2011防衛大綱で陸自戦車削減は当然
前書き
2011年度の防衛大綱では陸自の戦車の定数が現大綱の600輛から400輛へと大幅に減らされた。陸自は2010年時点で約780輛の戦車を保有しており、これを前大綱終了予定時の5年後までに600輛までに減らすとしていた。が、定数見直しによって今後10年で780輛を400輛に減らすことが求められた。
戦車削減に反対する声は少なくなかったが、それは感情論に過ぎない。有事に戦車を含む強力な敵の機甲部隊が師団単位で揚陸してくることはありえないと、防衛大綱でも明記されている。であれば機甲戦力は種火程度でいい、ということになる。
中国、ロシア、北朝鮮に日本本土に機甲部隊を上陸させる能力はない。
本書は2010年に朝日新聞のWEBRONZAに4回連載した記事に加筆訂正したものである。
目次
戦車削減は当然
高騰する装備の調達と維持コスト
数だけは多くで動かない戦車は役に立たない
短期中期でもありえない敵機甲部隊の上陸
諸兵科連合を無視して戦車を偏愛する陸自
「戦場の霧」に弱い陸自
戦車以外の装甲車輛は博物館アイテム
ネットワーク化でロシアや中国にも後れを取る陸自
それでも戦車は必要
中国、ロシア、北朝鮮が機甲部隊を揚陸してくるのはフィクション
中国やロシアは日本征服を企む悪の秘密結社ではない。
敵が本土に上陸するのは日米の空海軍戦力が壊滅したときだけ
制空権を失った機甲部隊は虐殺されるだけ
10式戦車の導入は不要だった
戦車削減は当然
2011年度の防衛大綱では陸自の戦車の定数が現大綱の600輛から400輛へと大幅に減らされた。だが前大綱の戦車削減でも400両に削減されることが決定していたが、これを10年かけて行うとしていた。時間の概念がないと言わざるをえない。
実は大綱終了時までに定数を減らす、というのは陸幕の勝手な理屈である。筆者は削減を前倒しし、早期に大綱の求める定数にするべきだと考える。そうすれば速やかに戦車にかけていた費用を、他の分野の予算に投じて近代化を進める、という大綱の趣旨を具現化できる。陸自が閣議決定された次期大綱に定められた戦車の定数削減を可能な限り遅らせるというのであれば、それは文民統制に対する挑戦である。
政府は、自衛隊の部隊数や各装備の定数を大綱の水準に速やかに移行させるべく、自衛隊に削減までの期限を要求すべきだだった。このような視点での言及が大綱に明記されていないのは残念である。
ネットなどでは戦車の大幅削減に反対する声が少なくない。だがこれは現実を直視しない空論に過ぎない。我が国の国防議論の問題は主として政治に興味のある人間は軍事、特に具体的な装備に関する知識が欠如あるいは無視しており、高邁かつ形而上学的な空論を弄ぶ傾向がある。一方「軍事に強い」と自称している側は、実は単なる「兵器オタク」で、予算の制
2010から導入された10式戦車
限、装備体系の概念を理解してない場合が多々見られる。
国防にはカネがかかる。しかし、予算は無限にあるわけはない。人類の歴史上、軍隊がすべての要求を満たすような予算を組むことができ出来た例はほとんどな無い。国防の本来の目的を果たすためには、限られた予算をやりくりして、その中で優先順位をつけなければならない。予算を無視した議論は、単なる机上の空論、妄想に過ぎない。
ましてやは我が国の財政赤字はクリティカル(致命的・危機的)な状況である。防衛費を大幅に増やせる状態ではない。この状態で極端な軍拡に走れば、ソ連同様、国が崩壊する結末を招く可能性すらある。
また、兵器の高度化に伴い既存兵器の維持・整備費が高騰しており、その金額は装備調達を平成17年(2005)に追い抜いている。また防衛費に占め
る人件費も多く、簡単に削ることはできない。
高騰する装備の調達と維持コスト
例えば、多額の維持・整備費をかけているにもかかわらず、海自のP―3Cオライオンは予算が足りず、既存の機体から部品を取り出して整備を行う、いわゆる「共食い整備」をしている。当然、充分な稼働率を確保できていない。陸自の攻撃ヘリAH-1Sは、稼働率も充足率が高いとされている北部方面隊ですら7割程度の稼働率に過ぎない。
陸自の偵察用バイクや無線機はなどの正面装備以外の装備は、整備・修理費が足らないだけではない。何割も充足率に満たさず何割も欠いている状態で、耐用年数が過ぎた装備の更新も滞っている。このためまともに稼働する装備は定数の2~3割に過ぎないものさえ、も多数あるほどだ。
当の戦車にしても、同様に整備費や整備員が足りず、稼働率は低い。定員4名の74式では2人名しか乗員が確保できないケースも見られる。
戦車は、イメージとは異なり実は繊細な兵器である。り、長距離を移動するときは大型のトレーラーに乗せて移動させる。自走させると故障が続出するし、戦闘に投入するまえには念入りな整備も必要となる。が、この運搬用トレーラーがもともと元々少ない上に稼働率も低い。戦車の多くは北海道に所在するが、その戦車を戦略機動させることが実質的に不可能である。つまり、有事に多くの戦車が遊兵化してしまう恐れが高い。
華々しい「富士総火演」(富士総合火力演習)は、どちらかと言えば納税者向けのエンタテイメントである。あれを陸自の実力と思ってはいけない。筆者はあらぬ幻想をふりまくくらいなら、「富士総火演」は中止してもいいすべきとすら思っている。
このような戦車を含めた現用装備の稼働率の低さ、人員不足、訓練不足の現状において、優先順位の低い戦車の整備が縮小されるのは、当然のことである。現状で戦争が起これば陸自の戦車隊でまともに戦えるのは3割程度ではないだろうか。
数だけは多くで動かない戦車は役に立たない
とすれば問題は、800輛近い数だけはあるが、整備費用も訓練も費用も捻出できず、人員も不足して稼働率も練度も低い状態戦車部隊よりも、400輛で稼働率が高く、定員も充実し、よく訓練されている戦車部隊のどちらを選ぶかと、いう選択でもあることだ。
自衛隊の戦車は、74式にしろ、90式にしろ、他国では当然行われている近代化を施されることなく放置されてきた。これは戦車の必要性が低い、戦車による抑止は必要ない、と自ら言っているようなものだ。ひょっとして、また充分な数の10式戦車が揃うまでは「脅威」は存在しないとでもいうのだろうか。随分と都合がよい話だ。
一輛10億円、年に15輛調達するとして150億円が新型戦車調達に必要となる。その分のどこかの予算を削らざるを得ない。また、せっかく新型の10式戦車を導入しても、これまでと同様、整備費・人員・訓練の不足で置き物化するのであれば、実戦では役に立たない。既存戦車の改良ならば、新型戦車を調達する数分の一から十分の一程度の予算で近代化が可能である。新型の戦車を並べるだけで国防が全うできるなら誰も苦労はしない。
短期中期でもありえない敵機甲部隊の上陸
周辺諸国の現状を見れば、何個師団も敵部隊が上陸してくるシナリオは考えにくい。優先してすべきは警戒すべきは島嶼をめぐる紛争であり、北朝鮮の弾道弾による攻撃だ。さら更に、情報化・ネットワーク化、島嶼防衛やミサイル防衛のための部隊編成や装備調達にも金がかかる。その予算をどこから捻出するのか。
ソ連が存在していた冷戦時代を引きずって、漫然と戦車などや「本土決戦」に向けた調達をおこなえば、これらの予算が捻出できない。結果として島嶼防衛を全うできなくなる。現状で戦車の定数の現状維持、あるいは増強を叫ぶのはへボ将棋、王より飛車を可愛がるの類だ。
2011大綱には明示されていないが、定数400輛には105ミリ戦車砲を搭載する8輪装甲車、16式機動戦闘車は含まれない。それにしても、第3世代の90式戦車は約340輛も存在する。10式戦車が単に旧式の74式を更新するだけならば100輛弱程度で済むことになる。現状10式の調達数は百数十輛が予定されているらしいが、仮に150輛だとすると、約600億円の開発費(サブシステム含む)と65億円の初度費を案分すると、1輛当たりの実質調達コストは15億円弱になる。100輛ならば16.5億円になる。2025年度予算では10式の調達単価は20億円を超えている。当初の2倍である。
これほどのコストをかけて調達する必要があるのだろうか、非常に疑問である。
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