「俺も終わってないわぁ」の嘘に隠れた心理。夏休み最終日の会話
よくある光景
夏休み最終日。
A君「夏休みの宿題終わってないわぁ~」
B君「俺も終わってないわぁ~」
と言いながら、完璧に宿題を終わらせて来るB君
毎年8月31日のよくあるやりとり。
こんな友達いましたよね。
なぜB君はA君に合わせてくれたのでしょう?
そんなB君の心理を考察したいと思います。
「終わってない」は本当に多数派か?
まず気になるのが、この会話の情報としての信憑性ですね。
まず他者に話を合わせるという視点からすると、
スコット・ペイジの提唱する多様性予測定理に、こんな式があります。
集団の誤差 = 平均的な個人の誤差 − 意見の多様性
集団が正しい現状認識にたどり着くには、
個々の意見が「バラけている」ことが重要になる。
全員が同じ間違いをしていれば、誤差はない。
こんな様な話です。
A君はB君を自分と同じと認識してます。
もしここに「もう終わったよ」と言ってしまうと、
「え、終わってる人もいるの!?なんやコイツ!」
と思うかもしれません。
しかし多様性ゼロのこの会話では、
A君の宿題への楽観視が更に強化されます。
「終わってない」と言うと、なぜ安心するのか
皆さんはミルグラム実験てご存知ですか?
ミルグラム実験:1963年にイェール大学の心理学者スタンレー・ミルグラムが行った、権威への服従を調べる実験。
実験の仕組み
参加者は「教師役」として、別室にいる「生徒役」(実は実験協力者=サクラ)に単語のペアを暗記させる課題を出します。
生徒が間違えるたびに、教師役は電気ショックを与えるよう指示する。
電圧はミスのたびに上がっていき、
最終的には危険・致死レベルを示す450ボルトまで用意されていました。
実際には電気は流れておらず、生徒役は苦しむふりをして、
悲鳴を上げたり「もうやめてくれ」と懇願したりする演技をします。
それでも白衣を着た権威のが「続けてください」と淡々と指示すると、
参加者の多くはためらいながらも指示に従い続けました。
結果
事前の予想では、最後まで電圧を上げ続ける人はごく少数だろうと考えられていました。
しかし実際には、参加者の約65%が最後まで指示に従ったという衝撃的な結果になりました。
何がわかったか
この実験が示したのは、人は残酷な性格だから残虐な行為をする。
のではなく、
正当な権威の指示があれば、普通の人でも良心に反する行動を取ってしまう
ということです。
ミルグラム自身、ナチスによるホロコーストで多くの「普通の人々」が、
加担した現象を理解したくて、この実験を計画したと言われています。
派生実験も豊富
その後ミルグラムは条件を変えた派生の実験では
実験者が電話越しに指示すると服従率は大きく低下。
権威が白衣の専門家ではなく普通の人だと服従率が急落。
一緒にいる仲間(サクラ)が指示に逆らうと、
参加者の服従率も10%程度まで激減。
といった結果が出ています。
状況が人の行動を大きく左右する、
という社会心理学の重要な出発点になった実験です。
ミルグラム実験の派生に、
自分以外の実験協力者が指示に逆らう様子を見ると、
本人の服従率が大きく下がるという結果があります。
人は「自分だけじゃない」と確認できた瞬間、
規範から外れる心理的コストが一気に下がるという事ですね。
もしB君の宿題が終わってなかったら
A君が先に「終わってないわぁ」と言ったことで、
B君は「俺だけがダメ人間じゃない」という社会的証明を得る。
一人なら焦って机に向かうところが、
二人になった瞬間に責任が分散し危機感が薄まる。
もしB君の宿題が終わっていたら
印象操作という選択
もしB君が「え、俺もう終わったよ」と正直に言えば、
A君は「自分だけかぁ・・」とテンションが下がり、
気まずさを感じるかもしれない。
B君はそれを察知し、正直さより場の空気を守ることを選んだ。
これは社会心理学でいう自己呈示の一種になります。
事実を知った上での同調
1956年にソロモン・アッシュが提唱したアッシュの同調実験では、
「間違った答えでもみんなが言うと自分も同じ答えを言ってしまう」
現象を示しました。
B君は知った上で話を合わせている。
これは同調というより、
「本当は違うけど、あなたと同じ側にいますよ」
という優しい嘘に近いかもしれません。
相手を下方比較の対象にしない配慮
レオン・フェスティンガーが1954年に提唱した、
社会的比較理論では、
人は他者と比べて自分の状態を評価するとされる。
とあります。
B君が「終わった」と言えば、A君にとってB君は上方比較の対象になり、
プレッシャーを与えてしまう。
B君の嘘は、それを避けるための配慮とも見れます。
まとめ:嘘は保身ではなく、関係のコスト計算
B君の嘘は、自分を守るためのものではない。
「正直な優等生」でいるより、
「一緒にダメな奴でいてくれる友達」でいる方が、
この瞬間の人間関係においては価値が高い
そう無意識に判断した結果だと言えるかもしれません
何気ない夏休み最終日の一言にも、
人間関係を円滑にするための無意識な計算が働いている。
そう考えると、B君はなかなか良い奴なのかもしれませんね。
さいごに
と屁理屈こねてきましたが、実のところB君は、
A君の不幸アピールのマウントをとっていた可能性もあるw
いや、こっちの方が多数かもしれない。
もし宿題に追われてる学生が読んでたら、
この記事のネタ自由研究にでも使ってください。
いや、読んでる暇あるなら宿題を終わらせましょうw
まぁ宿題が終わってなくても元気いればそれでいい。
それでは今回はこの辺で。

でも子どもにとって、遊びこそが真剣な学びなのだ。
遊びこそが子ども時代の本当の仕事なのである。
フレッド・ロジャース『ミスターロジャースのご近所さん』より
fin
参考文献・出典
Stanley Milgram『服従の心理 ― アイヒマン実験』(邦題、山形浩生訳、河出書房新社/原著 Obedience to Authority: An Experimental View, Harper & Row, 1974)
― 権威への服従に関する一連の実験と、仲間の反抗が服従率を大きく下げる変化条件(反抗する仲間が2人いる条件で服従率が約10%まで低下したとされる)について。Scott E. Page『「多様な意見」はなぜ正しいのか ― 衆愚が集合知に変わる時』(邦題、水谷淳訳、日経BP社/原著 The Difference: How the Power of Diversity Creates Better Groups, Firms, Schools, and Societies, Princeton University Press, 2007)
― 「多様性予測定理(Diversity Prediction Theorem)」の提唱元。集団の予測誤差が個人の平均誤差と意見の多様性で決まるとする議論について。Solomon Asch, “Opinions and Social Pressure,” Scientific American, 1955
― 同調行動に関する古典的な実験研究。Leon Festinger, “A Theory of Social Comparison Processes,” Human Relations, 1954
― 社会的比較理論の原論文。
※ 本記事は上記の理論・実験結果を参照しつつ、A君・B君の会話に独自の解釈を加えた考察記事です。学術的な厳密性より読み物としての面白さを優先しています。
