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ことばの宝箱⑩ ~ 人間の闇を見つめて統合してこそ、本当の輝きが生まれる。望月諒子さんの3作品からの学び  

 NOTEに書く前から、本を読むことが好きで、気に入った言葉をノートに書きぬくことをよくしていました。
 続けているうちに、テレビやラジオ番組、新聞、時に職場の同僚の一言、家族からの話・・・つまりは、身の回りにあふれる「言葉」にアンテナが立ってきて、なるほどと思ったり、心に響くなと感じたりした言葉を集めるようになっていました。
 
 気づいたら、ノートが20冊を超えていました。
 
 これまでもNOTEの記事にまとめる時、今の自分の気持ちに似ていたり、伝えたい内容を一言で表しているなと思ったりした言葉をよく引用してきました。
 
 今回は、そんな集めてきた中から、ミステリー作家である望月諒子さんの3作品から選んだ言葉です。

 作品に登場してくる人物の描写から人間の本質をうかがい知る言葉がかなりあります。特に、「きれいごと」「偽りのポジティブ」ではない人間が秘める暗部に鋭く迫った言葉が多く、ジェットコースターに乗ったかのように振り回され、激しい感情の浮き沈みを経験します。

 しかし、どの作品も密度が濃く、内面に響く、いや、えぐるような鋭い言葉、社会を見つめる目からつくられたフレーズに圧倒されます。

 言葉に重みが出るのは、望月さんご自分が経験したり、これまでの人生の中で、葛藤し、苦悶し、慟哭し、誰にぶつけていいか分からない憤りなどをずっと心の中で練り上げていたからではないか・・・とすら思わされます。
 
 人が心の奥底に直隠しているコンプレックスや恥部、欺瞞、偽善、身勝手で欲深く残酷な人間の生々しさ。ただの謎解きという物語だけではなく、人間について考える手掛かりとなる言葉も多いです。

 ただ、それで気分が滅入ってしまうのではなく、しっかりと見つめ、受け止めてこそ、立ち上がる力や「それでも、前へ」という気持ちが生まれてくることを経験します。
 
その一端を紹介します。よかったら、お付き合いください。

1 神の手

<あらすじ>

小説誌の編集長、三村幸造のもとに医師を名乗る男から電話がはいった。高岡真紀という女性を知っているか、と。同時に、過去に彼が封印した来生恭子の小説の真紀の名前で送り付けられた。待ち合わせた真紀は、果たして見たこともない女性だった。それなのに恭子と同じようなしぐさで、10年前に恭子が話したことと全く同じことを話す。彼女はいったい誰なのか?目的は?本格ミステリー長編。

<社会に関する言葉>
・そんな面白おかしい事件なんてあるもんじゃない。みなそれぞれに小さな人生を寄せ集めて生きているのだから。
 
・いかに世間を騒がせた事件でも古くなれば隅と追いやられる。
 
・真実はもっと多面性があり、迷路なようなものなんだ
  
<人間に関する言葉>
・食べて寝て性欲を満たしてやがて死ぬ。それに不安や不満を感じていても、結局そうして生を費やすしか脳が無いのが私たち人間です。それを否定したいから文学が生まれる。生存と生殖、いわば自衛的本能だけが私たちの姿ではないと言ってくれるものが欲しい。しかし、それは同時に人であることを否定することでもあった。
 
・人のうわさ話は楽しいものだ。
 
・誇りある人は自分の職務を知っている
 
・何かに熱中した時、人間は思わぬ集中力を発揮するものです
 
・専門的な社会で安穏としている人間は表情が固い。
 
・生に執着しない人は、死を選ぶこともない。
 
・能力と情熱と優秀なサポーターがいるということは、どこにも失敗の逃げ道を見いだせないということだ。
 
・安定しているように見える生活でも、現実にはかなりの心理的矛盾の上に成り立っているものです。
 
<男性・女性に関する言葉>

・男性って、結局、女が自分より優秀だと逃げ出すものですから
 
・女はすぐにホテルの備品を持って帰りたがる
 
・不倫とは快楽を恋愛感情にすり替えた大人の恋のゲーム。
 
・社会規範を踏み越えるってのも一つの男の胆力かもしれない。
 
・経験的に知る限り、男性の愛は献身ではなく、自己愛の変形であり、男の献身は自己実現の一環なのだ

2 殺人者

<あらすじ>

大阪で相次いだ猟奇殺人。被害者はいずれも男性で、ホテルで血まみれになり死んでいた。フリーのルポライター木部美智子は、警察に先んじて「謎の女」の存在に気づく。綿密な取材を続け女の自宅へと迫る美智子。だが、そこでは信じられない光景が待ち受けていた。そして、さらなる殺人が発生し・・・・事件の背景に隠された衝撃の真実は!?承認欲求、毒親、嫉妬などの心の闇を描く傑作長編。

・不幸になるのは自分のせいだ。
 なのに、不幸な人って、必ずその原因を他にもっていく。
 
・人間は何かに根注して、知性や理性を働かせている時、おのずと端正な顔立ちになるものだ。
 
・異性から相手にされていないと思うこと、また、人からそう見られていると思うことは、人間最大のコンプレックスなのではないか?
 
・本能を制御するはずの文化は、今、その本能を刺激するばかりなのだ。
 
・多くを期待しなければ、おのずと憎しみはわかない。
 
・道徳的であろうとするのは、すなわち、自分に自信がないからだ。
 
・孤独は人を哲学者にする。 

3 蟻の棲み処

<あらすじ>

東京都中野区で、若い女性の遺体が相次いで発見された。二人とも射殺だった。フリーの事件記者の木部美智子は、かねてから追っていた企業恐喝事件と、この連殺人事件の間に意外なつながりがあることに気がつく。やがて、第三の殺人を予告する脅迫状が届き、事件は大きく動き出す・・・・。貧困の連鎖と崩壊した家族。目をそむけたくなる社会の暗部を、周到な仕掛けでえぐり出す傑作ノワール。 

<人間心理、生き方に関連して>
 ・愛されている女が憎いのは、愛されていない女の常よ。
 
・相手が自分と同じようなクズでないと気に入らないのがクズな人間の特徴。
 
・学校でも家でも、顧みられることのない女は男性関係を持つ年齢が早くなるのは、男性に対する興味もあるし、誰かと1対1の関係を築きたい、その他大勢の中の一人でなく、自分を他と違う存在として扱ってほしいから。
 性行為をしている瞬間は、相手にとって自分は特定の存在になる。それで簡単に不特定多数の男と付き合うわけ・・・。そのうち学習してしまう。普通は遊ぶと金が減る。でも、売春は損でいるつもりなのに金がもらえるってことに。
 
・お互いを尊重するというのは、想像力をもった人間の間にしかないことだ。世の中には、異なる立場があると自覚的に認識するということだから。
 
・他人を尊重する風潮を持たないコミュニティの中では、価値判断は「馬鹿にされるか、馬鹿にするか」の二択になる。もしくは「自分に有益か有益でないか」。そういう中で子供は、役に立たない面倒なものだ。子は小突かれて大人の機嫌によって、暴言を吐かれ、時に暴力を振るわれる。
 そういう家庭では、親は子に早く独立してほしいと望み、子はもとより、家に居場所はない。男の子は仲間と徒党を組み、女の子は身体を売って生活の為に金を稼ぐ。
 
・画一的という言葉「つまらない」と訳されるようになったのはいつからだろうか。画一的であるからこそ、担保される充足もある。
 
・経験を積んだものが、現場を牛耳る。
 
・人は聞かれたがっている。
そして、よっぽどの事情がなければ、自分の知っていることを披露する。
 
・人からの受け売りをあたかも自分の考えや発想のようにして発信していると、自分の頭で何かを考える暇がなくなる。
 
・小心者だからこそ、後先考えずに決行するということもあるんじゃないか。
 
・人間は、人を自分に重ねるしか人を理解する術がない。自分が貧弱であれば、人はみな貧弱にしか見えない。
 
・我が身に火の粉がかからないところにいる人は辛辣なものだ。
 
・生育環境で人は出来上がる。どんなに聡明な要素をもった子でも、例えば教育を与えられなければ、その聡明さは引き出されない。
 
・人の懐に飛び込む力を持っているそれは、人を信じる力と言い換えてもいい。それが転じて人を信じさせる力にもなる。
 
・真面目に勉強して、結果と原因の因果関係を分析する能力を培った。そして、目的と手段を整理する技量を持っている。だから努力できる。努力が実らなくても、努力する手段に過ぎないから、目的を持つ限り別の手段を講じる。だから、どこまでもやっていける。
 
<報道・社会の在り方に関連して>
 ・雑誌は一元的な見方に満足しない人たちが金を払って読むものだ。しかし、そういう人たちは一方で、非人間的なことには加担したくないという心理も持っている。
 
・犯罪や事件は往々にしてつじつまが合わないものだ。そして、大半は疑わしい人が犯人だ。
 
・世の中が整理されて清潔になり、機能的になると隙がなくなり、今まで隙間にいた人たちが押し出されてくる。それを人権家たちが表に引っ張り出して救済しようとするわけだけど、弱者の構造はきれいごとで解決できるほど単純じゃない。
 
・世の中に何が起きても、それが自分の身を脅かすみのではないと思えるというのは、安定した社会がそこに暮らす人に与える特権だと思う。
 
・業界のコアは、人が思うより古くさい。どれほど情報の流通が広域化、複雑化しても心臓部は義理と人情だ。借りと貸しを繰り返して、大量に流れてくる情報の意味や価値を互いに手探りする。
 
・情報と情報の端をつなぎ合わせれば、それらしい話が出来上がる。だから事件記者は、情報のおこぼれを嗅ぎ分けようと日夜励んでいる。
 
  
 望月諒子さんは、2001年に「神の手」でデビュー。
 
 2001年当時ではまだ珍しかった電子書籍オリジナルの長編として、e文庫から出版されました。新人作家の作品が出版されること自体異例だったそうですが、担当編集者が作品に惚れ込んでの事だったらしいです。その後も定期的に作品を世に送り出しますが、そのクオリティに見合う反響は得られず、途中、しばらくの中断もありました。
 
 しかし、2018年12月に「蟻の棲み処」でハードカバー単行本が出版され、その後、2021年10月には新潮社文庫が刊行されます。
 
「ミステリー史上に燦然と輝くラストのどんでん返し!」
 
と本の帯に書かれたことも追い風になったのか、10万部を超えるベストセラーになります。そこから、過去の作品にも注目が集まり、再刊されました。
 
 望月さんは様々な分野のミステリーを書いていますが、作風自体は変わっていまいと思います。
 どの作品も、人間の暗部や内面に深く分け入った内容が描かれていて、ただの謎解きだけではなく、読む人の感情を常のゆさぶり、自分自身の人生への向き合い方や相手への眼差しについて考えさせられます。
 
 そして、人間の内面をむやみに知ろうとすることや、「◎◎さんって、(こういう)~人だよね~」なんて「相手を理解する」ことをいかに、普段、軽く見ているかについても反省させられます。

 自分自身や相手への理解を、自分が理解できる範疇に安易に落とし込もうとすることの危うさについても考えさせる作品が多いのです。
 
もし、よかったら、今回紹介した作品以外も手に取ってみてください。
 
 
ここまで読んでいただき、ありがとうございます
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです
 

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