伝説の8ビットCPU「Z80」のアセンブラ(ザイログ・ニーモニック)の魅力をまとめてみる
さて、Z80の紹介としては以下の記事でひと通りお話しできたと思います。
【レトロPC】ついに50周年!伝説の8ビットCPU「Z80」の魅力をいま改めて紐解く
今回は、そのアセンブラ(ザイログ・ニーモニック)について詳しくまとめてみます。
「Z80は8080の上位互換だから、アセンブラもそのままイケるのでは?」と思われるかもしれませんが、実はそんなことはありません。大部分の「8080と同じ命令」については同じように書きたいところですが、残念ながらザイログ社は独自のニーモニックを用意したのです。
ハンドアセンブル - 8080の場合 ※8080のハンドアセンブルについては、こちらの記事もどうぞ
ザイログ・ニーモニック最大の特徴:徹底的な規則化とシンプル化
ザイログ・ニーモニック(Zilog Mnemonic)は、ザイログ社がZ80 CPUのために定めたアセンブリ言語の命令表記法(記述ルール)です。インテル8080のニーモニックが「処理ごとに異なる単語」を使っていたのに対し、ザイログは「データ転送はすべてLDに統一する」など、徹底的な規則化とシンプル化を図ったのが最大の特徴です。
具体的に整理してみましょう。ザイログ表記の基本ルールである「左が変更される側(移動先/対象)」「右が参照される側(移動元)」を意識すると、非常にすっきりと理解できます。
「LD」命令への統一(直感的で分かりやすい)
インテル8080では、データの移動元と移動先(レジスタ、メモリ、即値)によって、全く異なる単語(命令語)を使い分ける必要がありました。ザイログはこれをLD 移動先, 移動元という1つの形式に統一しました。

「かっこ ( )」の意味:ザイログでは、数値やレジスタを ( ) で囲むと「そのアドレスの中身(メモリポインタ)」を意味します。これにより、一目でメモリへのアクセスだと分かるようになっています(他のCPU経験者だとここが大事)。
算術・論理演算の主語(アキュムレータ)の省略
8080の演算命令は、計算結果が必ずAレジスタ(アキュムレータ)に入ることを前提として、Aの記述を省略していました。ザイログも基本はこの思想を踏襲していますが、より英語として自然でスッキリした表記になっています。
加算(足し算)
Intel 8080: ADD B (AにBを足してAに格納)
Zilog: ADD A, B (明示的に「AにBを足す」と書く)
引数つき加算(キャリー付き足し算)
Intel 8080: ADC B
Zilog: ADC A, B
1を足す(インクリメント)
Intel 8080: INR B
Zilog: INC B (単語が直感的になった)
フラグ変化や条件分岐の規則化
条件付きジャンプ(もし〜ならジャンプする)などの表記も、ザイログはルールを統一して覚えやすくしました。
ゼロフラグ(結果がゼロか否か)によるジャンプ
Intel 8080: JZ(ゼロなら), JNZ(ゼロでないなら)
Zilog: JP Z, アドレス, JP NZ, アドレス (JP に条件を添える形式に統一)
キャリーフラグ(桁あふれ)によるジャンプ
Intel 8080: JC, JNC
Zilog: JP C, アドレス, JP NC, アドレス
Z80固有の強力な拡張命令の表記
Z80で追加された強力な機能も、ザイログ・ニーモニックなら非常にシンプルに表現できます。
裏レジスタとの一括入れ替え
EX AF, AF' (AFレジスタを表裏で交換)
EXX (BC, DE, HLレジスタを一括で表裏交換)
ビット操作
SET 5, A (Aレジスタのビット5を「1」にする)
BIT 0, (HL) (HLが指すメモリのビット0が「0」か「1」かテストする)
ブロック転送
LDIR (Load, Increment, Repeat:HLからDEへ、BCで指定したバイト数分を自動で連続コピーする)
人間ファーストでデザインされた優れた設計
インテルの8080ニーモニックは「CPUの内部回路(ハードウェア)の都合」で命令名が決まっていました。それに対してザイログ・ニーモニックは、「人間(プログラマー)の読みやすさ・書きやすさ」を最優先してデザインされています。
この「覚えやすく、間違いにくい」優れたニーモニックの設計思想は、その後の多くのCPU(シャープの独自CPUや、ゲーム機のカスタムチップなど)のアセンブリ言語の模範となりました。
Z80命令の分類(クイックリファレンス)
ザイログ・ニーモニックで記述されるZ80の命令は、主に以下のように分類されます。






補足:条件の表し方(フラグ指定)
JP, JR, CALL, RET の後ろにつける条件(ステータス)の一覧です。
Z (Zero) :計算結果が0のとき
NZ (Not Zero) :計算結果が0ではないとき
C (Carry) :繰り上がり・繰り下がりがあったとき
NC (Not Carry) :繰り上がり・繰り下がりがないとき


ローテート・シフト命令 (RLCA, SRL など)
ビットを左右にずらす命令です。掛け算・割り算の代わりや、グラフィック処理で多用されます。
RLCA / RRCA:Aレジスタのビットを左 / 右に循環(ローテート)させる。
SLA / SRL:レジスタのビットを左 / 右にずらし、空いた場所に0を入れる(シフト)。
直感的な表記と、引き換えにした「罠」
個人的には、このようなザイログ表記の方が(他のCPUのアセンブラを扱っている身としては)直感的でわかりやすく、こちらを使うことが殆どでした。
ただ、アセンブラとして考えた場合、特にハンドアセンブルする際には「ニーモニックを見ただけでOPコード(機械語の数値)がいくつなのか」というのが、少しだけわかりにくくなったかもしれません。Z80は8080と比べても多くの命令を追加したために、一部の命令に対しては「プレフィックス(接頭辞)」と呼ばれるバイトを追加して命令を区別しています。このため、命令によっては4バイト必要になるケースも出てくるのです。
……ということで、それぞれのニーモニックがどんな値のバイト列に変換されるのかという「ハンドアセンブルの実践」については、次回のお楽しみとしましょう。

NotebookLMによるスライド資料
NotebookLMによるまとめ記事
ショート動画
NotebookLMによる解説動画
NotebookLMによる音声解説
ヘッダ画像はザイログ表記のわかりやすさを示すように Gemini に描いてもらいました。
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