モデルにガチ恋しないために

別のSNSでおじさんポトレに関するポストをしたのを機にいろいろな相談が寄せられるようになったのだが、その中にモデルさんにガチ恋してしまって辛いという相談があった。恋愛テーマの写真が多い僕としても大事なことなので、参考になるかわからないが僕が心がけていることを書いておく。

モデルにガチ恋してしまうことはあり得ないことではないし、気持ち自体は「生まれてしまったもの」として責めすぎないほうがいい。距離感バグったらまずいと理屈ではわかっていても、心が動くこともあるだろう。大事なのは気持ち自体より、その気持ちをどう扱うか。コントロールの第一歩は感情を消そうとすることではなく、行動の境界線を明確に保つことから始まる。

彼女が親しげに接してくるのは好意の告白でも特別な感情の証明でもない。モデルとカメラマンの関係では安心感、信頼感、撮影しやすさ、場の空気づくりとして柔らかく親しく接する。そこを恋愛の文脈で読まないことだ。

考え方のコツは、相手の言動を「意味」で読まず「機能」で見る。よく笑ってくれる、褒めてくれる、距離感が柔らかい、相談めいた話をしてくれる。そのたび「これは自分への特別な好意か」と解釈すると気持ちは膨らんでしまう。実際にはその言動は「撮影を円滑にするため」「人として感じよくしているだけ」「相手がもともとそういうコミュニケーションの人」「その場の安心感を作っている」だけだ。自分に向いているように見える親しさと、自分だけに向けられた特別さは別物。彼女が親しげだったときは「これは“関係が良好”というサインで、“恋愛感情”のサインではない」と置き換えよう。

もう一つ大事なのは、自分が欲しいものを相手の言動に投影しないこと。人は、期待しているものを見つけやすい。少し優しくされると「もしかして」と思いたくなる。少し頼られると「自分は特別かも」と感じたくなる。これは珍しいことではない。だからこそ、自分の解釈を疑う姿勢が必要。
とくに注意したいのは「秘密の共有感」だ。弱い面を見せてくれた、他の人には言わない話をしてくれた、自分の前だけで力が抜けている感じがした。こういう場面は、男性としては特別感を抱きやすい。でも「心を開いている」ことと「恋愛対象として見ている」ことは違う。安心できる年上の相手、話しやすい相手、落ち着いて受けとめてくれる人に対して、人は自然に心を開く。そこに“恋愛”を読み込むと、関係を見誤る。勘違いを防ぐ最善策は「自分に都合のいい意味づけをしない」これに尽きる。

あなたが辛いのは「好きになってはいけない」という抑圧と「でも会うと気持ちが高まる」という現実の間で揺れるからだ。こういうときは、気持ちを“恋”として育てない工夫が必要。相手を一人の女性として想像の中で膨らませるほど感情は強くなってしまうので、会っていない時間に彼女のことを反芻しすぎないことが大切だ。
一方、無理に「忘れよう」とするのも逆効果。おすすめは「自分はいま彼女に惹かれている」と認めたうえで、「ただしそれは自分の内側で処理する感情であって、相手に背負わせない」と決めること。この線引きができると、気持ちは少し扱いやすくなる。恋愛感情ではなく「創作意欲を刺激されている」「若さや美しさへの憧れが動いている」「自分の中のまだ生きている感性が反応している」と捉え直すのも有効だ。

実務的には、距離感を少し整えると楽になる。必要以上に1対1の私的な会話を増やさない、撮影目的以外の連絡をしない、撮影外で会う口実を作らない。このあたりを自分のルールとして徹底しておくと、気持ちが暴走しにくくなる。相手に冷たくする必要はない。むしろ、礼節とカメラマンとしての意識を丁寧に保つことが、結果として一番優しい態度になる。

もう一つ大切なのは、彼女に向かっているエネルギーを、別の場所に戻すこと。多くの場合、恋の高まりは相手そのものだけでなく、自分の中の空白や渇きにも結びついている。刺激、若さ、承認、非日常、人生のときめき。もしそういうものが不足しているなら、作品づくりでも写真以外の趣味でもいい、身体づくり、同世代の友人関係などに意識的にエネルギーを振り向けると感情の偏りは和らぐ。とくに撮影の表現や技術に昇華するのは、カメラマンに合った健全な変換方法ではないか。

大人の節度とは「感じないこと」ではなく、「感じても壊さないこと」だ。

コントロールの鍵は3つ。
1=気持ちは否定しないこと
2=行動の境界線は厳密に守ること
3=そのエネルギーを別の大切なものへ戻すこと

それでもなお「会うたびに気持ちが強くなって辛い」場合は、「気持ちをなくす」よりも「強くなっても行動に変えない仕組みを作る」ことを重視しよう。恋心は波のようにくるが、波そのものより、波が来たときの振る舞いを決めておくとかなり楽になる。効果的なのは、会う前・会っている最中・会った後で対策を分けること。感情はその場で急に生まれるように見えて、実際は前後の過ごし方でかなり増幅するものだから。

会う前
撮影前に気持ちが高まるなら、心の中で次のように言葉を固定しておく。
「今日は感情を満たす日ではなく、撮影をきちんとやる日」
事務的なくらいでちょうどいい。撮影前の準備も、感情対策として使える。衣装、光、構図、進行表、撮るカットの順番を細かく決めておくと、頭が“人”ではなく“撮影”に入る。恋心は、余白があるほど膨らむのだ。逆に、段取りが明確だと暴走しにくい。
また、会う前に彼女のSNSや過去写真を見返す時間は減らそう。これは実質的に感情を育てる行為になるからだ。

会っている最中
撮影中に有効なのは、相手を“恋愛対象”として見る回路を切って“被写体”として観察する回路に戻すこと。目の動き、姿勢、光の当たり方、背景との距離、レンズとの相性に集中する。美しさを感じること自体は悪くないが、その美しさを私的な感情に変えず、作品上の要素として扱う意識だ。
会話も大事。私的な親密さが深まる話題、たとえば恋愛、孤独、結婚観、悩み相談、夜中の長文メッセージにつながるような流れは避けよう。感じよく、敬意を持って、でも必要以上に“特別な理解者”にならないこと。モデルにとって、安心して撮影ができる相手であることが最優先だ。

会った後
撮影後が危ないことも多い。「今日はいい雰囲気だった」「自分だけに見せた表情かもしれない」と意味づけを始めると、一気に恋愛物語になる。
撮影のやりとりは、できるだけその日のうちに事務的に完結させる。お礼は丁寧に、でも余韻を引っ張らない。必要以上に雑談を続けない。
帰宅後に気持ちが高ぶるなら、ルーティンを固定して欲しい。たとえば、30分以内に機材整理、セレクトのメモ、軽い散歩か入浴。人は“空白”で反芻する。終わったあとに身体を使う行動を入れると、感情の熱が下がりやすい。

それでも気持ちがさらに強くなってきた場合。たとえば彼女の予定やSNSが気になって仕方ないとか、他のカメラマンの存在に嫉妬するとか、メッセージを何度も見返すとか。ここまでくると感情が“鑑賞”ではなく“執着”に近づいているサインだ。その場合は、一時的に接触頻度を下げるのが有効。
撮影依頼の間隔を空ける、別のモデルとも撮影機会を増やす、1対1での時間を短くする。冷たくする必要はない。ただ、自分を守るための距離調整だ。

感情が動いたこと自体と、それをどう扱うかは分けて考えたほうがいい。罪悪感が強いと「こんな気持ちを持った自分はもう不誠実だ」と極端に考えがちだが、本当に問われるのは感情そのものより、行動。罪悪感は、自分が大事なものをわかっている証拠。「俺はだめだ」と自分を責め続けるより、「この罪悪感は軌道修正しろというサインだ」と受け取るほうが建設的だ。

つまり、心が一瞬揺れることはあり得る。ただ、それを育てない、相手に向けない、人間関係を壊す行動に変えない。この3つを守ることが誠実さだ。

以下に、僕が決めている境界線ルールを付記しておく。理想論ではなく、具体的で、判断に迷わないルールにしているつもりだ。

1=連絡は原則として撮影・仕事の用件だけにする
雑談そのものが悪いわけではないが、感情が強い時期は私的なやりとりが気持ちを育ててしまう。だから、自分の中でこう決めるのだ。「自分から送る連絡は、撮影で必要なことだけ」と。相手から雑談が来たら感じよく返してもいい。けれど、自分から関係を温めに行かない。これがポイント。

2=2人きりの私的な場を作らない
撮影や打ち合わせは別として、食事、飲み、相談、送迎など、撮影外の1対1は避ける。理由は単純で、関係が変わるのはたいてい“撮影の外側”だから。ルールとしては「撮影の目的がない1対1は作らない」これで十分。相手に冷たくするのではなく、自分の線を守るのだ。

3=特別扱いをしない
予定を優先しすぎる、贈り物をする、他のモデルと違う扱いをする。こういうことは、相手へのサインになるだけでなく、自分の気持ちも強化してしまう。なので、「親切はしても特別扱いはしない」これを軸にすることだ。

4=会った後に反芻を長引かせない
学生時代の恋愛経験から実感したことだが、実は気持ちを強くしているのは会っている時間より会った後の反芻であることが多い。帰宅後に写真を見返す、会話を思い出す、意味を探す。ここで恋心は育つ。なので、「終わったらなるべく早く別の行動へ切り替える」。機材整理でも、散歩でも、入浴でもいい。余韻を物語にしないことだ。

5=妻との日常に意識してエネルギーを戻す
これは道徳論ではなく実務だ。外に向きそうな注意や関心を、家庭に戻す行動を僕は毎回入れている。会話でも、食事でも、ちょっとした外出でもいい。ルールとしては「ポートレート撮影を楽しんだ日は、その日のうちに妻へ一つ具体的な関わりを返す」。これがあると自身の軌道修正になる。

もしモデルさんのほうから少し踏み込んだ親しさを見せてきたとしても、まずはこう考えよう。
「自分が判断することではない。判断するとしたら、行動ではなく、境界線を保つことだけ」
つまり、相手の気持ちを読み切ろうとしない。白黒つけようとしない。“もしかして”に答えを出しにいかない。その代わり、自分はカメラマンとして一線を守る。これが一番安全で、一番品位がある。

本当の大人の強さというのは、相手の気持ちを見抜くことではなく、見抜けない曖昧さの中でも、自分の振る舞いを崩さないことだ。


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