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あの子が、会いに来た


夏休み中、

幼稚園に、
卒園児のお母さんから
電話があったらしい。

その日、
私は園にいなかった。

あとから、
電話を受けた先生に聞いた。

「同窓会の日、
先生はいますか?って言われたので、
いますよって答えました」

私のことだった。

そして、

「うちの子が、
どうしても先生に会いたいって」

そう言っていたらしい。

その彼女は今、4年生。

うちの園では毎年、
夏休みに同窓会がある。

卒園児が、
6年生までやってくる。

実をいうと、

彼女は、
卒園したあとが
一番気になっていた子だった。

1年生のときには、
同窓会に来た。

でも、

2年生、3年生では
来なかった。

どうしているかな、と、

ときどき思い出していた。

そして今日。

彼女が来た。

私を見つけると、

駆け寄ってきた。

「先生、会いたかった」

おお。

そんなことを言われる人生が、
私にもあったのか。

そして、大きくなった。

というか、

私と身長がほぼ変わらない。

幼稚園の頃は、

私がしゃがんで
話していたはずなのに、

現在、

目線、水平。

子どもの成長は早い。

こちらは、
きちんと退化している。

久しぶりに顔を見たら、

幼稚園の頃のことが、
次々と浮かんできた。

あんなこともあった。

こんなこともあった。


でも、

目の前にいる彼女は、
すっかり落ち着いていて、

学校のことや、
今のことを、

普通に話している。

なんだかもう、

「元園児と先生」というより、

年頃の女の子と
話しているみたいだった。

ああ。

大きくなったんだな。

身長の話ではなく。

いや、身長もだけど。

それが、

ものすごく嬉しかった。

「なんで会いたかったの?」

とは聞かなかった。

彼女も、
理由は話さなかった。

まあ、

会いたかったのだから、

会いたかったのだろう。

あとで、お母さんとも話した。

夏休み中、

「同窓会で先生に会える」

ということを楽しみにして、

いろいろなことを
乗り切っていたらしい。

それを聞いて、驚いた。

その頃私は、

自分が誰かの夏休みの楽しみに
なっているとは夢にも思わず、

普通に暮らしていた。


卒園すれば、

毎日のように顔を合わせる
先生と子どもの関係は終わる。

次の子どもたちがやってきて、

また毎日が始まる。

でも、

それで全部が
なくなるわけではないらしい。

こちらの知らないところで、

まだ残っているものがある。

毎年、たくさんの子どもを送り出す。

その子たちの中に、

自分がどんなふうに
残っているのかなんて、

わからない。

何を覚えているのかも、
わからない。

こちらは、

自分が何を言ったのかすら、

かなり忘れている。

でも、

ふとしたときに、

どうしているかな、

と思い出す子がいる。

彼女も、

その一人だった。

今日、4年生になった彼女が、

2年ぶりにやってきて、

私を見つけて
駆け寄ってきた。

「先生、会いたかった」

幼稚園の頃の彼女を思い出しながら、

目の前の彼女と話した。

こんなふうに話せる日が
来たんだなあ。

元気に、

大きくなっていた。

それが、

ただただ嬉しかった。


会いたかったのは、

彼女だけではなかったのかもしれない。

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