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賀茂幻妖は実在した!? 「城劇」を真面目に考察する


⼆条城桜まつり 2026 夜間事業『城劇』 陰陽師瑞希の時空戦記・寛永行幸を救え が無事千穐楽を迎えまして、ネタバレを気にする必要もなくなったので、ちょっと真面目に物語を考察します。

ちなみに、こんなことを調べ始めたきっかけは、九条義景役のカバーキャストである生島君からの「この時代の安倍晴明の子孫は何してたの?」という素朴な疑問からでした。

安田監督にもこの話をしたところ「幻妖と戦って負けたのではないか?(それがきっかけで幻妖は追放された?)」というような感じになったのですが、これでは考察と妄想の境目がなくなる「脚本書いた人、絶対そこまで考えてないよ」状態に他なりません。

それならば、腐っても国文学徒であり学芸員持ちの僕が考えてやるべえと色々調べたところ、まさかの幻妖(のモデルとなる人物)は実在したのではないか、という結論になりました。

さすが安田監督。隙がない。

※なお、この記事は安田監督に聞いたものではなく、あくまでいちファンの目線から見た個人的な考察(こじつけと妄想)です。

制作・二条城桜まつり2026ライトアップ実行委員会
脚本・演出・安田淳一

幻妖は実在した!?

安倍家と賀茂家

まず前知識として、安倍家と賀茂家はどちらも平安時代から続く陰陽師(官職としての陰陽頭)の二大宗家であり、時代(当主)によってはバチバチのライバル関係でもありますが、もともとは賀茂家の方が格上(安倍晴明は賀茂忠行・保憲の弟子)でした。

安倍晴明の時代(平安時代)に、当時の陰陽道のトップである賀茂保憲が暦、陰陽道のうち、暦道(政府の暦や時間の管理)を賀茂光栄、天文道(天文学や気象観測。今でいう気象庁・国立天文台の前身)を安倍晴明に継がせ、賀茂家と安倍家の二大体制となります。

余談ですが、暦に通じる賀茂家の幻妖が「未来から陰陽の使い手がやってくる」という予知を的中させ、天文に通じる安倍家の瑞希の必殺技が「雷」であるのはまことに理に適っています。

さすが安田監督。隙がない。

寛永3年の安倍家と賀茂家

では物語の時代である寛永3年頃の両家がどうだったかというのを調べてみると

安倍家は、土御門家と名を変えて陰陽道宗家を引き継ぎ、権勢を振るいますが、なんとこの時代の当主である土御門泰重は一時的に陰陽道から身を引いています。

事情は、後水尾天皇とその母である近衛前子(義景が仕える近衛家)の側近としての業務に忙殺され、陰陽師の仕事が疎かになっていたからだそうです。

当初の疑問が早くも氷解してしまいました。

この時、安倍晴明の直系子孫は何をしていたのかというと、陰陽師辞めてた!

これで、幻妖を止めるために奔走していたのが陰陽師の安倍家ではなく近衛家(天皇の母方の実家)とその配下である九条家の義景だったことの説明がつきます。

では対する賀茂家はというと、こちらも勘解由小路家と名を変えて存続していましたが、何とまさにこの時代に、当主賀茂在昌の跡取りである勘解由小路在信が消息不明となり、賀茂本家は断絶します。

しかも在昌と在信親子については謎が多く、在昌は陰陽師でありながら勘解由小路家を出奔してキリシタンになったという説もあり、跡取り不在となった勘解由小路家の当主は一旦、土御門家からの養子である久脩(在綱)が継ぐも、今度は土御門家の跡取りが不在となり、久脩(在綱)が土御門家に復帰するという複雑な経緯があります。

その後在昌が勘解由小路家に戻り、陰陽頭に就任したと思われます(御湯殿上日記・歴名土代)が、その子と思われる在信については記録がほとんどなく、慶長10年(1605)に堺にいたという慶長日件禄の記録が最後となります。

一方、安倍家の分家である幸徳井家が賀茂氏の養子となり、賀茂氏の分家として陰陽道を継承しています。

元和4年(1618)、先述の通り、安倍本家の泰重が陰陽道から一時的に引退、後任として幸徳井友景が陰陽頭に就任します。

つまり、物語の舞台となった寛永3年(1626)の陰陽頭は賀茂家分家(血統としては安倍家の分家)の幸徳井友景であり、安倍家の本家(土御門家)、賀茂家の本家(勘解由小路家)はいずれも表舞台に出てきていません。

ややこしくなってきたので考察の結論に入ると

幻妖の正体は、賀茂本家の血筋で最後の人物でありながら、この時代に歴史から消えた勘解由小路在信ではないか?

と思うのです。

まず、幻妖のキャラクター設定で判明している事実を考えます。

  • 賀茂家の子孫

  • かなりの陰陽の術の使い手

  • 荒れ寺を根城にするなど落ちぶれているが服装などから元は貴族

  • 寛永3年(1626)時点で宮中から追放状態

  • 寛永3年(1626)に40代以上

  • 天皇家に対する恨み

  • 悪い


勘解由小路在信はこれらの設定に当てはまるのでしょうか?

在信は賀茂家直系の最後の当主と思われながら、歴史書に記録がほとんど残らない謎の多い人物です。

1605年には成人していたことを考えると、1626年に40代というのは設定年齢に当てはまります。さすが安田監督。隙がない。

しかし、普通に陰陽師として宮仕えをしていたらベテランとなり出世しているはずの40代の時期に、何故か全く記録がありません。

さらに、賀茂本家の血筋でありながら、分家でありしかもライバル安倍家の血を引く幸徳井家に陰陽頭の地位を奪われています。

父、在昌の代で陰陽道宗家としての勘解由小路家は事実上断絶したと思われるのですが、ひょっとしたらこのことを幻妖は「我を追放した恨み」と言っていたのかもしれません。

つまり

  • 賀茂家直系の子孫

  • つまり本来なら陰陽頭になっていてもおかしくない血筋と実力

  • 寛永3年(1626)の時点で宮中から追放状態

  • 寛永3年(1626)の時点で40代以上

  • 土御門家や幸徳井家とそのバックにいる後水尾天皇を恨む

という幻妖のキャラクター設定に見事に当てはまるのです。さすが安(以下略

何故幻妖は忍者を使うのか

幻妖は配下として幻魔党というきゅーと忍者軍団を従えています。

これは、忍者や陰陽道について知識のない方からしたらやや唐突な展開に思えるかもしれませんが、実は忍者と陰陽師は密接な関係があります。

忍術と陰陽道はルーツが同じ

乱暴な説明になりますが、志野便と書いてしのびと呼ぶ、後の甲賀忍者の祖(大伴細人)を使役したのは、聖徳太子という説があります。(忍術應義伝)

一方、陰陽道が仏教と共に日本に初めて入ってきたのも聖徳太子の時代で、聖徳太子が定めた冠位十二階などは陰陽道の思想(陰陽五行説)が取り入れられています。

また、日本古来の山岳信仰が中国の山岳信仰である道教(陰陽道の原型)やインドの密教と習合し、修験道が成立しますが、この修験道の祖とされる役小角は、賀茂氏の祖ともされています。(日本霊異記)

山に籠って人知を超える能力を身につけるという修験道や密教の修行は、そのまま甲賀・伊賀の山の民であった忍者の修行に通じます。

また、街道ではなく人目につかない山岳を移動し、全国を渡り歩く修験者(山伏)は、密かに諸国の情報を収集し、サバイバル能力に長ける忍びの者としての性格もあり、忍者の原型とも言えます。

安倍晴明の使う式神とは、闇の世界に暗躍するスパイの暗喩であるという説もあり、陰陽師が忍者を使うことは何も不思議なことではありませんし、有名な呪法である九字印(臨兵戦者皆陣列在前)は、陰陽師も忍者も共に用いています。

幻妖のキャラクター

悪役が魅力的であればあるほど勧善懲悪に深みが出ると思うのですが、演者の矢口氏、acer氏の演技力も相まって、非常に魅力的な悪役です。

奸智に長ける陰謀家

まず、幻妖は希代のワルです。

任務に失敗した部下を妖術で締め上げ、計略に失敗した猿丸を「下賤の者が」とあっさり切り捨てます。

恐るべきパワハラ上司です。絶対に部下になりたくありません。

それどころか、私怨で将軍、ついで天皇を葬り、日本を戦乱の世に陥れようとする陰謀までたくらんでいます。

単に天皇家や土御門家、幸徳井家に復讐するなら、呪詛で直接呪い殺せばいいはずなのですが、それはしません。

まず将軍を呪い殺し、その罪を天皇に被せる、つまり、天皇の命を受けて宮廷の陰陽師が呪詛を行ったということにして、徳川家の武力で朝廷と陰陽師達を倒すという回りくどい陰謀です。

幕府の軍と朝廷を戦わせて自分は高見の見物という、これまた恐るべき陰湿さです。

また、復讐を果たした後に何をするのかという点もちゃんと考えています。混乱に乗じて、自分(賀茂本家)が再び権力を握るのが最終目標です。そのための回りくどい陰謀です。

城劇は勧善懲悪のエンタメ全振りとよく評されていますが、悪役としてただ倒されるためだけに造形されたキャラクターではないところが、幻妖の、そして物語全体の魅力につながっていると思います。

身分にとらわれない合理主義者

幻妖は期待に応えられなかった猿丸を「下賤の者」と切り捨てますが、一方ではその「下賤の者」をよく使い、自ら言葉を交わしています。

陰陽師が忍者を使うと書きましたが、宮廷に上がるような身分の陰陽師は貴族なので「下賤の者」と直接口をきくということは普通はしないんじゃないかと思います。

単に落ちぶれて配下が他にいないだけかもしれませんが、幻妖は実力さえあれば身分にこだわらない合理主義者であるようにも感じられます。

それは、自分の陰陽師としての実力に自信があり、実際に高いスペックを持ちながら、太平の世では不要な力とされ、身分をはく奪されている境遇から来ているのではないでしょうか。

瑞希に対しても、最初は小娘扱いするもちゃんと本気で倒しに行きますし、術が跳ね返されると、瑞希の方が自分よりも強いことをあっさり認めています。

相手を侮ってグダったり、くどくどした負け惜しみのような小悪党ムーブはしません。

また、手下の忍者がやられたら自分だけ逃げ出すような悪代官ムーブもしません。部下がやられたら自分が最前線に出るタイプの男です。

深読みできるストーリー

幻妖は、実力が全ての戦国時代が終わり、身分制の江戸時代という時代の流れと、自らの境遇に対して反逆しています。

これは、一見「善人」側でありながら、無意識の身分意識から抜け出せず、また自らの生まれや境遇を「運命」として受け入れてしまっている義景との対比になっています。

義景は世のため人のために命を捨てる覚悟を持っていますが、肝心のその「下賤の者」を直視できていません。

長年の配下である猿丸に裏切られてしまったシーンが最も象徴的ですが(このシーンは演者の間でも様々な解釈や感情が存在しました)、黒雲が去った後、踊り出す「傾奇者=下賤の者」の輪に加わることに躊躇を見せるところも、義景の無意識の身分意識の表れなのかもしれません。

猿丸は、長年の主従関係よりも「下賤の者による下剋上」を目指す幻妖を選びました。

幻魔党が(幻妖を恐れつつも)付き従っているのも、同じ理由かもしれません。

現代風に見れば、時代に逆らって自由に生きようとする幻妖と、時代に従って宿命のままに生きる義景との対比でもあります。

そんな義景の無意識は、義景の生きる時代や身分制の外からやって来た瑞希によって解放されます。

単純な勧善懲悪だけではない、深読みのできる物語です。

まとめ

実際のこの時代の安倍家と賀茂家ってどーなのよ、という単純な疑問から調べてみたのですが、正直、サムライと徳川幕府がメインのこの時代にあって、宮廷陰陽師を調べても特に面白いネタなんかないと思ってました。

多分、当時の安倍さんも賀茂さんもごく普通に宮仕えしており「この物語はフィクションです。賀茂幻妖は安田監督が創作した架空のキャラクターです」になるだろうと。

まさか、実際に幻妖のモデルと言い得る人物が(記録上は)実在し、しかもそれが賀茂本家の最後の人物として、この時代に賀茂本家ごと歴史から消えたなど、思ってもみませんでした。

さすが安田監督、隙が

この他にも

  • 瑞希の能力とは

  • 物語に深みを与える猿丸の存在

  • 九条義景とは何者か

  • 物語の舞台は? 現在の東山区・祇園四条~山科区の辺りか?

  • 義景と瑞希の恋の行方

  • 猿丸が裏切った理由は「義景が猿丸を女性として見ていなかったから」

などなど、考えてみたいことはたくさんあるのですが、長くなるのでこのへんにしておきます。



参考

  • 九州大学学術情報リポジトリ 古代・中世における暦道の技術水準について : 朝廷 の暦制定権の前提 細井浩志

  • 宗教としての陰陽道 黒岩重人

  • 平安京解体新書 コーエー出版部編

  • 安部晴明&陰陽師大全 コーエー出版部編

  • 伊忍道ハンドブック 光栄

  • 神仏習合 義江彰夫 岩波新書

  • 日本文化史 家永三郎 岩波新書

  • 病悩と治療 瀬戸まゆみ 臨川書店


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