【にゃんクエマスター限定】『笑顔の世話役』『約束どおり』『結果がすべて』(マーチャ編④)(5,000文字とそこそこのボリュームですが、頑張って描いたので、読んで頂けたら嬉しいです。)
『笑顔の世話役』
王都アリニャハンの朝。
市場は今日も元気だった。
「焼きたてのパンだよー!」
「今日の魚は港から届いたばかり!」
活気ある声が飛び交い、香ばしい匂いが風に乗る。
そんな中を、金髪の少年が楽しそうに駆けてきた。
「マーチャ!」
「おはよう、ルーク。」
ベルモント伯爵家三男、ルーク。
今では市場の人気者だ。
「あっ、おばちゃん!今日もリンゴ一個!」
「はいはい。ルーク様は本当にリンゴが好きだねぇ。」
「市場のリンゴが一番おいしいんだ!」
商人たちは笑顔になる。
最近は偉ぶらなくなった。
それが今のルークだった。
その様子を少し離れた場所から、一台の馬車の中で見つめる者がいた。
ベルモント伯爵。
窓を閉めると、小さくため息をつく。
「……また来ているのか。」
向かいに座る執事が静かに頭を下げた。
「はい。毎日のように。」
「何度止めても聞かぬ。」
伯爵は眉をひそめる。
「伯爵家の者が、毎日あのような場所へ通うなど聞いたことがない。」
しばらく考え込んだ伯爵は、執事へ視線を向けた。
「クラウス・エルディン男爵を呼べ。」
翌日。
市場へ、一台の立派な馬車が止まった。
扉が開き、一人のの青年が降り立つ。
明るい茶色の毛並み。
整った顔立ち。
上質な衣服。
そして、人懐っこい笑顔。
青年はルークの前まで歩み寄り、丁寧に一礼した。
「初めまして、ルーク様。」
「え?」
「私はクラウス・エルディンです。」
ルークは首をかしげる。
「??」
クラウスは微笑んだ。
「伯爵様より命を受け、本日よりルーク様のお世話役を務めさせていただきます。」
「えぇーーっ!?」
ルークは思いきり嫌そうな顔をした。
「監視役じゃん!」
クラウスは思わず吹き出した。
「はははっ!その反応は予想しておりました。」
「違うの?」
「違います。」
クラウスは少しかがみ、ルークと目線を合わせる。
「伯爵様は、ルーク様を心配されているだけです。」
「でも、市場へ来るなって言うんでしょ?」
「いいえ。」
クラウスは首を振った。
「私も一緒に市場を楽しませていただきます。」
「え?」
今度はルークが驚く番だった。
「本当に?」
「はい。」
「怒らない?」
「怒りません。」
「説教しない?」
「いたしません。」
「やったー!」
ルークは飛び跳ねた。
「マーチャ!いい人だった!」
マーチャはクラウスを見る。
貴族らしからぬ柔らかな笑顔。
どこか親しみやすい雰囲気。
「初めまして、マーチャ殿。」
「……どうも。」
「ルーク様がいつもお世話になっております。」
深々と頭を下げるクラウス。
その姿に、マーチャも少し肩の力を抜いた。
「今日は市場を案内してくださいませんか?」
「もちろん!」
こうして三人は市場を歩き始めた。
クラウスは意外なほど気さくだった。
八百屋では野菜の値段を聞き、
鍛冶屋では包丁を手に取って感心し、
パン屋では焼きたてのパンを頬張って、
「熱っ!」
と舌をやけどして皆を笑わせた。
市場中に笑い声が響く。
「クラウスって面白いね!」
ルークが笑う。
「貴族だからといって、毎日堅苦しくしていたら疲れてしまいますから。」
その笑顔に嘘は見えなかった。
マーチャも少しずつ警戒を解いていく。
「ルーク様は、本当に人気者ですね。」
「うん!」
「毎日ここへ?」
「そうだよ!」
「帰りもこの道を?」
「うん!」
「なるほど。」
クラウスは穏やかに頷いた。
ごく自然な会話だった。
あまりにも自然だった。
だから誰も気に留めなかった。
ただ一人を除いて。
マーチャだけは、小さな違和感を覚えていた。
なぜだろう。
クラウスは、市場を楽しんでいるようでいて・・・
ルークの行動だけは、一つ残らず覚えている。
それでもマーチャは首を振る。
(考えすぎか。)
相手は伯爵が送り込んだ世話役だ。
怪しむ理由など、どこにもない。
その日の帰り道。
クラウスは馬車へ乗り込む前に、ルークへ優しく笑いかけた。
「また明日も、ご一緒してよろしいですか?」
「もちろん!」
「ありがとうございます。」
馬車の扉が閉まる。
ガタン、と走り出した瞬間だった。
さっきまで穏やかだったクラウスの笑顔が、ふっと消えた。
「……なるほど。」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「これなら、うまくいく。」
馬車は夕暮れの王都へ静かに消えていった。
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