エプロンして食べる男性はお嫌いですか?
妻は外食するとき、必ず自分用のエプロンをする。
店によくある紙エプロンではない。花柄のハンカチを首から下げる『マイエプロン』だ。いつも小さなクリップも持ち歩いていて、落ちないようにしっかりとめている。
ホテルのレストランはもちろん、おしゃれなカフェでも、ファストフード店でも、ラーメン屋でも、車の中でおにぎりを食べるときも必ずする。すっかり見慣れてしまったので、していないほうが妙に見える。
といって、彼女の食べ方が汚いとかよくこぼすかというと、そんなことはけっしてない。そんな場面、一度も見たことがない。
一方、私はいい歳して食べ方が雑だ。
口の周りに、たいていソースが付着する。
しかも、高い確率で何かをこぼして服を汚す。スープやケチャップの染みで、ダメにしたシャツやスーツも数えきれない。だから『シミ取りセット』はいつも持ち歩いていた。
あるとき妻が言った。
「そのシャツ、誰が洗うと思っているの?」
それからは、私も『マイエプロン』を持ち歩くようになった。高速のサービスエリアで購入した、濱文様の「てぬぐいのはんかち」だ。白いハンカチだと汚れが目立つし、いかにもという感じなので紺色にした。
外食するとき、このハンカチの角を首元に挟み込んで胸元から腹あたりまでカバーする。繰り返すがエプロンだ。よだれかけではない。
これが実にすばらしい。
服が汚れないのはもちろんだが、汚す心配をせずに安心して食べられるというのは感動ものだ。
はねたスープやソースをエプロンがガードしてくれたときは、はじめて自転車に乗れたときほど心が震えた。
それ以来、マイエプロンを常に持ち歩いている。
トマトソースたっぷりのパスタも、濃厚な味噌ラーメンも、肉汁が飛び散るステーキも、ケチャップたっぷりのハンバーガーだって、もう私は怖くない。
ただ――
ただ、正直にいうと、いまでも少し照れくさい。
焼肉屋とか、紙エプロンを常備している店なら、店公認だからと思って安心してそちらを使える。
けれど、そもそも紙エプロンなど置いていない、定食屋やそば屋でマイエプロンを使うのはかなり勇気がいる。
子供じみていると思われるか、それとも気取ったやつと見られるか。
できるだけ店の端っこに行って、他の客や店員に背を向ける。そして食べ終わったら、すぐにさっと畳んで鞄にしまう。
私は自分以外でマイエプロンをしている男性を見たことはない。
でも、もし外食したときに、マイエプロンをしている男性を見たら笑わないでやってほしい。
そっと見て見ぬふりをしてほしい。
武士の情けだ。
なお、「マイエプロンを使う以前に、きれいに食事することを学べよ」という声は聞こえなかったことにする。
<了>
