電話のベルが鳴るたび、凍りつく私たちへ。内向型のまま静かに生きるための、4つのお守り
私は、筋金入りの内向型だ。
もしかしたら、周囲の人はそうは思っていないかもしれない。けれど、誰が何と言おうと、自分の根っこにある性質は変えられない。
気心の知れた友人相手なら、ユーモアを交えてあんなに楽しく話せるのに、と思う。
何なら、仕事の電話であっても、こちらから掛ける分にはまだいいのだ。あらかじめ「何を話すか」の段取りを決めて、言葉を伝える準備ができるから。
それなのに。
オフィスの静寂を破って、突如として仕事の電話のベルが鳴った途端、まるで凍りついたようにあたふたしてしまう。
「自分はなんてコミュ力が低いんだろう」
受話器を置いたあと、そこに残る微かな熱を見つめながら、深いため息をついた経験はないだろうか。
私は、大いにある。
思い返せば、20代後半の3年間。私は仕事で電話対応や伝票入力を担当する部署に配属されていた。
私がいた職場は取り扱う商材が多く、さらには同業他社も乱立していたため、電話の難易度は気が遠くなるほど高かった。
お客さんが口にする商品の呼び方が、他社独自の呼称だったり、その会社特有のニックネームだったりすることも日常茶飯事だった。
また、よくあるのが「ほらあれ、あれやんか。こんな形した、あそこのパーツ」というような、抽象的な説明。受話器の向こうの言葉を必死に脳内補正するけれど、正直、とても困ってしまう。
さらには、お客さんによって「お気に入りの営業担当」がいて、毎回その人を指名されることもあった。
その担当者が電話に出られない状況だったり、休みだったりして、私が代わりに用件を聞いて対応しようとすると、「遅い」「なんでわからないの」と厳しい言葉をぶつけられる。
内向的な私は、そのたびに深く落ち込んでしまっていた。
その職場は、5人のスタッフに対して、なぜか電話回線が7本もあるという、今考えても少しおかしな環境だった。それも、ひっきりなしにベルが鳴り響く。
午前の早い時間や夕方は、営業担当がオフィスにいるからまだ何とかなる。しかし、営業担当が全員出払ってしまうと、オフィスに残された私たち5人だけで、7つもの回線を回さなければならなかった。全員が電話に出ていても、まだ別のコール音が鳴り響く。あちこちで同時にベルが鳴り、心休まる暇などなかった。
あの頃の私がずっと感じていた、心臓を直接掴まれるような感覚。
それこそが「脚本のない恐怖」の正体だったのだと思う。
電話が鳴った瞬間、心臓がビクッと跳ね上がる。
その刹那から、「誰から?」「何の用件?」「しっかり答えられるだろうか」「いや、もう、誰か代わりに出てくれ……」と、心の中で激しい悲鳴が渦巻く。
そうして大きく深呼吸をして、必死に心を落ち着かせようとしている間に、隣の席の人がサッと電話に出てしまう。「もっと早く出てね」と小さく注意されるたび、情けなさで胸がツンと痛んだ。
けれど、今なら分かる。
これは決して、私たちのコミュニケーション能力が足りないせいではない。
ただ、自分の心がコントロールできる場面と、仕事の突発的な場面とで、心にかかる「重力」が違っているだけなのだ。
なぜ、仕事の「受電」は、私たちをこんなに臆病にさせるのだろう。
仕事であってもこちらからかける電話や、プライベートでの通話は、いわば「自分が主役の物語」だ。「あのお店を予約したい」「友達にちょっと質問したい」。ゴールはいつも自分の手の中にあり、主導権も自分にある。仮に言い間違えたとしても、ちょっと恥ずかしいだけで、誰も困らない。
ところが、仕事の電話がかかってきた瞬間、私たちは突然、「会社の代表」という、身の丈に合わない重い看板を背負わされることになる。
「間違えたら会社の信用を落とすかもしれない」
「相手に怒られたらどうしよう」
そんなプレッシャーから、無意識に身構えてしまう。さらに、受話器を取るまで相手が誰かも、何を言われるかも分からないという「脚本のない恐怖」が、焦りに拍車をかける。
「完璧なビジネスパーソン」を演じようとするあまり、自分が本来持っているはずの会話のテンポや、自分らしい柔らかさという「お気に入りの普段着」をクローゼットの奥にしまい込み、会社の代表というガチガチの鎧を着込んでしまう。
本来の私たちは、親しい人とは心地よく言葉を交わせるポテンシャルをちゃんと持っている。足りないのはスキルではなく、心をそっと支える、ちょっとした「仕組み」と「お守り」なのだと思う。
かつての私のように、今も受話器の前で凍りついているあなたへ、私がいつも机の上に忍ばせている4つのお守りをそっと手渡したい。
①「綺麗な敬語」は、いったん諦める
あたふたしてしまう一番の原因は、「正しい敬語を使わなきゃ」という脳内メモリの過剰消費だ。ビジネスで最も大切なのは、美しい言葉遣いよりも「正確に用件が伝わること」。少し言葉遣いが崩れたって、声のトーンを少し落としてゆっくり話せば、丁寧なニュアンスは十分に相手に届く。
② 机の上に「受電専用のメモ」を固定する
かかってくる電話におびえないために、電話機の横に小さなメモを固定しておこう。あらかじめ書いておくのは、会話のペースを相手に渡さないための3つの項目だ。
・「お名前・会社名」の欄(緊張すると頭が真っ白になって忘れてしまいがち)
・「自社の誰宛てか・ご用件」の欄
・「折り返し先・お電話番号」の欄
③ 魔法の呪文「今すぐ、答えなくていい」
そして、そのメモの隅に、大きくこう書いておく。
「今すぐ、答えなくていい」
想定外の質問が来たり、頭が真っ白になったりしたら、この無敵の呪文を唱えればいい。
「恐れ入ります。その点につきましては正確を期すため、確認の上、折り返しお電話差し上げてもよろしいでしょうか?」
この「いつでも一時撤退できる道」が手元にあると知るだけで、驚くほど肩の力が抜けるはずだ。
④「心地いい場所での自分」を10%だけ憑依させる
たとえばプライベートの買い物のとき、私たちはきっと自分のペースを保って店員さんと話しているはずだ。仕事だからといって、相手に過剰にペコペコする必要はない。向こうも仕事で困って電話をかけてきた、ただの同じ人間だと思ってみる。日常で冗談を交えるときの柔軟なマインドを、10%だけ「仕事での物腰の柔らかさ(クッション言葉や、共感の相槌)」にスライドさせてみるイメージだ。
最初の一歩は、最初の15秒だけ「ゆっくり」動くこと
人間は焦ると早口になり、早口になると脳が「今ピンチだ!」と勘違いしてさらにパニックになる。
もし、次にお守りを試すチャンスが訪れたら、電話がつながった最初の「お世話になっております。〇〇の〇〇です」を、意識して普段の1.5倍くらいゆっくり発声してみてほしい。
深海にいるように、静かに、ゆっくりと。
出だしをコントロールできると、不思議とその後の会話の主導権も握りやすくなる。
本来のあなたなら、仕事の電話も「自分に合った仕組み」さえ作れば、静かに、確実にパフォーマンスを発揮できるはずだ。
まずは、次の電話から。
手元のメモの隅に、大きく「今すぐ、答えなくていい」と書いて、深呼吸をひとつ。
ガチガチに凍りついた心をそっと溶かすように、自分のペースを、そっと取り戻してみませんか。
