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自転車で、島を周るつもりだった

波の音が、両サイドから聞こえる。ぬるく温まった風が私を包み、吹き抜けていく。下地島にいる。

飛行機を降りた瞬間、おののいた。身体が初めて感じる、強すぎるほどの日差し。吸った空気まで熱い。出口のないサウナに放り込まれたみたいだ。

私の地域はまだ梅雨も明けていないのに、滑走路の向こうには蜃気楼が立ち上っている。

自転車は、無理だ。
ようやく気づいた。

そう、私たちはこの島を、自転車で周るつもりだった。
この場に立ってみて、その考えがどれほど馬鹿馬鹿しいか、よく分かる。

タクシーを呼び、ホテルへ向かう。一縷の望みを託して、念のため聞いてみた。
「自転車で移動したり、できますかね」

かりゆしのシャツを着た運転手さんが、「自転車はやめときよー」と断言して、笑った。「そうですかねー」私もつられて、イントネーションが勝手に訛っていた。

どうしよう。レンタカーも、貸切タクシーも、もうない。来る前に、浮かれすぎていたようだ。

仕方なく、行く先々でタクシーを呼ぶことにした。
1回目、またあのかりゆしのおじさんが来てくれた。2回目も、あのおじさんだった。

運命というか、この島で今日タクシーを走らせている人がかなり限られているらしく、このまま一日過ごせば、本日の運転手さん全員とマッチングしてしまいそうだ。

3回目、おじさんが「次、どこ行くのぉ〜?」「ちょっと待たせちゃうけどよぅ、また戻って来ようかねぇ」と言ってくれた。ありがたく、お願いした。

4回目、迎えに来てくれたときにはもう、厚かましくも、半分は身内みたいな感覚になっていた。おじさんのタクシーが見えると、ホッとする。

14時をまわり、そろそろ一日が終わってしまう時間になった。
朝から私たちは、食堂と、さたぱんびんしか食べていない。それを、おじさんも知っていた。

だからなのか、「島を一周するのは、どうねぇ」と、控えめに提案してくれた。
浜や丘の地名を挙げ、観光ルートを組んで、ドライブが始まった。

下地島から伊良部島へ、橋を渡る。二つの島は、一本の橋で繋がった双子だった。

漁港から、漁師町を抜けていく。斜面には、カラフルな家々。
しばらく進むと、風に揺れる木々が両側に広がる一本道になり、夢にまで見たサトウキビ畑や、ハイビスカスの絨毯を抜けていく。
緩やかな丘を登ると、コバルトブルーと、断崖絶壁の大パノラマ。

最後に、亜熱帯の木々が生い茂る森へ向かった。
おじさんが、サプライズで「知る人ぞ知る」場所へ連れて行ってくれた。

ジャングルのような道をかきわけて歩いた先に(……もう、タクシーにさえ乗っていない)、絶景が広がった。
たぶん、今のところ人生で一番のベストビューだった。

コバルトブルーと、深い緑の濃淡が、マーブル模様のよう。
空にあるすべてが、透き通る海に映り込み、ウミガメが海面にところどころ顔を出しては、何かしている。

海、森、風、ウミガメ。
自然が会話しているなかに、ちっぽけな人間が、木々の隙間から覗き見している。
どこか厳かにさえ感じるその空気に、言葉を発することもできず、息を飲んだ。

忘れられない景色と一緒に、一日中付き合ってくれたおじさんの笑顔が、刻まれてしまった。

この日の写真。姉妹で行ったはずなのに、なぜか、おじさんも時々、写っている。

下地島にまた行きたい。そしてなぜかまた、おじさんに会いたい。

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