そして自ら経営する組織では、求められる働き方が大きく異なることを経験してきました。
整った仕組みの中で成果を出す力と、仕組みそのものをつくる力は同じではありません。環境が変われば、過去の成功体験を手放し、新しいやり方を学び直す必要もあります。
だからこそ、市場価値とは、完成された一つの能力ではなく、変化に応じて自分の力を更新していけることだと考えています。
成果は「個人の力×環境の構造」で生まれる
同じ能力を持つ人が、同じように努力しても、置かれる環境によって成果や評価は変わります。
成果は、個人の力だけで決まるものではありません。
私は、次のように考えています。
成果=個人の力×環境の構造
ここでいう「環境の構造」には、業界の成長性、会社の事業モデル、役割の設計、評価制度、上司との関係、意思決定の方法、情報共有の仕組みなどが含まれます。
たとえば、前職では自信を失っていた人が、役割や評価基準の異なる会社へ移ったことで、本来の強みを発揮し始めることがあります。
本人が急に別人になったわけではありません。その人の能力が、価値として認識されやすい環境へ移ったのです。
反対に、能力のある人でも、求められる役割が曖昧だったり、適切な情報が共有されなかったり、成果と評価が結びつかない環境では、力を発揮しにくくなります。
離職率の高さや優秀な社員の退職も、本人の意欲だけで説明することはできません。役割設計、評価制度、上司との関係、情報共有など、環境の構造に原因があるケースも少なくありません。
環境の問題を認識することは、他責ではありません。
努力だけでは変えられない制度や組織文化があることを理解したうえで、自分の目的に合う環境を選ぶことも、キャリアに責任を持つ行動です。
ただし、「今の会社が嫌だから」という理由だけで環境を変えると、転職先でも同じ問題を繰り返す可能性があります。
大切なのは、今の環境の何が自分の力を生かしにくくしているのかを整理することです。
役割が合っていないのか。
評価基準が合っていないのか。
身につけたい経験が得られないのか。
それとも、自分自身に改善できる部分があるのか。
自分と環境の両方を見ることで、初めて次に選ぶべき環境が見えてきます。
スキルより先に、キャリアの目的地を決める
将来に不安を感じると、「とりあえず資格を取ろう」「何か新しいスキルを身につけよう」と考える人は少なくありません。
学ぶこと自体は、決して悪いことではありません。
しかし、目指す方向が決まっていなければ、身につけたスキルをどこで、どのように生かすのかが曖昧になります。
目的のないスキル磨きは、目的地を決めずに荷造りを始めるようなものです。
旅行先が決まっていなければ、何を持っていくべきかは判断できません。キャリアも同じです。
まず考えるべきなのは、「何を学ぶか」ではなく、「自分はどこへ向かいたいのか」です。
キャリアを考える際には、次の順番で逆算することが大切です。
自分は、仕事を通じて何を実現したいのか
そのために、どのような経験が必要なのか
その経験は、どのような環境で得られるのか
その環境で成果を出すには、どのようなスキルが必要なのか
この順番で考えると、資格取得や転職は目的ではなく、目的へ近づくための手段になります。
たとえば、マネジメントを担いたいのであれば、知識を学ぶだけでなく、実際に人へ仕事を任せ、フィードバックし、チームの成果に責任を持つ経験が必要です。
その経験を今の会社で得られるのであれば、必ずしも転職する必要はありません。一方で、役割の構造上、必要な経験を得る機会がないのであれば、異動や転職を検討する意味があります。
目的から逆算して環境を選ぶことで、自分の市場価値を中長期的に高め、年収、役割、働き方の改善につながる可能性も高まります。
自責とは「自分が選べること」に集中すること
「自責思考」という言葉は、ときに「何でも自分のせいにすること」と受け取られます。
しかし、私が考える自責思考は、自分を責め続けることではありません。
変えられない制度や環境の問題を冷静に見極めたうえで、自分が選択できることに集中する姿勢です。
今の環境で工夫できることは何か。
周囲への働きかけを変えられないか。
必要な情報や支援を、自分から求められないか。
それでも目的に近づけないのであれば、環境を選び直す必要はないか。
自分の力では変えられない問題まで背負い込み、自分を責め続けることは、自責ではありません。
一方で、環境だけを批判し、自分が選べる行動を放棄することも、自分のキャリアに責任を持つ姿勢とはいえません。
環境を見ることと、自責で考えることは両立します。
どの環境を選び、その中でどう行動するかまで含めて、自分のキャリアに責任を持つということです。
また、自立や自走とは、一人ですべてを背負うことでもありません。
自走とは、誰にも頼らないことではなく、目的を理解し、必要な場面で周囲を頼りながら、自分で次の行動を選べることです。
自走できる人には、次のような特徴があります。
自分の目的と役割を理解し、自発的に行動できる
必要なときに周囲へ適切に助けを求められる
役割や環境の変化に応じて、行動を修正できる
自分の選択に責任を持ち、失敗から学べる
個人の成果だけでなく、チーム全体の生産性を考えられる
私自身、複数の事業を経営するなかで、一人の能力だけで生み出せる成果には限界があると実感しています。
適切な人が適切な環境で力を発揮し、互いの強みを掛け合わせることで、個人では実現できない価値が生まれます。
自走する組織とは、管理職やリーダーが何も指示しない組織ではありません。
目的や判断基準が共有され、必要な情報へアクセスでき、メンバーが自分の役割を理解したうえで行動できる組織です。
人材育成や組織づくりの本質は、人を細かく管理することではなく、人が自ら考えて動ける環境を整えることにあります。
会社に依存しない「持続可能な自分」をつくる
終身雇用という前提が揺らいでいることは、必ずしも悲観すべき変化ではありません。
見方を変えれば、自分の目的に合わせて環境を選び、自分の意思でキャリアをつくれる時代になったともいえます。
大切なのは、転職するか、今の会社に残るかという二択だけで考えないことです。
自分はどこへ向かいたいのか
今の環境で、何を得ようとしているのか
その経験は、将来の目的につながっているのか
会社の看板を外しても発揮できる力を育てているか
自分の強みが価値へ変わる環境を選べているか
こうした問いを持ち続けることが、会社だけに依存しない「持続可能な自分」をつくります。
真の安定とは、変化しない場所を見つけることではありません。
変化の中で学び、環境を見極め、周囲と協力しながら価値を生み出し続けられることです。
今の環境に不安を感じていても、すぐに転職を決める必要はありません。
まずは、自分がどこへ向かいたいのか、そのためにどのような経験が必要なのか、今の環境でその経験を得られるのかを整理してみてください。
不安は、これまでのキャリアを否定するものではありません。
自分の目的と環境を見直し、市場価値を更新するためのサインでもあります。
「目的を明確にし、逆算でキャリアを考える」
「適切な環境に身を置く」
ということも、マクロで見たときの「仕事術」なのです。
◆土井啓史の実績・プロフィール
1979年神奈川県横浜市生まれ。
幼少期を米国で過ごしたのち、慶応義塾志木高等学校、慶応義塾大学総合政策学部(組織論と戦略人事を専攻)を卒業。2003年にNECに入社。
営業職で経験と実績を積み上げ、29才で独立起業。
流通、小売、メディア、ITサービス、不動産、人材などのベンチャーで経営企画に参画した実績をもち、2019年より転職エージェントである株式会社Career Artを創業、同社代表取締役に就任。2025年より訪問看護事業をおこなう株式会社グリーンメディカルを創業し、同社代表取締役に就任。
<株式会社Career Art>
https://career-art.co.jp/
<株式会社グリーンメディカル>
https://aoba-houmonnkango.jp/
<wantedlyインタビュー記事>
https://www.wantedly.com/id/keiji_doi_career_art
<連載コラム>
・20代からの仕事術
https://note.com/kay88/m/m771259df2325
・チームの力を最大化する組織論
https://note.com/kay88/m/md55d6c5bd88a
・経済考察
https://ameblo.jp/keijidoidoi/theme-10108304694.html
<プライベートについて発信>
・Instagram
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