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第17回 50代元ゲームショップ店員、「ワタシの近所のアキハバラ」を作ろうとした話。

「こちら、買取価格が3000円になります。いかがなさいますか?」

その日、私はカウンター越しに何本かのゲームを買い取っていた。
あれは私がまだ学生の頃、時にして2000年あたりだろうか。
ビデオレンタル&ゲームショップでアルバイトをしていた時のことだ。

当時、スタッフの中で私は「大のゲーム好き」で通っていた。
そんなに好きならと、ゲーム知識ゼロの店長が職務を丸投げした結果、まだ20代の学生バイトに全権委任という、非常にレアな、いや、本当にそれでいいのか絶対本部に怒られるだろという労働環境が完成した。

■トルネコのごとく立ち上がった私

商売のことはもちろんわからない。
でも、地元にいながらアキバ価格で買える、そんなお店を作ろうと思った。

まずは発注。数か月後に発売されるゲームのリストを見て、仕入れの量を決める作業だ。どのゲームが売れるかという予測、前評判の情報が必要だったが、愛読書がファミ通とゲーメストという私に死角はなかった。

「所長クン、君はエスパーか何かなのかい?」
何度も店長に訊かれた。確かに、売れるゲームは多めに仕入れた。
一方で、爆発力はなくても、長く売れ続けそうなタイトル、これもそれなりに入れておいた。店長には、その安全運転が刺さったらしい。
でも、私としては特に変わった事ではなかった。
売れそうな新作は、ファミ通を見れば大体書いてあったのである(笑)。

続いて、値付けと買取価格の設定。
これは、日々聖地に赴くことを至上とする、生粋のアキバ民として譲れない部分だった。こちとら、毎日中古ゲームの価格と、リバティ、トレーダー、ソフマップの買取価格をチェックしている身だ。さらに、地元のゲームショップの価格調査もバッチリ。もはや誰よりも中古価格に詳しいのではという自負すらあった。(自慢になるのだろうか…)

当時は中古相場をネットで調べる、というのもままならなかったので、お店にとってこれは貴重なスキルだったと思われる。ただ「あのソフト安くなってないかなぁ」くらいで毎日見ていたものが、こんなに役立つとは思いもしなかった。

かくして私は、「自分が欲しくなる価格、売りたくなる価格」を基準にして、次々に値付けを済ませていった。
一応、本部から価格設定の指示が送られてくるのだが、店長がそんなのどうでもいいよと言うので、完全に治外法権となり、自由にやらせてもらえた。ホントに大丈夫か、この店は。

正直、ローカルなゲームショップとしては、かなり異彩を放っていたように思う。我ながら、価格帯が完全に「わかっているヤツ」の仕事だ。
おそらく、当時の常連さんは、「コイツ、わかっていやがる……!」という目で私を見ていたはずだし、そんなお客さんには、心の中で「フッ、お前もな」と親指を立てつつ、熱いメッセージを送っていた。

◾️これが祭りだ!初売りセール


本領を発揮したのは、年始の初売りセールだ。


年末の売り上げがイマイチ伸びなかったのもあり、店長は起爆剤となるアイディアを求めていたので
「抱き合わせ…というか、セット価格でまとめて販売するのはどうでしょう?」
と、魯粛の顔で進言した。

抱き合わせはいかにも心象が悪いが、買い取った品も溜まっていたので、まとめて整理したかった。
とはいえ、あからさまな在庫処分はプロの仕事とは言えないだろう。
私は、できるだけ損のないように、買い取りに出してもほぼトントンになるくらいの絶妙なラインで価格を設定した。

もちろん、セットにありがちな意地悪な組み合わせにはしない。
たしかに、お店によっては「パワプロ99年開幕版」と「パワプロ2000」をセットにする、お前は鬼かと言いたくなるような売り方も頻繁に見られる時代だった。
しかし、これは神をも恐れぬ愚かな所業。「ワンダーボーイ」と「ビックリマンワールド」を抱き合わせにするようなものである。
私は「ドラクエ」「FF」「バイオハザード」のような目玉タイトルを必ずセットに入れ込み、子供達が家に帰って残念な思いをしないように構成した。
また、通の常連さん向けに「顔は悪りぃが腕は確かだぜ」的な、知る人ぞ知る名作セットも作っておいた。

結果、このセットは飛ぶように売れた。
開店直後からお年玉を握りしめた子供と大きなお友達がレジに並び、在庫は次々にハケていく。デカめの人間が入れそうな箱に一杯だったゲーム達は、あっという間に次の持ち主のもとへ旅立っていった。ふと振り返ると、店長は満面の笑みで
「所長クンがやってくれました!」
と、ジェバンニ待遇で私を出迎えてくれた。

アキバに行かずとも、アキバ価格でゲームが買える。
これこそ、まさに私が目指したスタイル、
ワタシの近所のアキハバラ」である。
セールのおかげで、常連客はもちろん、一見さんもだいぶ増えた。
巡回コースに組み込んでくれるお客さんが明らかに増えたし、お店も賑わった。
実は自分でも何セットか購入したが、これは秘密のままにしておこうと思う(笑)。

◾️結局、店舗経営もゲームだった


振り返ると、自分の経験や知識で何が売れるか考える、流れを見て臨機応変に売り方を変える、などの攻略法は、店舗経営ゲームと全く同じだった。
もちろん、現実世界はリアルにお金が動いているので責任を伴うが、だからと言ってマニュアル通りでは、早い段階で頭打ちになっただろう。
少しセオリーからは外れるが、くらいのアイディアだからこそ、上手くいくのだと学ぶことができた。

この後、私はゲームライターの道を進むことになるが、ゲームショップという現場の雰囲気を体験できたことは、その後の記事づくりに繋がったように思う。

もし20年前、あなたの街に「なんかこの店、やたらゲームが安いし高く買ってくれるな」というゲームショップがあったなら。
もしかしたらそれは、私の仕業だったかもしれない。
そして、その利益で私がゲームを買っていた可能性も否定できない(笑)。

その節はご来店、まことにありがとうございました!

⭐︎今回の研究結果
・買取時、ケースに違うディスクが入っている率はおよそ20%。
・当時のアキバ民は、いすずとキジ丼でできていた。
・タイトルで曲が流れたら、アナタもアキバの民。


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