星を見る|シロクマ文芸部(1625字)
シロクマ文芸部応募作品です。
よろしくお願いします😊
── 星を見る ──
教会の屋根の瓦が、とん、と音を立てた。
その聞こえないほどの小さな音は街全体に波紋のように広がった。
空から舞い降りた少女の足元から、夜の風が一瞬だけざわりと騒ぐ。遠くで眠っていた虫たちの声が不自然に途切れた。
少女が白い鹿の背に軽く手を添えると、二つの影は光の尾を引く流れ星となって、すーっと夜の屋根の上を滑っていった。月光を弾く銀の毛並みが美しい軌跡を描く。

街で一番大きな屋敷の屋根。少女は煙突に腰掛けて夜空を見上げ、なにやら考えている。
しばらくすると、懐からシャリと音を立てる細長い筒を取り出し、キュッと捻った。
目の前に夜空の星々をそのまま小さく閉じ込めたような、青白い光の図面が空中へふわりと広がる。
少女は空と図面を丁寧に見比べている。

黒天に散らばる光の配列 ── 神様の文字。
その並びをじっと読み解いた少女の瞳が、わずかに細くなった。言葉にならない焦りと不穏な響きが、星の明滅となって暗闇の奥から伝わってくる。
あー
これは焦るよね
少女は溜め息をつくと、トントンと軽やかに瓦を蹴って隣の屋根へ飛んだ。
大雑把なことするからじゃん
どこの神様なん
懐から取り出した水晶をかざす。
指先から青い燐光を弾き、
絡まった光の線を器用に解いていく。

ん、できた
次はあっち
少女の合図とともに、二つの影は再びすーっと風を切り、一筋の光となって別の屋根へ移動した。
街外れの森へ続く道。
少女が人差し指をくるっと回すと、指先から淡い光がこぼれた。
その光が旅人の襟元を撫でる。
足を止めさせた一瞬の隙に、頭上から重い積雪が落ちて崩れた。

少女は振り返りもせず、
次の場所へと滑るように移動した。
みつけた、あれだ
大木の下を目掛けて滑るように移動し、黒い小石を爪先で数ミリだけ転がした。黒い蝶の影がふわりと舞い、どこかに飛んでいく。
遠く離れた森の奥で、一匹のホシカゲロウが目を覚ます。そして、ひとつ、またひとつ。
淡い光が、暗い小径の端に静かに灯っていった。


まにあった
なんとかなったね
うー
あとはあとかたづけか
少女は少し面倒くさそうに、しばらく森と街のあいだを行き来した。動かしてしまった光の配置がほかの場所に影響を残さないようにひとつずつ確かめながら、細かなほつれを元へ戻していく。
月が少し西へ傾くころ、ようやく最後の光が静かに収まると、鹿は角を振って、凛とした鈴の音を響かせた。
宙に描かれた光の糸が引き絞られ、
乱れていた星々がすうっと本来の位置へ収まっていく。
神様の言葉は、再び穏やかな静寂を取り戻す。
作業を終えた少女は白い鹿とともに森の縁を進んだ。
木々を渡る途中、ふと下を見ると、さっきの旅人がひとり、街に戻っていくのが見えた。
やがて、森のそばに建つ小さな家の窓から暖炉の炎が見えた。部屋では小さな女の子がお母さんに抱きしめられている。


あー よかった
うまくいったね
神様にあまり心配かけちゃだめよ
少女がふわっと鹿に乗り、首元を小さく叩くと、
銀色の毛並みが月の光をひとつ弾いた。
白い鹿は森で一番背の高い大杉へ向かって駆け出した。
少女を乗せたまま、幹を蹴り、枝を渡り、するすると梢まで駆け上がり、てっぺんで白い鹿が軽やかに前脚を上げた。
次の瞬間、二つの影は大杉の梢を蹴り、そのまま空へと滑り出し、一すじの流れ星のように光の尾を引き、瞬く星々の間へと鮮やかに溶けていった。

残された街には、穏やかな夜空だけが広がっていた。冷たい夜気の中に、鈴の音のような澄んだ響きがひとつだけ残り、やがて風に消えた。

星々は、まるで最初からそうであったかのように正しくまたたき、眠る街を柔らかく照らしている。
誰も知らない小さな奇跡など気にせずに、街はただ静かに、いつもの深さまで沈んでいく。
小牧幸助様、素敵なお題をありがとうございました、夢を見てるみたいに楽しかったです。
これからもよろしくお願いします🥰
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