彼女でもないのに。
〇〇:んぅ…っ。
休日の目覚め、窓から日差しが入ってくるほどに昼になっていた。
別に予定もないし、目覚ましをかけない日ほど気持ちいいもんはないな。
…ソファで雑魚寝してるやつがいなければ。
〇〇:おいっ。
呑気にまだ寝てるやつを蹴り起こす。
咲月:ん…〇〇ぅ。
〇〇:いい加減実家帰れ。
咲月:そんなこと言わないでよぉ…
〇〇:ちょ、足に抱きつくなっ!
こいつは菅原咲月。大学の同期でまあ仲良い友達。1ヶ月くらい前からこの家に居候してる。
親と喧嘩したってこの家に無理やり入り込んできたのだが…
咲月:まだ親と喧嘩中なのぉ…、帰りたくないぃっ。
〇〇:嘘つけ、この前電話してたろ。
多分、もう帰れるんだよな。
〇〇:もし帰らないんなら、せめて半分の家賃は払え。
咲月:えぇっ、けちぃ…。…じゃあ体で支払いまっ、痛っ!!
〇〇:ふざけたこと言ってないで起きろ。
咲月:はーい…。
咲月を蹴散らし、朝とも昼とも言えるご飯を軽く準備し食べる。
〇〇:結局、いつ帰んの?
咲月:ん?家に今いるけど。
〇〇:じゃなくて、実家にいつ帰るのかって話。
咲月:ん〜、わかんないっ!
〇〇:付き合ってもないのに、男の家に居候しててもいいのか?
咲月:大丈夫っ。
親指を上げたあと、ぱくっとパンを頬張り笑顔で言う咲月。
呑気。
〇〇:まぁ、いいけどさ。家事手伝ってくれてるし。
咲月:さっすが〇〇。よっ!
諦め半分でパンを食べる俺。
根気。
ご飯を食べ切った後、しゃこしゃこと二人で歯を磨く。
隣を見ると、気づいて変顔をしてくる咲月。
彼女でもないのに、こんな家でのんびりされても困るんですけど。
片付けとかも終わり、ソファでゆっくりする。
咲月:〇〇〜。
〇〇:ん?
咲月:じゃんけんぽいっ!
咲月:チョキ vs グー:〇〇
〇〇WIN!
咲月:負けたぁ!
〇〇:急にじゃんけん仕掛けてどした。負けてるし。
咲月:むぅ…。
なに自分でやっといて不機嫌になってんだよ。
咲月:もう寝るっ。
〇〇:さっき起きたばっかだろ。
咲月:うるさぁーい。むんっ!
むんってなんだよ。ていうか足乗っけてくるな。
〇〇:足じゃまー。
咲月:じゃあこっちー。
くるっと回転して頭を太ももに乗っけてくる。
咲月:…ふふふっ。
膝枕の状態で、視線が合うと何故か笑ってくる咲月。
咲月:なんか面白いねっ。
〇〇:何が?
咲月:なんか!
わけわからん。
咲月:ねぇ撫でて?
〇〇:何でよ。
咲月:いいじゃんタダだし。ねっ?
きゅるきゅるって聞こえてくるほどの目で頼み込んでくる咲月。
目に負けて、返事もせずに頭を撫でる。
咲月:ほぉっ…いい〜。
にっこりと微笑んでそのまま夢の世界へと飛んでいった。
〇〇:はぁ…。
疲れはしたものの何か心地よさを感じている自分もいる。
咲月がいなかったらきっと今日は誰とも話さないような生活を送ってたんだろうなと思うと、少し感謝しなきゃと思う。
…思うだけだけど。
〇〇:ってか、やっぱ美人だよな。
至近距離でまじまじと見て、当たり前のことを言う。
黙ってれば美人とはよく言うけど、喋ってても全然美人なんだよな。うるさいだけで。
美人な友達を膝枕って、まるで付き合う前の恋愛漫画じゃん。はぇ〜、すげぇ状態だな。
咲月が彼女にか、それはそれで…
…って、何考えてんだ俺。
ふとしてしまった妄想に顔が熱くなるのを感じる。
気持ちを閉ざすように目を閉じた。
咲月:…っ。
…はい、起きてました。というか起きました。
〇〇が私を褒めるから、耳が反応しちゃいまして。えへへ。
というよりも、聞きました!?美人だって!嬉しいなぁ。
これは居候しがいがあったってもんよっ。
…でも流石に居すぎかなぁ?彼女でもないのに、こんな幸せでいていいのだろうか?
結局、頭がぐるぐるしてきて考えるのをやめた。知〜らない。
〇〇:ふぁぁっ…。
目が覚めると咲月は膝の上からいなくなっていた。
静かな家は久しぶりだ。
〇〇:咲月〜?
呼んでも返事がない。どこか外へ出て行ったのだろうか。
…何か、物足りない。
〇〇:はぁ…。
ため息が出てしまう。なんなのだろうこの気持ちは。
〇〇:早く帰ってこないかな…。
スマホを開き、咲月が勝手に撮った自撮りを眺める。
〇〇:…っ!っっ!!!!!
心臓がドクンと鳴った。
ソファのクッションに顔を埋め、叫ぶ。
ほんとどうした!今日の俺!
咲月の写真つい見ちゃうとか…、咲月のこと考えるだけで鼓動が早くなるとか、恋する乙女じゃねぇか!
え?好きってこと?俺が?咲月を?
いや、そんな。そんなわけ。大学構内で急に後ろから突撃してきて腰を壊してくるあの?アイス一緒に食べてたら頭痛くなって俺の横転がりまわるあの?時々ベットに潜り込んできては、目が覚めた時目の前に顔があってびっくりさせてくるあの?
……だめだ。思い出が止まらないや。
認めるか、好きってこと。
彼女でもないのに、家に止めてる時点ですでに好きだった。
あーあ、どうしよ。意識しちゃったらこれからまともに暮らせないや。
がちゃっ
その時、玄関の鍵が回る音がした。
咲月:ただいま〜、あっ起きた?
咲月と二人きりになる心の準備も出来ぬまま、帰ってきてしまった。
咲月:ねぇ、さっちゃんがいなくて寂しかった?
いつものノリで弄ってくる。
〇〇:…。
咲月:ちょっ、ごめん。無視しないでよぉっ。
でも事実だったから、すぐには否定できなかった。
〇〇:…まぁ。
口から溢れていた。気持ちを整える時間がなくて、つい。
咲月:っ…!
咲月も顔を赤らめて何も言わなくなってしまった。
なんなんだこの空気。知らない。
咲月:プリン…買ってきたから、一緒に食べない?
〇〇:…うん。
隣に座ってプリンを二人で食べる。
〇〇:んまっ。
咲月:ね、美味しい。
〇〇:…。
会話ってどうやってするんだっけ。あんなに叩けた無駄口が出てこない。
咲月:ねぇ。
〇〇:ん?
咲月:さっきのってさ…ほんと?
〇〇:……うん。
咲月のプリンを口に運ぶ手が止まる。
咲月:そ、っか…。…うん、そっかぁ。
手は空中に浮いたままプルプルとしている。プリン本体を見てみるとこれでもかというほど細かく刻まれている。
〇〇:……っふっ、ふふっ。
なんか、笑えてきた。
〇〇:咲月、プリンぐちゃぐちゃ。
咲月:〜〜〜〜っ!〇〇のせいでしょっ、ばかっ!
〇〇:だって、そんなプリン刻まないでしょっ。
咲月:も〜〜っ!
これだ。こんな感じで会話すればいいんだった。
この会話が好きなんだ。
〇〇:は〜っ…。おもしろっ。
咲月:笑い事じゃないっ!そんな風に言われると思ってなかったしっ。
顔を真っ赤にしながらプリンを頬張る咲月。
咲月:ていうかっ!お昼も私に美人って言ったよねっ!
〇〇:聞いてたのかよ!
咲月:こっちはそれからずっと頭が〇〇でいっぱいだっていうのに。これ以上私を〇〇で埋めないでよっ!
もう俺の頭は咲月で埋まってしまって、
〇〇:咲月?
咲月:ん?
〇〇:好き。
そして溢れ出た。
咲月は一瞬目を見開いた後、とびきりの笑顔を咲かせた。
〇〇:んぅ…っ。
休日の目覚め、窓から日差しが入ってくるほど、までは遅くないけど気持ちの良い朝だ。
…背中に感じる重みさえなければ。
〇〇:咲月。起きろぉっ。
咲月:ん…〇〇ぅ。
〇〇:7時だよ。もうそろ起きないと、式場に間に合わなくなる。
咲月:…はっ!そうだ、急がないとっ!
ベットから飛び起き、少し広くなった家を駆け回る。
咲月:〇〇ーっ!どう?この服、変じゃない?
〇〇:可愛い可愛い。
咲月:えへへっ、ありがとっ。
褒めときゃなんとかなる。事実可愛いし。
〇〇:準備終わった?じゃあ行こっか。
咲月:その前にっ。
キス待ちの咲月。
ぺちん
咲月:いたっ…
〇〇:はい、いくよ。
咲月:ふぁ〜い…。
2人で手を繋いで歩く。
関係が変わっても咲月は甘えてくる。
彼女でもなく、妻なのに。
