【にゃんクエマスター限定】金貨と信用(マーチャ編③)
『金貨と信用』
王都アリニャハン。
朝日を浴びた王立銀行の扉が開く。
「おはようございまーす!」
元気いっぱいの声とともに飛び込んできたのは、ベルモント伯爵家三男・ルークだった。
その後ろから、大きな革袋を肩に担いだマーチャが苦笑いを浮かべる。
「ほら、銀行の中では少し静かにな。」
「あっ、ごめん!」
ルークは慌てて口を押さえる。
……三秒後。
「師匠! 今日もいっぱいお金持ってきたの?」
「だから静かにって。」
「あっ。」
受付の行員たちから笑いがこぼれた。
「マーチャさん、今日もお疲れさまです。」
「おはようございます。また預け入れをお願いします。」
「もちろんです。」
最近のマーチャは、商売が驚くほど順調だった。
商会は王都以外にも販路を広げ、今では大きな取引も珍しくない。
荷物が売れれば代金を預け、仕入れの日には資金を引き出す。
気づけば王立銀行へ通うのが日課になっていた。
そのたびについて来るのが、ルークである。
「商売を勉強したい!」
そう言って弟子入りしてきたのだが・・・
勉強よりも騒ぎを起こしている時間のほうが圧倒的に長かった。
「師匠。」
「ん?」
「銀行って、なんでこんなに金貨がいっぱいあるの?」
「みんなが預けてるからだよ。」
「じゃあ、この金貨って全部同じ?」
マーチャは革袋から金貨を取り出し、机の上へ並べた。
「よく見てみ。」
ルークは顔を近づける。
「……同じ。」
「もっとよく見ろ。」
「……やっぱり同じ。」
マーチャは笑った。
「ほら、この金貨。」
一枚を指でつまむ。
「王様の横顔が少し違うだろ?」
「あっ!」
「こっちは二十年前の金貨。」
「へぇー。」
「こっちは外国の金貨。」
「おぉ!」
「それから、この古いやつは今じゃあんまり見かけない。」
ルークは目を輝かせた。
「全然気づかなかった!」
「商売してると自然に覚えるんだ。」
「師匠ってすげぇなぁ。」
「毎日金貨を触ってれば誰でも覚えるさ。」
そんな二人のやり取りを、窓口の行員たちは微笑ましく見守っていた。
「あの坊ちゃん、最初はどうなることかと思いましたけど。」
「マーチャさんのおかげで、少しずつ商売に興味が出てきたみたいですね。」
「ええ。」
……その時だった。
「おっ、これ面白そう!」
ルークが金貨を積み始めた。
一枚。
二枚。
三枚。
「おいおい。」
「もっと高く……。」
五枚。
六枚。
七枚。
「ルーク。」
「まだ大丈夫!」
八枚。
九枚。
「これ、ジェンガみたい──」
ガシャーン!!
金貨が床いっぱいに散らばった。
カラン、カラン、カラン……
銀行中に乾いた音が響き渡る。
「あ。」
ルークの顔が青くなった。
マーチャは額に手を当てる。
「だから言っただろ。」
「ご、ごめん……。」
「ほら、一緒に拾うぞ。」
「うん!」
二人は床にしゃがみ込み、一枚ずつ金貨を拾い始めた。
近くの行員たちも苦笑しながら手伝ってくれる。
「今日は金貨の運動会ですね。」
「ははは。」
緊張しがちな銀行の空気が、少しだけ和らいだ。
昼過ぎ。
預け入れの手続きが終わるまで、二人は待合席で休んでいた。
ルークはぼんやり銀行の中を眺める。
「師匠。」
「ん?」
「銀行って、お金を預かるだけの仕事だと思ってた。」
「俺も昔はそう思ってたよ。」
「違うの?」
マーチャは少し考えてから答えた。
「ここが預かってるのは、お金だけじゃない。」
「え?」
「信用だ。」
「信用?」
「みんな、『この銀行なら安心だ』って信じて預けてる。」
「だから一枚でも間違えちゃいけない。」
ルークは真剣な表情でうなずく。
「なるほど……。」
その時。
待合席の下に、一枚だけ古びた金貨が落ちているのを見つけた。
「師匠、落ちてる。」
「あ、本当だ。」
ルークは拾い上げる。
「ずいぶん古そうだな。」
服の袖で磨こうとした瞬間。
「あっ、それはやめとけ。」
「え?」
「古い金貨は、そのままの方が価値があることも多いんだ。」
「そうなんだ!」
ルークは感心したように金貨を眺めた。
そして遊び半分で、指先から軽く落としてみた。
カラン。
「ん?」
近くにあった別の金貨も落としてみる。
チリン。
ルークは首をかしげた。
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