羅臼岳ヒグマ襲撃事故から1年、取材を受けて
はじめに
前回は、2026年8月14日11時に息子が襲撃された地点近くの559岩峰で慰霊をしたことを書きました。
この慰霊には、私の友人2名(昨年息子の部屋の引越を手伝ってくれた高校・大学の同級生)と息子の同じサークルの友人3名の私を含めて6名、慰霊している様子を取材されたいというマスコミの方々と、合計13名の大所帯で登りました。途中、すれ違ったソロ登山者は4名ほどだったと思います。
大所帯で登ってご迷惑をおかけしましたm(__)m。
下山後12時頃から、登山口で待機いただいたマスコミの方も含め、質問を頂く形で取材を受けました。その時の受け答えを書きます。
正直に言うと、何を答えたかあまり覚えていませんが、考えは変わっていませんので、現状の意見をまとめます。
質問1)どんな息子だったのか?
人に迷惑をかけるのが嫌い。
時間やお金を無駄にすることが嫌い。
努力を惜しまず、自分に厳しい。
我が息子ながら、「尊敬できる男」でした。
彼は、自分が死んでしまう事より、羅臼岳で事故を発生させたという事を後悔していると思います。この事故について、私が何度も発言を繰り返していることに対し、天国で「親父、うるさい!」と怒っていると思います。
そんな息子です。
質問2)559岩峰で、手を合わせた時に何を思ったか?

あんな深い藪で、急斜面で、ヒグマが上からやってきて、血が噴き出して痛かっただろう、怖かっただろう。助けられなくてごめん。
これが、あの時に言いたかった事です。TV取材を見ると支離滅裂な事を言っていますが、ただ泣いているシーンだけに各社に使われて、辛いです。
同行してくれた私の友人2名と息子の友人の3名。皆いい奴で、私の誘いに応じて、お盆休みを潰して知床まで来てくれた。私の友人2名は高校の同窓生であり、1人は大学も同じで、ことある毎に吞んだりしてましたが、もう1名は、昨年の息子の引越の手伝いに来てくれたのが、高校を卒業して42年振りの再会でした。なのに、今年も仕事を融通して羅臼岳まで来て、一緒に手を合わせてくれた。本当に嬉しく深く感謝してます。
昨年9月21日に開いた息子の「お別れの会」には200名を超える友人が全国から集ってくれました。彼にも何年経っても親交を深めることができる友人が沢山いるのに、友のありがたさを感じるこういう経験を彼もできただろうに、それが彼にはできない。と、あの時突然頭に浮かんで喋ってしまいました。
「親父、うるさい!」と天国で怒っているかもしれません。でも、あの日の本音は、ただ「ごめん」でした。
質問3)今の羅臼岳をどう思うか?
現状 - 美しいが、リスクだらけ

美しい、素晴らしい山だと思いました。北海道の他の山を知らないし、ピークまで登っていませんが、何度も登りたくなる山なんだろうなと思います。
しかしリスクだらけの登山道だと思います。
行政の責任 - 初期報告書の誤報という問題
昨年の事故の原因は、同行者に先行して単独で危険地域に入ったこと、スプレー(熊よけスプレー)を所持してなかったことが原因とされています。しかし、当初の報告書では、被害者が走って降りたことが原因とされていました。後に訂正はされていますが、かなりの人が、被害者が走っていたから襲われたからであって、走らずに慎重に降りれば、ソロでもスプレーを持っていなくても大丈夫だという認識があるのではないかと推測します。
これは初期報告書で事実かどうかも分からないのに、大々的に報じた行政の責任だと思っています。根拠なき情報を事実のように流布すれば、登山者は誤ったリスク認識を抱きます。これは二度と起こしてはなりません。
対策会議の最終報告について - 前進と残る課題
3月末に公表された知床ヒグマ対策連絡会議の最終報告には、二つの前進がありました。
一つは、問題個体の判断基準の設定です。もう一つは、登山道を閉める基準(開ける基準)の設定です。1年前、行政に対し何故閉めなかったのですかという質問をすると、「閉める根拠となるルールがなかった」という返答がありました。1年前にこれがあれば、息子は山に登れず悲しんだでしょうが、事故は起きていなかったと思うと非常に複雑です。
その一方で、報告書はわざわざ他の人が書いた文書を引用してまで、登山のリスクについて記載しています。これは正論ですが、ハッキリいって解せない。リスクは状況を認識してこそ管理できるもの、また許容できないリスクもあると思います。(許容レベルは個人ごとに異なる)
また、羅臼岳は山岳であると同時に世界自然遺産内の観光地でもあります。様々なバックボーン、知識、技術の登山者がいるのに一方的情報"発信"では、管理側が考える「登山者のリスク認識」はできないし、今年再開してからもリスク認識ができていない状況は、アンケートにも現れていると思います。
登山現場の実態
今回も同行してくれた朝日新聞のH記者さんが、少し前に登山者数名にインタビューをした記事を書いておられました。
相変わらずソロ登山者が多い
2,000円の熊スプレーを所持している人
スプレーすら所持せずに登山されている人がいる
また、今回、野生動物を管理する会社を立ち上げたK氏と話をしました。彼が財団で働いていた頃、岬で複数人で鹿を追っていた時、危険エリアを避け慎重に足を進めていたにも関わらず、前方の茂みからヒグマが現れ、1回目の積極的攻撃で顔と腕に傷を負ったが、2次攻撃に合わせてスプレーを噴射して大事に至らなかったという経験を聞きました。周辺にヒグマが守りたかった何かがあったのか調査したが見つからず、あの積極的攻撃の原因は未だに不明というお話でした。ただ、その経験はKAZU I(カズワン)の事故から1年2ヶ月後だったようです。
羅臼岳で行方不明になっている方は、数人いるとお聞きしました。正確な数字は、誰に聞いても分かりません。警察に聞いても教えて貰えませんでした。自殺をしに来て山で亡くなる人も少なからずいるようです。山中で行方不明、自殺を図った方々は、ヒグマに食害される可能性は高いと考えます。
SH親子(2025年8月の羅臼岳襲撃事件後に駆除された親子グマ)が駆除されたからといって、人を食害したヒグマはゼロかどうかわかりません。昨年の8月12日に付き纏ったヒグマ、今年の7月9日にスプレーをかけて逃げて行ったヒグマ、そのヒグマたちの行方はわかりません。
行政への3つの要求

羅臼岳には、積極的攻撃をする問題個体は、常に生息している。
この前提で山に登らなければなりません。その事を、行政は登山者に周知せねばなりません。それが出来ているとは到底思えません。
要求1:問題個体の常時生息を前提とした周知徹底
要求2:ソロ登山禁止/スプレー所持の義務化
ソロ登山禁止。スプレーを保持していなければ登山禁止。これが最低条件です。
要求3:根拠なき情報の拡散防止
初期報告書のような、確証のない情報を事実のように報じることは二度と起こしてはなりません。
読者への呼びかけ
これを行政には実現して欲しいです。私の願いです。
そして皆さんには、声を上げていただきたい。知床で何が起きたかを、忘れないでいただきたい。
「親父、うるさい!」と天国で怒られるかもしれませんが、一人で声を上げ続けても、行政は動きません。皆さんの声が要るのです。
最後に
リスクだらけの山だという認識は十分に持って559岩峰に向かいました。登りはそれなりに、注意して進んでいたと思います。しかし、岩峰での素晴らしい景色をみて、慰霊を成し遂げたという達成感を味わってしまうと、人間というのは気が緩むのでしょうか?惰性で笛を吹いたりしてましたが、ハッキリ言って下山中にヒグマに出会うかも!?という気持ちはこれっぽっちもありませんでした。
付録:昭和の羅臼平 - 戻してほしい山の姿

私の年代が小学生だった頃、羅臼岳は羅臼町の小学生の遠足の地でした。親や猟友会の方々も同行されていたようですが、小学生が走り回る羅臼岳だったようです。その頃は、ヒグマを目にすることが無かったと、羅臼町猟友会会長はおっしゃってました。小学生の会長が釣りをしながら山深く入っていっても安全な山だったと。
行政が今やるべきことは、問題個体を増やさないこと。できれば人を食害した問題個体をゼロにして、かつて小学生が走り回れた、そんな山に戻ってくれればいいのになとも思います。
以上
