Zhannat Alshanova『Becoming』カザフスタン、水泳チームに入ったけれど…
傑作。ジャンナット・アルシャノヴァ(Zhannat Alshanova)長編一作目。17歳のミラは不安定な環境に身を置いている。母親は外国人の男を追い掛け回して不在がち、妹はビデオゲームの世界に逃避することを学んで独りでいてもへっちゃら、母方の祖父母はかなり偉い人っぽいが旧来的な考えの持ち主なので近寄りすぎると結婚させられる可能性がある、など八方塞がりだ。そんな中、夏休みに訪れたアルマトイ郊外のホテルで、オープンウォータースイミングの練習をするチームに遭遇する。ミステリアスな白人コーチのヴラドがミラの泳ぎを褒めたことで、彼の率いるエリートチームに入ることに…云々。アディルハン・イェルジャノフ『士官候補生』っぽいスパルタ系映画かシャルレーヌ・ファヴィエ『スラローム 少女の凍てつく心』みたいな男性コーチによる女性選手への性加害の映画と勝手に想像していたが(ヴラドはジェレミー・レニエにちょっと似てるのだ)、ミラの所在なさを描く方に重点を置いており、なんなら水泳が別の競技に代わっても問題ないレベルで"スポーツ"とは距離感があった。それでも興味深い点は多く、特に他のチームメンバーが途中参加した自信満々な一匹狼のミラを簡単に受け入れて、その日にパーティに誘うという陽キャっぷりを見せていて面白かった。結果としてそこでメンバーの一人が亡くなってしまい…からの展開も、熾烈なレギュラー争いがあるわけでもなく、チームの存続危機が…みたいな展開にもならず、淡々と試合に向けて進んでいくのが寧ろ怖かった。明白に虐められでもしたら彼女の意識も"戦い"に向くのだろうけど、普通に実力もあるので普通に認められて、でも陽キャ集団には馴染めないという一番悲しい道を辿ることになり、逆に孤独感が深まってしまうのだ。チームメイトが亡くなったタイミングで、それぞれのメンバーの教育熱心そうな親たちが続々と警察署に到着する一連のシーンが、"良い"集団にいるのに孤独を感じる瞬間として最も分かりやすく、ミラの親はその場にいる過保護な親たちとは対照的に現われすらしないのだ。しかし、最も悲しいのは母親を忌み嫌うミラがしっかり母親の血を引いていること(或いは成長する段階で身近な例が母親しかいなかったせいか)が判明することだ。補欠降格が決まるとヴラドを誘惑しようとし、コンペで勝ったら一緒にヨーロッパ行こう!と妹を誘う、あまりにも母親と一緒のムーヴをしている。なんなら賄賂を渡してコーチを買収しようとする、これは元内務省勤務の祖父の周辺から学んだやり口だろう。しかし、それをミラは気付いていない。そんな淡々とした物静かな映画の絶望がここにある。絶望の作家たちを大量に輩出しているカザフスタンらしい作品だ。
それにしても、撮影監督がキャロリーヌ・シャンプティエなんだよな。タマラ・ステパニャンは新作でクレール・マトンと組んでたし、東欧の女性監督にベテラン女性DPが参加する企画が増えてて良いですね。

・作品データ
原題:Становление
上映時間:93分
監督:Zhannat Alshanova
製作:2025年(フランス, カザフスタン等)
・評価:80点
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