インテルCPUの歴史を変えた異端児「Pentium II」と、激動のSlot 1時代を振り返る
インテルのCPUの歴史を辿っていくと、Pentiumを過ぎた辺りから一気に複雑で、そして最高に面白い大激戦時代へと突入します。前身である「Pentium Pro」で開発されたものの、コストの壁で一般向けに普及しきれなかった「P6アーキテクチャ」。この名アーキテクチャを一般層へ普及させるため、インテルは大胆すぎる斬新な解決策を引っ提げて、新しいCPUを登場させました。それが、1997年5月7日に発表された 「Pentium II(ペンティアム ツー)」 です。
Pentiumのその後に続く道 PentiumPro。インテルを激変させた「P6アーキテクチャ」の系譜
日本国内では「ペンツー」の略称でも親しまれたこのCPU。当時を知る方なら、あの「独特の形」が真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか?
突如現れた「ファミコンカセット」のようなCPU
Pentium II最大の視覚的・構造的特徴は、それまでの平らな正方形の「ソケット型」を脱却したことにあります。拡張カードのようにマザーボードへ垂直に突き刺す、「Slot 1(スロット・ワン)」と呼ばれるスロット型の形状(S.E.C.カートリッジ) を採用したのです。見た目はまさに「任天堂のファミコンカセット」。なぜインテルは、これほど劇的な変貌を選んだのでしょうか?
Slot 1が生まれた理由と「2次キャッシュ」の壁
当時は、CPUの処理を爆速にするための「2次(L2)キャッシュメモリ」を、CPUのダイ(半導体そのもの)の中に一緒に組み込む技術がまだありませんでした。
前世代(Pentium Pro)の課題: 超高速な2次キャッシュをCPUパッケージ内に別チップとして強引に内蔵したため、製造コストが跳ね上がり、一般ユーザーには高嶺の花になってしまいました。
Pentium IIの解決策(カートリッジ化): そこでインテルは、小さな基板の上に「CPUコア」と「市販の外部SRAMチップ(2次キャッシュ)」をまとめて並べ、それを丸ごとプラスチック製の黒いカートリッジに収めました(SECC構造)。速度はCPUコアの半分(ハーフスピード)に抑えられましたが、これにより劇的なコストダウンに成功したのです。
この大きなカートリッジを、マザーボード上の細長い溝(Slot 1、別名:SC242)に垂直に「ガシャッ」と突き刺して固定する独特のスタイルが誕生しました。
主要な2つの世代(コア)
Klamath(クラマス): 0.35μmプロセスで製造された初期型。システムバス(FSB)は66MHzで、クロック周波数は233MHz〜300MHz。
Deschutes(デジューツ): 1998年に登場した0.25μmの微細化モデル。FSB 100MHzに対応し、333MHzから最高450MHzまでラインナップが拡大しました。
マルチメディアの夜明けを支えた「MMXテクノロジ」
Pentium IIのもう一つの武器が、基本性能の向上に加えて統合された「MMX命令」です。これは、当時の音声、画像、動画といったマルチメディアデータの処理速度を大幅に向上させるための、x86アーキテクチャ初の「SIMD(Single Instruction Multiple Data)」拡張命令セットでした。1つの命令で複数のデータを同時に処理できる、現代の高速化技術の基礎となった仕組みです。
MMX命令の尖った特徴と制限
当時の技術ならではの、おもしろい特徴がいくつかあります。
整数演算に特化: 初期バージョンは浮動小数点数(小数)に対応せず、整数演算のみをサポート。
レジスタの使い回し: 新しいレジスタを物理的に追加するのではなく、既存の浮動小数点演算(FPU)レジスタを流用(エイリアス)して作られました。
この構造上、MMX命令と通常の浮動小数点演算を同時に行うことはできず、切り替え時にはレジスタを空にする「EMMS命令」を実行する必要があるなど、開発者泣かせな一面もありました。後に、浮動小数点に対応し専用レジスタを新設した 「SSE」 や、現代の主流技術である 「AVX」 へと進化していくことになりますが、マルチメディアPCのブームを作ったのは間違いなくこのMMXでした。
当時の自作PCマニアがこぞって選んだ「黄金構成」
もし今、レトロゲーム環境(Windows 95/98やDOS)を構築するために当時のパーツを集めるなら、自作PCマニアが「鉄板」と呼んだ伝説の周辺パーツがあります。
伝説の名作チップセット「Intel 440BX」
Slot 1マザーボードに搭載された、PC史に残る名作チップセットです。圧倒的な安定性を誇り、当時のASUS製「P2B」やAbit製「BH6」などのマザーボードは、マニアの間で「迷ったらこれ買え」と言われるほどの超定番でした。
黎明期の3Dグラフィックボード
初期の3Dゲームブームが到来した時代。3dfx社の「Voodoo」シリーズや、NVIDIAの「RIVA TNT」などが大流行し、夜な夜な3Dベンチマークのスコアに一喜一憂する人が続出しました。
魔改造パーツ「CPU下駄(変換アダプタ)」
後にインテルが「やっぱりソケット型がいいわ」とSocket 370へ回帰した際、Slot 1マザーボードにソケット型の新型CPU(Coppermine世代のPentium IIIなど)を無理やり挿すための「CPU下駄」と呼ばれる変換基板が各社から発売されました。予算を抑えてPCを延命できる大人気パーツとして自作ショップに並びました。
メーカー製PCの「世界標準」への転換期
このSlot 1の波は、自作PC市場だけでなく、大手メーカー製PCの勢力図も大きく塗り替えました。ちょうど独自規格から世界標準(PC/AT互換機ベース)への転換期にあたり、多くのフラグシップ機に採用されました。
国内・海外の主なSlot 1採用モデル
NEC:PC98-NXシリーズ(初期モデル) NECが長年続いたPC-9800シリーズから、PC/AT互換機路線へと舵を切った「新世界標準パソコン」。初期のタワー型「ValueStar NX」やビジネス向けの「Mate NX」にSlot 1が広く使われました。
富士通:FMV-DESKPOWERシリーズ(上位機種) タワー型モデル「FMV-DESKPOWER SV」シリーズなどで広く採用。
ソニー:VAIO(初代デスクトップシリーズ) 初代バイオタワー「PCV-T700MR」など、マルチメディア特化のハイスペック機に搭載。
海外直販系(DELL、COMPAQ、Gateway 2000) BTO黎明期、DELLの「Dimension XPS」や、あの牛柄の箱で一世を風靡したゲートウェイの「Gateway G6-233」など、ハイエンド構成の主力機はほぼすべてSlot 1でした。
伝説の異質スペック機「PC-9821RvII26」
世界標準への移行が進む中、NECの独自規格パソコン「PC-9800シリーズ」の歴史の中で、唯一Slot 1を採用した極めて珍しいモデルが存在します。それが最上位ワークステーション「PC-9821RvII26(98MATE R)」です。
なんとPentium IIを搭載するためのSlot 1スロットを基板上に「デュアル(2基)」で実装。純粋なPC-9800アーキテクチャとしては最も異質なスペックを持つ、レトロPCクラスタにおける伝説の名機となっています。
NEC PC98シリーズ PC-9821RvII26/N20 本体仕様
わずか数年、されど濃密だったSlot 1時代
その後、製造コストの削減やCPUの小型化、そして2次キャッシュをCPUダイへ完全に内蔵できるようになると、CPUは再びソケット型(Socket 370)へと戻り、Slot 1はわずか数年で姿を消すことになります。
しかし、1997年〜1999年頃の「Windows 98ブーム」と、マルチメディアPCの爆発的な普及を支えた主役がこの「ファミコンカセット型CPU」であったことは間違いありません。あのガシャッとCPUを突き刺す感触、今思えば最高に「PCを自作しているワクワク感」に満ち溢れた時代でしたね。

NotebookLMによるスライド資料
NotebookLMによるまとめ記事
ショート動画
NotebookLMによる解説動画
NotebookLMによる音声解説
参考リンクなど
PentiumⅡ
https://landley.net/history/mirror/intel/pcmech/pcmech6.html
https://www.intel.com/pressroom/archive/releases/1997/DP050797.HTM
https://dfarq.homeip.net/intel-pentium-ii-introduced-may-7-1997/
https://www.guutaras-notebook.com/computer/cpu/products/pentium2.html
https://atmarkit.itmedia.co.jp/fsys/pcencyclopedia/010procs_hist04/procs_hist07.html
Slot 1
MMX
ヘッダ画像は、Geminiに描いてもらいました。
#Pentium #Intel #CPU #自作PC #レトロPC #PCの歴史 #Windows98 #Slot1 #PC98 #ガジェット
いいなと思ったら応援しよう!
頂いたチップは記事を書くための資料を揃えるために使わせていただきます!