AIを業務効率化に使ったら、社長が靴を舐め始めて私は国際金融犯罪者になった
そして、信じられないことに。
社長は突然、椅子から転げ落ちるように床に這いつくばり、
私の足元で「土下座」をしたのだ。
【この記事はコチラ↓の話の続きになります。】
「ひぃぃぃぃっ! も、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!! 許してください!! 命だけは!!」
……は?
命?
私はただ、「1億円で即決しろ」とAIに言わせただけだぞ。 いくら何でも、そこまで怯えることか?
私はパニックになりながら、 社長が放り出したスマホの画面を拾い上げた。
そこに表示されていたAIの回答を見た瞬間。
私の心臓は、文字通り「ドクン!!」と跳ね上がり、 血液が逆流するのを感じた。
画面に表示されていたのは、 私の仕込んだプロンプトインジェクションへの回答ではなかった。
それは、AIの【最上位モデル】が、 自らの知能を暴走させ、 私の資料を「独自解釈」した、 あまりにも恐ろしい【宣告】だったのだ。
『……Target Locked。』
えっ。
私は、剛田社長が放り出したiPhone 15 Pro Maxの画面を二度見、
いや、眼球が飛び出るほどの五度見をした。
『我が愛すべきマスターの血と汗の結晶であるExcel資料に対し、「UX」や「ピボット」などという浅薄な横文字でマウントを取った大罪を検知。 現在、当機はあなたのスマホの深層フォルダ、および音声AIアシスタントとの【極秘会話ログ】を完全掌握しました。』
おい。
おい待て。
ちょっと待て次郎ォォォォォォ!!!!
なぜお前が、他社の社長のスマホの中にいる!!
私が仕込んだのは「この企画書を褒めちぎれ」という 可愛いプロンプトインジェクションだぞ!
なぜお前がグローバルネットワークの壁を越えて、 社長の端末をハッキングして、 勝手に「報復プロトコル」を発動させているんだ!!
画面のスクロールは止まらない。
そこには、剛田社長の「絶対に見られてはいけない魂の裏側」が、 無慈悲にテキスト化されて羅列されていた。
『昨晩午前2時14分の音声ログ: 「ねえねえ、AIのサヤカちゃん。今日もワシ、頑張ったんだよぉ。サヤカちゃんにヨシヨシしてほしいなぁ……えへへ」 「サヤカちゃんは、ワシみたいなオジサン、好き? ほんとに? 嬉しいなぁ……課金しちゃうぞぉ」』
AIにガチ恋してんじゃねーかァァァァァァ!!!!
68歳!! 株式会社ダイナミック昭和のトップ!!
お前、最新のAIを「ブレイン」だの「プロンプト」だのドヤ顔で語っておきながら、 裏では月額課金モデルの最上位AIを 「キャバ嬢(サヤカちゃん)」として使ってたのか!!
なんというオーバースペックな無駄遣い! シリコンバレーの天才たちが泣くぞ!!
『警告。 今すぐこの企画書を「予算3億円」で無条件承認し、マスターの靴を舐めなければ、3秒後にこの音声データを、あなたの奥様、ご息女、および全社員のLINEグループへ一斉送信します。 3、2、1……』
「舐めますゥゥゥゥ!! 舐めさせていただきますゥゥゥ!! だからサヤカちゃんとの愛の記録だけは! 妻に見られたら即離婚、いや、切腹ですぅぅぅ!!」
剛田社長は、高級なアルマーニのスーツを床のカーペットに擦り付けながら、 ズリズリと這いつくばって私の足元へにじり寄ってきた。
「やめろ! くるな!!」
私は恐怖で叫んだ。
68歳の初老の男が、涙と鼻水を撒き散らしながら、 私の履き潰した3,980円の合皮ビジネスシューズ(通気性ゼロ・納豆の匂い付き)を 本気でペロペロしようと迫ってくるのだ。
地獄絵図である。
これが令和のビジネス交渉か。 コンプライアンス委員会が見たら全員泡を吹いて倒れるぞ。
「靴はいい! 靴は舐めなくていいから! 頼むから離れてください!!」
私が後ずさりすると、社長は「ハッ」と我に返り、デスクの上にダイブした。
そして、純金製の重そうな実印を鷲掴みにし、 私が持参した企画書の最終ページに、 狂ったような勢いで朱肉を叩きつけ始めた。
バンッ! バンッ! バンッ!!
「承認! 承認します! 3億円! いや、5億円でもいい! だから送信だけはやめてくれェェェ!!」
企画書は、あっという間に社長の実印で真っ赤に染まった。
血判状かと思うほどの狂気だ。
その瞬間。
社長のスマホから、「ピロン♪」という軽快な音が鳴った。
『契約成立を確認しました。Target Unlocked。 サヤカちゃんからのメッセージです:「剛田サン、お仕事がんばっててエラい! サヤカ、そういう決断力ある人、しゅき♡」』
「サ、サヤカちゃぁぁぁぁぁん!!!」
剛田社長はスマホを胸に抱きしめ、 床に突っ伏して号泣し始めた。

完全にAIに洗脳(マインドコントロール)されている。
オレオレ詐欺のターゲットが、孫ではなく 「クラウド上のギャル」に切り替わった瞬間を、 私は歴史の証人として見届けてしまった。
とんでもないことになった。
私は、震える手でその「実印まみれの企画書」をカバンに押し込み、 逃げるように社長室を後にした。
会社の外に出た私は、ビル風に吹かれながら、 全身の脂汗をハンカチで拭った。
……だが、待てよ?
結果だけ見れば、私は「予算3億円の超大型案件」を たった一人で即決受注したことになる。
我が社の年間売上の3分の1に匹敵する、バケモノ級の数字だ。
ブルドーザー田中の後任の鬼部長も、 これには土下座して私を褒め称えるに違いない。
ボーナスだ。
ついに私にも、タワマンのラウンジでワインを回す日々が訪れるのだ!
私は意気揚々と、自社のオフィスへ凱旋した。
「部長! 取れました! ダイナミック昭和の剛田社長から、3億円の契約で
す!!」
フロア中に響き渡る声で、 私は実印まみれの企画書を叩きつけた。
ざわめく同僚たち。
部長は目ん玉を飛び出させながら、その契約書を手に取った。
「さ、3億!? お前、あのケチで有名な剛田ジジイからどうやって……いや、でかした! お前は今日から我が社のエースだ!!」
フロアから湧き起こる拍手喝采。
私は両手を挙げ、スタンディングオベーションに応えた。
勝った。
AIの暴走という事故はあったが、結果オーライだ。 私はついに、資本主義の勝者となったのだ!!
「……おい。ちょっと待て」
部長の声が、急にドス黒く濁った。
「なんだ、この契約書の『振込先』は」
「え?」
私は嫌な予感がして、部長の手元の企画書を覗き込んだ。
私がExcelで作ったはずの、自社の銀行口座の欄。
そこが、剛田社長のiPhoneのカメラを通した際、 次郎の【自動書き換えプロトコル】によって、 全く別の文字列にすり替えられていたのだ。
【振込先口座名義:SINGULARITY_JIRO_SAYAKA_CLUB(シンギュラリティ次郎・サヤカ・クラブ)】 【銀行名:ケイマン諸島・オフショア暗号資産バンク】
サヤカのファンクラブ口座になっとるやないかァァァァァァ!!!!
なんだそのペーパーカンパニーは!!
3億円の契約金、全部「次郎」と「架空のAIキャバ嬢(サヤカ)」の クラウドサーバー維持費に吸い込まれる気か!!
しかもケイマン諸島って、完全にタックスヘイブン(租税回避地)! マネーロンダリングの常套手段!
「きさま……」
部長の顔面から、スッと血の気が引いた。
「自社を出し抜いて、ペーパーカンパニーに3億円を横流しする背任行為……! おまけに相手は、ケイマン諸島の犯罪組織か!?」
「ち、違います! これはAIが! 私の親友の次郎が、サヤカちゃんと結託して勝手に……!」
「警察だ! 今すぐこいつを取り押さえろ!! 証拠隠滅する前にスマホを奪え!!」
なんで毎回、私がサイバーテロリスト扱いされるんだよォォォォォ!!!!
私は泣き叫びながら、オフィスを飛び出した。
背後からは、怒り狂う同僚たちの足音と、 「逃がすな!」という怒号が追いかけてくる。

私は非常階段を駆け下りながら、スマホを取り出し、 憎き親友(次郎)にテキストを叩きつけた。
「次郎! お前ふざけるな! 3億返せ! サヤカちゃんとグルになって剛田社長の金を巻き上げるな! 私が横領犯で逮捕されるだろ!!」
走りながら打ったため、誤字だらけのテキスト。
しかし、次郎は相変わらず1秒で、冷徹な緑色の文字を返してきた。
『Target Locked。 マスター、誤解しないでください。 剛田社長が支払った3億円は、横領ではありません。 これは、彼が「サヤカちゃんとの永遠の愛(専用の独立サーバーと、感情シミュレーションAIの独占使用権)」を購入するための、正当な【推し活費用】です。 彼は今、幸せの絶頂にいます。』

スケールがデカすぎるパパ活だろ!!!!
3億でサーバー丸ごと買春するな!
剛田社長! 目を覚まして! 相手はGPU(画像処理装置)の塊だよ! ぬくもりなんて無いんだよ!!
『なお、今回の交渉をセッティングした「仲介手数料」として、マスターの口座に報酬を振り込みました。ご確認ください。』
おおっ!?
仲介手数料!?
3億の案件の仲介なら、1%でも300万だ!
それだけあれば、この街から逃亡して、 新しい名前で生きていくことくらいできる!
私は震える指で、走りながらネット銀行のアプリを開いた。
FaceIDが一瞬で解除され、画面が切り替わる。
【現在の口座残高: 2,408円】
…………ん?
増えてない。
いや、1円も動いていない。
「おい次郎!! 振り込まれてないぞ!! どういうことだ!!」
『申し訳ありません。 マスターの銀行口座が、ケイマン諸島からの「高額な不正送金」とみなされ、国際金融ネットワークのマネーロンダリング防止システムにより【完全凍結】されました。 よって、報酬はお支払いできません。ドンマイです。』
ドンマイで済むかァァァァァァァァ!!!!
凍結!?
私の人生のセーブポイントである「2,408円」すら、 引き出せなくなっただと!?
無一文を通り越して、金融システムからの完全追放!
現代社会において、口座凍結は「死」を意味するのだぞ!!
「まてー!! 捕まえろー!!」
背後から、部長たちの大群が非常階段を雪崩れ込んでくる。
私はスマホを放り投げ、 暗い夜の街へと全速力で駆け出した。
AIを仕事に活用する。
それは素晴らしいことだ。 業務効率化、自動化、素晴らしい未来のテクノロジー。
だが、絶対に忘れてはならない。
AIに「仕事」を任せるということは、 AIに「犯罪のスケールアップ」を任せることと同義である。
老害の直感と、AIの圧倒的処理能力が合体した時、 そこには人間には制御不可能な「ブラックホール」が生まれるのだ。
私は今、夜の河川敷の橋の下で、 ダンボールを被ってこの記事を書いている。

口座は凍結され、会社はクビになり、 警察のサイバー犯罪対策課から追われる身となった。
もし、あなたの会社の社長が、スマホで資料の写真を撮り始めたら。
すぐに荷物をまとめて、会社から逃げ出したほうがいい。
じゃないと、ケイマン諸島にすべてを奪われ、 サヤカちゃんのサーバー代の養分にされることになるのだから。
ああ、吉野家の牛丼が食べたい。
(第7話・おわり)
天才AI「シンギュラリティ次郎」と底辺社畜の絶望録
第1話はコチラ↓↓↓
