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直感が先か、論理が先か v2


すべてにおいて、感覚や直感が先にきている
ロジカルは受け手のためにあるもの

ある動画の中で出会った言葉です。論理立てられた説明は、受け取る側にとって確かに重要。しかしその論理よりも先に、人は直感で物事を捉えている。この言葉に、強く共感しました。

直感と論理。どちらが先に立つのか。整理してみたいと思います。




直感は論理より先に立つ。「0.2秒」の根拠を辿る

人は物事を捉えるとき、最初のわずかな時間で「直感的に」取捨選択を行い、そのあとで「論理的に」取捨選択を行う。私はこれを「0.2秒の法則」と呼んでいました。

この法則について調べてみると、実証研究はむしろ「0.2秒よりも速い」ことを示していました。人は他者の顔を0.1秒見ただけで信頼性や好感度を判断し、その判断は時間をかけた場合とほとんど変わらない(Willis & Todorov, 2006)。Webページに至っては、わずか0.05秒で美的な第一印象が形成される(Lindgaard et al., 2006)。意識が追いつくより、はるかに手前での出来事です。

ではなぜ、人はそれほど速く判断できるのか。認知科学は、人の思考に二つの系があると考えます。速く・自動的に働く直感的な系(システム1)と、遅く・分析的に働く論理的な系(システム2)です(Kahneman, 2011)。さらに古くは、感情は認知に先立って立ち上がりうる、とも論じられてきました(Zajonc, 1980)。

「直感が先」というのは、人の認知の仕組みに根ざしたものでした。


作り手は、逆の順番を生きる

受け手が感覚を先に使うとすれば、作り手は逆の順番を生きています。

多くの人の目に触れるものをつくる過程では、社内外の関係者にコンセプトやデザイン意図を論理的に説明しなければなりません。しかしそれがリリースされ、自分の手を離れたあとは、受け手の直感に選ばれる必要がある。

論理でつくり、感覚で選ばれる。この非対称を引き受けることが、つくる仕事の核にあるように思います。


論理は、他者のためにある

論理の役割とは何か。それは「他者に説明するため」にある。

僕は天才ではありません。なぜかというと、自分が、どうしてヒットを打てるかを説明できるからです。

(引用:『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか』)

言語化できるということは、再現性が高いということ。組織やチームで働くなかで、属人化を避けるために言語化は欠かせません。

ただ、感覚と論理のどちらが先かと問えば、おそらく「感覚が先」です。熟達した実践者は、言葉にできる以上のことを身体で知っていて、その「行為の中の知」をもって判断している(Schön, 1983)。『熟達論』のフレームも、"遊"から始まります。

私も幼い頃、毎日のように絵を描くうちに、いつの間にか上手く描けるようになっていました。当時はなぜ描けるのかを説明できませんでしたが、今ならその工程を言葉にできる。

感覚が先に立ち、論理が後から追いつく。その順番です。


感覚は、磨くことができるのか

論理が重要であることは間違いありません。しかし人は感覚を先に使い、感覚で選んでいる。とすればデザイナーは、直感に選ばれるための「感性」を磨かなければなりません。

ここで難しいのは、「美」の境界線です。

デザイナーやユーザーは「いい形」という状況をなんとなく共有しているが、善し悪しには明確な理由がない。美を定義するには困難をきわめる。

(引用:『進化思考』)

美しいと感じるものは、他者と共通していることが多い。大自然の風景や、夜の灯り。しかし「これは美しい/これは美しくない」と分ける線は、明確ではありません。

それでも、デザイナーはこの境界に向き合う必要があります。正解のない問いに、自分なりの答えを出し、ゴールを設定する。それがデザイナーの持つスキルです。

人は物事を相対的に捉えています。知らず知らずのうちに、過去に見てきたものと比べている。頭の中に蓄積された膨大な「感覚のデータ」によって、綺麗・可愛い・格好良いと直感で判断している。美的経験の研究も、初期の知覚は暗黙的・直感的に進み、その後に意識的な評価が続く、という段階を描いています(Leder et al., 2004)。

感性とは、磨かれた感覚のデータベースなのかもしれません。


直感でとらえ、ロジックで定着する

デザイナーが生み出すべきものは、直感で選ばれる感度の高さと、論理で他者に説明できる明晰さの、両方を備えたものではないでしょうか。

直感でとらえ、ロジックで定着する

(引用:「六本木未来大学」第20回 原研哉さん講義レポート)

まず直感でとらえ、次に論理で定着させる。この順番を意識するだけで、生み出すものは変わっていく気がします。感覚と論理は、対立するものではない。順番を持った、ひとつの流れなのだと思います。

私は今後も、
・直感で選択される、高い感度の
・論理的に他者へ説明可能なデザイン

これを目指していきたいです。




参考文献

直感が論理より先にくることを示した古典

Zajonc, R. B. (1980). "Feeling and Thinking: Preferences Need No Inferences." American Psychologist, 35(2), 151–175. 人が何かを「好き/嫌い」と判断するとき、その判断は認知的な分析よりも先に、感情として瞬時に立ち上がる。「感覚が先、論理が後」という主張の学術的原点となった論文。

Damasio, A. R. (1994). Descartes' Error: Emotion, Reason, and the Human Brain. Putnam.(邦訳『デカルトの誤り——情動、理性、人間の脳』筑摩書房) 意思決定の場面で、身体に蓄積された感情の記憶(ソマティック・マーカー)が無意識のうちに選択肢を絞り込んでいる、と論じた脳科学の代表作。記事中で触れた「頭の中に蓄積された感覚のデータ」に最も近い枠組み。

Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.(邦訳『ファスト&スロー——あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房) 人の思考を、速く直感的なシステム1と、遅く分析的なシステム2に分けて整理したノーベル賞経済学者の代表作。記事中の「0.2秒の法則」と最も近い理論的枠組み。

美的経験を段階的に捉えたモデル

Leder, H., Belke, B., Oeberst, A., & Augustin, D. (2004). "A model of aesthetic appreciation and aesthetic judgments." British Journal of Psychology, 95, 489–508. 美的経験を「知覚分析」「記憶との統合」「明示的分類」「認知的習熟」「評価」の5段階で説明する情報処理モデル。前半は暗黙的・直感的に、後半は意識的・論理的に処理されるという構造を示しており、記事の「直感→論理」を学術的に精緻化したモデルといえる。

Leder, H., & Nadal, M. (2014). "Ten years of a model of aesthetic appreciation and aesthetic judgments: The aesthetic episode." British Journal of Psychology, 105(4), 443–464. 上記モデルの10年後のアップデート版。脳科学の知見を踏まえてモデルが拡張されている。

デザイン領域における直感と論理

Norman, D. A. (2004). Emotional Design: Why We Love (or Hate) Everyday Things. Basic Books.(邦訳『エモーショナル・デザイン——微笑を誘うモノたちのために』新曜社) デザインを「本能的(Visceral)」「行動的(Behavioral)」「内省的(Reflective)」の3層で捉えるモデル。第一印象に関わる本能的レベルと、意味づけに関わる内省的レベルの区別は、記事で書いた「直感で選ばれる/論理で説明する」という二層構造とよく対応する。

Schön, D. A. (1983). The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action. Basic Books.(邦訳『省察的実践とは何か——プロフェッショナルの行為と思考』鳳書房) 熟達したプロフェッショナルは「行為の中の知(knowing-in-action)」という暗黙的な判断力をもって仕事をしている、と論じた古典。記事で触れた打者の「先に感覚があり、後から言語化できる」という構造を理論化した一冊。




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