建設業界の「きつい」は、もう半分ウソで半分ホント。──取引先84社の残業データを開いてみた
建設業界への転職を考えている人と話すと、必ずと言っていいほど出てくる言葉があります。
「興味はあるんですけど……やっぱりきついですよね?」
長時間労働、休みが少ない、古い体質、上下関係が厳しい。建設業界にこういうイメージがあるのは事実です。
そして、そのイメージを「まったくの誤解ですよ」と軽く否定するのは、私はしたくありません。かつては実際にそういう現場が多かったし、今も業界全体が理想的になったわけではないからです。
でも同時に、この2〜3年で現場が本当に変わり始めているのも事実です。だからこの記事のタイトルは「半分ウソで半分ホント」。
ただ今日は、それを印象論では語りません。私たちが実際に取引している企業の、残業時間や年間休日の実データを開いて、数字で確かめてみます。ネットの一般論ではなく、私たち自身のデータベースからしか書けない話です。
(前回の「施工管理って、結局なにをする仕事?──図解でわかる「建設業界の構造地図」」を先に読んでいただくと、今回の話がより立体的に見えるはずです)
まず前提:「2024年問題」で、業界は変わらざるを得なくなった
変化のいちばん大きなきっかけが、いわゆる「2024年問題」です。
これまで建設業に猶予されていた時間外労働の上限規制が、2024年4月から本格的に適用されました。残業は原則として月45時間・年360時間まで。特別な事情があっても年720時間が上限で、違反した企業には罰則もある。ざっくり言うと「もう、青天井の残業はさせられません」というルールが、法律として現場に効くようになりました。

そしてもうひとつ、法律と同じくらい大きな力が働いています。人手不足です。
日々企業の採用のお手伝いをしていて感じるのは、いま建設業界の会社にとって、残業を減らすことは「コンプライアンス対応」ではなく「採用戦略」そのものだということです。残業が多い会社には、人が来ない。人が来なければ、いまいる人がさらに忙しくなり、辞めてしまう。この悪循環を断つために、経営判断として本気で残業を抑えにいっている会社が、私たちの取引先でも大半を占めます。
「法律だから仕方なく」ではなく「人に選ばれるために」変わっている——ここが、外からは見えにくい業界のいまです。
では実際どうなのか。取引先の残業データを開いてみた
「変わってきている」と言葉で言うのは簡単です。なので、数字をお見せします。
私たちは紹介先の企業ごとに、ヒアリングした月平均残業時間をデータベースに記録しています。そのうちデータを確認できた分布が、こちらです。

中央値は月20時間。1日あたりに直すと約1時間の残業です。月20時間以内に収まる会社が61%、月30時間以内まで広げると89%。そして、法律の原則上限である月45時間を超える水準の会社は、84社中わずか3社(4%)でした。
正直に言うと、この数字は私たち自身も集計してみて「ここまで来ているのか」と思いました。「建設=残業だらけ」というイメージで語られる業界の、少なくとも私たちが紹介先として付き合っている会社の実態は、もうこの水準にあります。
念のため補足すると、これは業界全体の統計ではありません。私たちが「求職者に紹介できる」と判断して取引している企業の集計です。ただ、だからこそ意味があるとも思っています。ちゃんと選べば、この水準の会社に入れるということだからです。
休みと育成体制も、同じデータベースから見てみる
残業だけではありません。8割の会社が年間休日120日以上でした。120日というのは、土日をしっかり休んで、祝日も休む「完全週休二日+祝日」に相当する水準です。

あわせて、未経験からの受け入れ体制も見てみると、86%の会社が何らかの形で未経験からの入社が可能(完全未経験可64%+業界経験があれば職種未経験可23%)。資格取得の支援制度がある会社は、データを確認できた企業の9割超にのぼります。人手不足の裏返しでもありますが、「未経験を採って、育てて、定着してもらう」方向に業界全体が動いている——データがそれを裏付けています。
とはいえ、正直に言っておきたい「半分ホント」の話
ここまで良い数字を並べてきましたが、「だから全部バラ色です」と言うつもりはありません。同じデータを、逆側から見てみます。
残業の分布をもう一度見ると、月10時間以下のほぼ定時の会社がある一方で、月50時間、60時間という会社も少数ながら存在します。年間休日も、120日以上が8割いる一方で、110日未満の会社が9%ある。同じ「建設業界」の中に、働き方のまったく違う会社が混在している——これが、データから見えるいちばん正直な実態です。
天候に左右される、繁忙期には忙しくなる、といった仕事の性質そのものは変わりません。だから「建設業界はきつい/きつくない」を業界全体で語るのは、もう実態に合わなくなっている。問われるべきは「どの会社の、どの現場か」。だからこそ、会社選びの重要性がこれまで以上に上がっています。
「きついかどうか」より「自分に合う会社を選べるか」
まとめると、建設業界は「昔のイメージのまま」ではないし、かといって「もう全部改善された」わけでもない。変化の途中にあって、良い会社とそうでない会社の差が開いている、というのがデータの示す実態です。
これは見方を変えると、情報を持って選べば、ちゃんと働きやすい環境に入れる時代になってきた、ということでもあります。逆に、イメージだけで避けたり、求人票の言葉だけで飛び込んだりすると、当たり外れが大きい。
では、何を確かめればいいのか。私たちが普段の転職支援でも必ず確認している、5つのポイントを挙げておきます。

休みは本当に取れているか。残業の実態はどうか。離職率と定着の状況。DX・ツールへの投資をしているか。そして、未経験者を育てる体制があるか。——どれも求人票の文字面だけでは判断しづらい部分です。
私たちは今日お見せしたように、企業ごとにこうした実態をヒアリングしてデータで持っています。「きついのが不安で踏み出せない」という段階の方こそ、まず実態を知ってから判断してもらえたらと思っています。イメージだけで選択肢を狭めてしまうのは、もったいないので。
(次回は、実際に異業種から建設業界に飛び込んだ人のリアルな転職ストーリーをお届けします。「もう28だし、文系だし」——そう言っていた彼の、1年後の話です)
