人間って…
昭和13年に起きた津山事件を題材にしたノンフィクション『津山三十人殺し』(都波昭 著)を読み終え、続いて『ミステリーの系譜』(松本清張 著)に収録されている『闇に駆ける猟銃』を読んだ。
2冊とも市の図書館にそれぞれ1冊ずつしかない資料なので、「汚破損部分があります」という断り書きがある。
重複も多いが、それぞれの視点で事件の全容を明らかにしようと試みていて、両者が補完し合う内容になっている。
奇人変人レベルなら個性で済まされるが、人間ほど得体が知れず、不可解で、予測不能なものはない。
犯人を狂人、変質者、モンスター、サイコパス、そんな言葉で括るのは簡単だ。
この事件は、日本の犯罪史上稀に見る大量殺人事件である。
京都アニメーション放火殺人事件では36人の方が犠牲になった。
それ以前は、津山事件の30人が被害者の数ではワースト記録だった。(明治以降の記録)
犯人都井睦雄は、現在の津山市に位置する山村に生まれた。
2歳で父を、3歳で母を亡くした。
肺結核だった。
姉と共に祖母の手ひとつで育てられた。
欠席は多いものの、学業成績は優秀で、級長も務め、村の秀才として知られていた。
しかし、祖母の反対で岡山の中学には進学できなかった。
高等小学校のときに軽度の肋膜炎と診断され、無気力になり、引きこもるようになる。
一度は悲観的になるが、病気を治すために本を読み、治療にも積極的になる。
悪友に教えられ、津山市や関西方面の遊郭まで出掛けていくようになる。
村は閉鎖的で、夜這いの風習が残っていた。
部落内で関係のあった女性たちに疎んじられ、病気になったことで益々冷たくされたと感じ、恨みを募らせるようになる。
阿部定事件に異常なまでの関心を示し、極秘供述記録をわざわざ取り寄せて読み耽る。
阿部定に憧れのような気持ちさえ抱く。
一方、小説家になりたいという夢も持っていた。
文才があり、希望に満ち溢れた冒険小説を執筆し、子どもたちに読んで聞かせていた。
犯人にも人間らしいエピソードがあり、生まれながらの冷血とは思えない。
優越感と劣等感
被害妄想
偏った性癖
歪んだ自己顕示欲
どれも特別なこととはいえないし、そんな人間は今も昔もいるけれど、どこでどう間違えて境界線を飛び越えてしまったのか。
犯行準備のため、日本刀の他、猟銃免許を取り、関西方面にまで出向き、猟銃や銃弾、匕首など武器の調達をする行動力を見せる。
そのために銀行で借金もする。
兎の狩りをしたり、松の木を標的にしたりして射撃の腕を磨く。
一度は事前に計画が発覚し、警察沙汰になり、武器も取り上げられた。
それでも懲りずにまた準備を進める執念深さ。
近隣の戸締りの状況、事件後、通報までに何分かかるかなど実際に歩き回って下調べまでしている。
決行の夜、電線を切断する周到さ。
部落は停電し、闇に包まれた。
鉢巻に懐中電灯を2本差し、ナショナルランプを吊るし、武器一式を身につける。
映画『八つ墓村』や『丑三つの村』でもお馴染みのスタイルだ。
病気の不安から悲観的になりつつも、多くの女性と関係を持ち、短時間(約1時間)で犯行を成し遂げる異常なまでの体力と気力。
病気だからこそ、刹那的になり、自暴自棄になったのか。
事件後の家宅捜索では、自宅には66銭しか残っていなかったという。
復讐したい
小説家になりたい
大それたことをして、世間をアッといわせたい。
たとえ悪のヒーローだとしても。
祖母と孫の関係も特殊なものだったと思う。
大切に育ててもらった恩もありながら、行動を阻むのはいつも祖母だった。
祖母が生き残る不憫を慮ったとしても、最初の犠牲者であり、手口は誰よりも残忍だ。
小説なら、探偵役が出てきてすべての謎を解き明かしてくれる。
この事件では、犯人を含めて関係者のほとんどが死亡している。
犯人の遺書はあるが、死人に口なし。
生き残った者は自分に都合のいいことしか語らない。
2冊の本を読み終え、人間ほど多面的で底なしで、謎めいたものはないなと、改めて感じた。
(あまりに凄惨な場面は読み飛ばしました)
