「ぼくのー」と「かわいいー」に、今日も親は勝てない
「ぼくのー!」
息子が指さしたのは、私が食べているおかずでした。
いや、同じものがそっちのお皿にもありますけど。
3歳になった息子は、最近なんでも「ぼくの」と言います。
おもちゃはもちろん、リモコンも、洗濯物のかごも。下手をすると、玄関に置いてある私の靴まで「ぼくの」。
それは、さすがにパパのです。
どうやら息子の中では、手の届く範囲にあるものは、とりあえず一度自分のものだと主張しておくルールになっているようです。
なかでも不思議なのが、ご飯です。
自分の前に出したものには、あまり手をつけません。
少し食べたと思ったら、椅子から降りて遊び始めます。
もういらないのかな。
そう思って私や妻が食べていると、さっきまで遊んでいた息子が戻ってきます。
そして、人のお皿を指さして、
「ぼくのー!」
いや、急に?
息子のお皿には、同じものがまだ残っています。
「そっちにもあるよ」
「ぼくのー!」
「同じだよ」
「ぼくのー!」
こちらの説明は、驚くほど届きません。
結局、私のお皿から一つ渡します。
すると、さっきまで自分のお皿では食べなかったものを、満足そうに食べる。
……食べるんだ。
毎回そう思います。
人が食べているものって、なぜか少しおいしそうに見えます。
まあ、その気持ちは分からなくもありません。
とはいえ、これが一日に何度も続くと、正直ちょっと疲れます。
今日こそは渡さないぞ、と思うこともあります。
思うだけは思います。
そして、だいたい渡します。
弱い。
毎回渡していていいのかな、とは一応考えます。
一応です。
でも、「ぼくのー!」と手を伸ばしてくる顔を見ると、まあ今日くらいはいいか、となってしまいます。
昨日もそう思いました。
たぶん明日も同じです。
最近は、もう一つ強い技を覚えました。
「かわいいー!」
そう言いながら、自分のほっぺに両手を添えます。
誰が教えたわけでもないのに、いつの間にかやるようになりました。
「うん、かわいいね」
そう言うと、ニヤッと笑って満足そうな顔。
その笑顔を見るたびに、「またやられたな」と思います。
そのまま何事もなかったように、また別の遊びへ戻っていく息子。
残された私は、その笑顔を思い出して、少し笑ってしまいます。
さっきまで疲れていたはずなのに。
子どもを甘やかしているつもりでした。
「ぼくのー!」と言われたものを渡して、「かわいいー!」と言われれば素直にうなずく。
甘やかされているのは、息子より自分のほうなのかもしれません。
今日も、たぶん私は負けます。
……いや、たぶんではないですね。
間違いなく負けます。
