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昔の父は、優しくなかった。  
優しくない、というより、  
余白のない人だった。

言葉はいつも少し強くて、  
表情も硬い。

私が成人して、  
結婚して、  
手術をして、  
離婚をして、  
人生の節目をいくつか通り抜けた頃から、  
父はゆっくりと心配性になった。

いつも
レシートみたいなLINEが来る。

「病院行ったか」  
「薬もらったか」  
「ご飯食べたか」

必要な項目だけが縦に並んでいて、  
まるでコンビニのレシートみたいに長く無駄がない。

昔の父なら、
こんなふうに送ってこなかった。  
心配していても、
それを言葉にしない人だったから。

しかも、独特の言葉遣い。
「貴女は本日、体調のほうは如何でしょうか」  
「無理をせず、温かいものを食べなさい」

普段の父からは想像できないほど丁寧で、  
まるで明治時代の男性が、
急にスマホを持ったみたいな調子で届く。
句読点はやたらと整っていて、  
語尾は妙に柔らかい。
そのぎこちなさが、  
不器用に優しさを重ねてきたことを物語っている。

私はそのレシートみたいなLINEを読むたび、  
「また来たか」  
と一緒に、胸の奥があたたかくなる。

昔の父は、
私が転ぶ前に手を伸ばす人じゃなかった。  
でも今は、  
私が転ぶかもしれない未来に向けて、  
先に手を伸ばしてこようとする。

画面に並ぶ無骨な文字列は、  
父なりの優しさであり、  
私の一日のどこかを支える静かな柱みたいだ。

心配性。

その言葉を胸の内で呟くと、  
遠くで父が咳払いをする気配がする。  

あの不器用な優しさが、  
今日もどこかで
私の体調を気にしているのだと思う。

私の生活の端に置かれた小さな余白。
それがあるだけで、  
夜の沈みが少しだけ浅くなる。  
息をするのが、
ほんの少しだけ楽になる。

言葉にしなくても、  
父は画面の向こうで、  
私の一日のどこかを支えている。

その余白に、  
私は今日も救われている。

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