【入院生活3日目】推しは勝つ
マーマレードは、好きぃー?
食ーべーれーるー?
朝から廊下に響き渡る、看護師さんの大きな声。
その声で目が覚めた直後、
ぶぅーーーーーーーーーーーーー!!!
今度は同室の方の特大のおならが病室に響き渡った。
……朝からなんなんだ、この環境は。
昨晩から続くカオスな状況に、ベッドの上で思わず笑ってしまった。
安眠のためには個室に移りたい。
でも、
『このおもしろ環境がなくなると思うと、ちょっと寂しい』
と思ってしまう自分もいる。
連日の寝不足で、とうとう感覚がおかしくなったのかもしれない。
とはいえ、いびきには限界を感じていたので、
担当の看護師に個室への移動希望を伝えた。
そして、この日の私にはもうひとつ、絶対に譲れない予定があった。
10時10分、山本由伸登板。
9時30分、「今から入浴に行きませんか?」と声をかけられる。
3日ぶりの入浴を猛スピードで済ませ、
なんとかプレーボールに間に合った!
……と思ったら、テレビに表示されたのは、
”受信エラー”
医療行為以外でナースコールを押すのは、さすがにどうかと思った。
でも、由伸の登板が始まる。
意を決してナースコール。
テレビは映るようになった。
よし、これで由伸が見られる!
BSボタンを押す。
……また受信エラー。
「昨日の部屋では映ったのに、なんでやねん!」
普段の私なら、患者という立場もあってテレビを観るのを諦める。
しかし、今日は違う。
週1回の山本由伸(推し)の登板がかかっている。
少しためらったが、再びナースコールを押し、
「BSが映らないんです」
と訴える。
他の部屋では映ることが確認され、ようやく対応してもらえることに。
廊下から、
「今度はBSが映らへんって言われて〜。」
という声が聞こえてきた。
きっと申し送りでは、
「あの患者はBSが映らないくらいでナースコールを押してくるから要注意!!」
と言われているに違いない。
でも、こっちはテレビカードを買って、
お金を払って観ようとしているのである。
正当な権利を主張して何が悪い。
……というか、由伸の登板始まってるから、はよして!
そんな私の執念が通じたのか、その直後、
「個室希望されてましたよね?
今から移動しましょう。」
と声がかかった。
由伸のおかげで、予定より早く個室へ。
その後は個室でドジャース観戦。
由伸は好投したものの、試合は残念ながら逆転負け。
それでも、個室の快適さといったらない。
ドアは閉まる。
いびきも叫び声も聞こえない。
プライバシーも守られる。
テレビもヘッドホンなしで観られる。
最高である。
こんなことなら最初から個室にすればよかった。
……と思ったけれど、
それでは今までのホラー&コントのような出来事には出会えなかった。
そう考えると、ちょっと惜しい気もする。
点滴を3日間投与し続けても、
どうやら私のお笑いの血は薄まらないらしい。
そして、もうひとつ。
普段なら「まあ、いいか」と引き下がる私が、
今日は由伸のためにナースコールを2回も押して、自分の希望を主張した。
どうやら私は、入院中も少しずつ変わっている。
「我慢する私」から、「大事なもののためには、ちゃんと主張する私」へ。
そして、この個室への移動が、「人生の快適さ」に対する私の考え方までアップデートすることになるとは、このときの私はまだ知らなかった。
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