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言葉と表情が違うとき_AIには見えないキャリア相談の違和感_AI×キャリアコンサルタント×社会保険労務士 4/8

「今の会社で大丈夫です」「転職までは考えていません」。そう話しているのに、少し表情が曇ったり、返事までに間があったりする。キャリア相談では、言葉だけを読んでいては見えないものがあります。今回は、その「違和感」をどう受け止めるのかを考えます。

「今の会社で、もう少し頑張ろうと思います」

キャリア相談の場面を一つ想像してみてください。

仕事について一通り話をしたあと、相談者がこう言いました。

「転職までは考えていません。今の会社でもう少し頑張ろうと思います」

文章だけを読めば、方向性は決まったように見えます。

ところが、実際に目の前で話を聴いていると、その言葉を口にした瞬間だけ視線が下がった。少し声が小さくなった。返事までに、それまでなかった間があった。

そんなことがあります。

だからといって、

「本当は辞めたいんですよね?」

と決めつけるわけではありません。

表情が曇ったから、本人が嘘をついているとも限りません。

私が大切だと思っているのは、その違和感を答えにしないことです。

違和感は、本音を見抜くための答えではなく、結論を急がないための合図です。

これは、AIと人との対話を考えるうえでも、大きな違いだと思っています。

AIが受け取れるのは、私たちが渡した情報です

AIに、

「今の会社でもう少し頑張ろうと思っています」

と入力すれば、その文章をもとに考えてくれます。

メリットを整理したり、今後確認したいことを挙げたり、次の行動を提案したりすることもできるでしょう。

AIを否定しているわけではありません。

質問案を作る。論点を整理する。文章を整える。制度を確認する。面談前の準備をする。

こうした場面で、AIはとても頼りになる存在です。

ただ、入力されていないものまでは分かりません。

その一文を書く前に何分悩んだのか。

「頑張ろう」と入力しながら、どんな気持ちだったのか。

言葉を発したあとに沈黙したのか。

表情が変わったのか。

そして何より、その人がその言葉を選ぶまでに、どんな経験をしてきたのか。

テキストだけでは伝わらない情報があります。

だから、人と話す意味が残ります。

表情から「本音」を決めてはいけない

ここで注意したいことがあります。

「言葉より表情の方が本当だ」

と考えることも、私は違うと思っています。

たとえば、

「上司から評価されていません」

という相談があったとします。

これは、そのままでは事実と本人の受け止めが混ざっています。

評価点が下がったのか。

昇給しなかったのか。

上司から厳しい言葉を言われたのか。

本人が期待していた言葉をもらえなかったのか。

それとも、周囲と比較して「評価されていない」と感じているのか。

社会保険労務士として考えるなら、確認できる事実を分ける必要があります。

一方で、

「客観的には評価されているから、あなたの気にしすぎですよ」

と片づけるのも違います。

その人が「評価されていない」と感じて苦しんでいるなら、そう感じていること自体は、その人にとって大切な情報だからです。

事実と感情を分ける。

でも、感情を切り捨てない。

この二つを同時に行う必要があります。

違和感を感じたとき、すぐ深掘りしない

では、言葉と表情が違うように感じたら、どうすればよいのでしょうか。

私は、いきなり核心を突く必要はないと思っています。

「本当は違うんじゃないですか?」

「何か隠していますか?」

では、相談者は自分を守ろうとするかもしれません。

大切なのは、最初に本人の言葉をそのまま受け止めることです。

「今の会社でもう少し頑張ろうと思われているんですね」

そこで少し時間を置く。

必要であれば、

「今、少し考えておられたように感じたのですが、このあたりをもう少し話してみますか?」

と確認する。

ここで重要なのは、こちらの観察を事実認定に変えないことです。

「迷っていますね」ではありません。

「少し間があったように感じました」です。

前者は相談者の内面をこちらが決めていますが、後者は自分が感じたことを本人へ返し、判断を本人に戻しています。

面談の主役は、あくまで相談者です。

沈黙を埋めないという仕事

質問をしたあと、相談者が黙ることがあります。

数秒しか経っていなくても、支援する側には長く感じます。

すると、

「例えば、仕事内容でしょうか?」

「人間関係ですか?」

「給与面ですか?」

と、次の質問を重ねたくなることがあります。

でも私は、沈黙を必要な時間だと考えています。

クライアントが呼吸を整える時間かもしれません。

自分でもまだ名前を付けられていない感情を探している時間かもしれません。

口に出していいのかを考えている時間かもしれません。

そこへ次々と言葉を入れると、ようやく出かけていた本人の言葉を、こちらの言葉で塞いでしまうことがあります。

AIは、質問をすればすぐに返してくれます。

それは大きな長所です。

でも、人との対話には、すぐ返さないことに意味がある時間もあります。

私は、そこもAIと人間との違いの一つだと思っています。

「分かりません」にも、少し待つ

「本当はどうしたいですか?」

と聞いて、

「分かりません」

と返ってくることもあります。

そんなとき、すぐ別の質問へ進むのではなく、

「分からないですよね」

と、いったん受け止める。

それだけでいい場面があります。

そのあとで、相手の状態を見ながら質問を変えます。

自由に話せそうなら、「どんなところが一番引っかかっていますか」と広げる。

考えること自体が負担そうなら、「今の会社に残ることと辞めることなら、どちらを考える時間が多いですか」と少し答えやすくする。

一つの話題の周辺を広げることもあれば、気になった言葉を深く聴いていくこともあります。

大切なのは「どの質問技法を使うか」より、今、この人にどんな質問なら届くのかを見ることです。

質問そのものなら、AIもたくさん作れます。

人に求められるのは、その中から「今は聞かない」という選択まで含めて判断することなのだと思います。

キャリア相談で記録したい3つ

仕事の相談を受ける人であれば、違和感を感じたときに、頭の中だけで処理しないことも大切です。

難しいシートを作る必要はありません。

面談後に、

  1. 本人が実際に言ったこと

  2. 自分が実際に観察したこと

  3. まだ分からないこと

この3つだけを分けてみてください。

「転職するつもりはないと言った」は本人の発言です。

「その言葉の前に数秒の間があった」は観察です。

「本当は辞めたいと思っている」は、まだ確認できていません。

この区別だけでも、支援者の思い込みはかなり減らせます。

AIへ面談内容の整理を手伝わせる場合にも、この考え方は重要です。

AIに感情や意図を「当ててもらう」のではなく、人が確認した情報を整理するために使う。

AIは違和感の答えを出す人ではなく、人が考えるための補助者に置いておく。

私は、そのくらいの距離感がちょうどよいと思っています。

人だから分かるのではなく、人だから確かめられる

ここまで読むと、

「やはり人なら本音が分かる」

という話に見えるかもしれません。

でも、私はそうは思っていません。

人だって間違えます。

表情を読み違えることもあります。

自分の経験から勝手に意味付けすることもあります。

専門家だから、相手の本音を見抜けるわけではありません。

人にできるのは、

違和感を感じ、決めつけず、本人に確かめ、そして待つことです。

そこに対話があります。

社会保険労務士として事実を確認する。

キャリアコンサルタントとして、その人がどう受け止めているのかを聴く。

そして最後は、専門家が答えを決めるのではなく、本人自身が納得できる選択を探していく。

AIがどれだけ便利になっても、この順番は大切にしたいと思っています。

働き方に正解が一つあるとは限りません。

「残る」と言った言葉も本当かもしれない。

その奥にある迷いも本当かもしれない。

両方が同時に存在することだってあります。

だから、白黒を急がなくていいのです。

言葉と表情が少し違うと感じたら、答えを当てようとするのではなく、もう少しその人の隣にいる。

その時間から、自分でも気づいていなかった言葉が出てくることがあります。

AIがある時代だからこそ、私はそうした時間を大切にしたいと思っています。

そして最後に、自分の働き方を決めるのはAIでも、会社でも、支援者でもありません。

働き方は、人が決める。

その人自身が決められるように支えることが、人にしかできない仕事なのだと思います。

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smile 社労士・キャリアコンサルタント・産業カウンセラー・コーチ、複数の視点から一つの悩みを見るよう心がけています。この記事が、貴方や会社の判断を少し楽にできていたら幸いです。