読書記録⑧ジャック・ケッチャム『冬の子』
誰も気にしないだろうけど、書こうとしていた一冊がなかなか進まず、先に⑧です。
不定期的に立つ2ちゃんねる(Twitter同様ずっと昔の名前で呼び続けるよ)の「胸糞小説挙げろ」スレッドでも、Googleで「鬱小説」というワードで検索しても必ず登場する「隣の家の少女」で有名なジャック・ケッチャムの日本オリジナル編集の短篇集が出た。
知ったのは、ケッチャムが好きすぎるあまり、ケッチャムの作品集を刊行し続ける扶桑社に就職したというみきどんさんのTwitter。
#たぶんあなたが一生推す人
— みきどん (@miki_m_1102) October 1, 2022
小説家ジャック・ケッチャムです。過剰なまでに残虐な暴力と死を美しい文章で綴った、鬼畜小説界の帝王。代表作は『隣の家の少女』『オフシーズン』。その魅力に導かれて私はケッチャム作品を出版している扶桑社に入社しました。ケッチャムに人生を変えられてしまった。 pic.twitter.com/yK5Vi8vSAk
「冬の子」発売日の2月上旬、大都会ではケッチャム祭りも開催され、みきどんさんの活躍(暗躍)によりケッチャムのポストカードなども配られたそうだが、一人そっとヨドバシから届いた新作を読み始めた。
※みきどんさんのケッチャム鬼畜営業ぶりについては、こちらの記事が大変面白い。
ケッチャムの代名詞でもある「隣の家の少女」を知ったのは、吉野朔実と日本で一番胸糞悪いお話を書く平山夢明の対談『狂気な作家のつくり方』(2009年/本の雑誌社)の「残酷な狂気のエッセンス」という章で紹介されていたのを見てだった。
二人が好きな作家としてチャールズ・ブコウスキー、トム・シンプスンらと並び名前があがっていて、その二人は既読だったので、平山がお薦めしていた作家・作品だからきっとろくでもないんだろうなと期待をして購入してみた。
以下、文庫裏表紙あらすじ。
1958年の夏。
当時、12歳のわたし(デイヴィッド)は、隣の家に引っ越してきた美しい少女メグと出会い、一瞬にして、心を奪われる。
メグと妹のスーザンは両親を交通事故で亡くし、隣のルース・チャンドラーに引き取られて来たのだった。
隣家の少女に心躍らせるわたしはある日、姉妹が折檻されている場面に出合いショックを受けるが、ただ傍観しているだけだった。
ルースの虐待は日に日にひどくなり、やがてメグは地下室に監禁されさらに残酷な暴行を―――。
キングが絶賛する伝説の名作!〈解説 スティーブン・キング〉
本を手にとりあらすじを読み、この話が「シルヴィア・ライケンス(バニシェフスキー)事件」を題材にしていることに初めて気づいた。
昭和の日本でも似たような監禁事件は起きていたが、このシルヴィア事件も身勝手で愚かな人間による胸糞な犯罪で、それら実際の事件と比べてしまうと、(勝手に過剰な期待を持ってしまっただけに)「隣の家の少女」には物足りなさを感じてしまった。その時(2010年頃?)はケッチャムは結局それきりに終わった。
2025年に入ってみきどんさんにより新刊発売が予告されてから、現行で入手可能な『オフシーズン』、『老人と犬』、そして『隣の家の少女』を購入(再)し、改めて読んでみた。
実は「オフシーズン」も15世紀の実在(伝説)の事件をもとにした作品と言われているが、内容がぶっ飛んでいる。
※「進撃の巨人」でもネタに使われていた
以下、再び文庫裏表紙から引用
避暑客が去り冷たい秋風が吹き始めた九月のメイン州の避暑地。ニューヨークから六人の男女が休暇をとって当地にやって来る。
最初に到着したのは書箱編集者のカーラ。すこし遅れて、彼女の現在のボーイフレンドのジム、彼女の妹のマージーとそのボーイフレンドのダン、そしてカーラのかつてのボーイフレンドのニックとそのガールフレンドのローラが到着した。
六人全員が到着した晩に事件は勃発した。当地に住む〈食人族〉が六人に襲い掛かったのだ。
〈食人族〉対〈都会族〉の凄惨な死闘が開始する。
「〈食人族〉対〈都会族〉」というパワーワード!
内容は本当にこのまんま。
食人族によって都会族はゲームの敵キャラクターのように無造作に殺され、ある者は食われる。
都会族の反撃、地元警察の出動等もあってある程度の決着はつくが、彼ら食人族の謎(元ネタに絡ませての伝奇的要素)は一切説明されず終わる。
しかしそんな細かいことはどうでも良く、話はテンポ良く進み(ほぼ一日の話)、読後の闘い終えた感がとても気持ち良い。
そして「老人と犬」。
若者たちに理不尽に愛犬を殺された老人が復讐するだけの話なのだが、これもとても良い。
ほかの2作と比べ、老人が怒りに我を忘れナイフを振り回し切り刻むようなことも、また返り討ちにあって理不尽に殺されたり食われたり身体に字を刻まれることもなく(犬は殺されちゃうけど)、淡々と計画的に犬の無念を晴らしていく様子が爽快で同じ作者とは思えない。
ケッチャム作品はすべて扶桑社文庫から出ていて、表紙は日本オリジナルの作品イメージをとらえた美しいものなんだけど、裏表紙にオリジナル版のデザインが載っていてこれがなかなか酷い。



で、今回の「冬の子」。

スティーヴン・キング絶賛!
2018年に亡くなったケッチャムの作品が刊行されるのは11年ぶりとのこと。
没後に日本オリジナルの作品集が編まれるのも、「隣の家の〜」を始め、根強い人気作品があり、ネット等で取り上げてくれる人たちがいるから、と訳者解説で金子浩さんが感謝の言葉を述べている。
19作を収録したこの短篇集は、普段「胸糞」、「鬼畜」、「鬱小説」といった括りで語られやすいケッチャムのイメージを裏切る作品が多い。
もちろんヴァイオレンスもあるが、ミステリ(風)、ウエスタン、ゾンビ、幻想、そして動物小説(猫・蛇・森の動物たち!)等々、多岐にわたる。
個人的にはケッチャム自身を反映したと思われる女性作家が、殺し屋に奇妙な依頼をする「作品」、あるレストランに居合わせた人々を描く群像劇「二番エリア」、夫が出ていってしまったあと、家中の鏡を布で覆ってしまう「母と娘」がお気にいり。
ただお薦めはブラム・ストーカー賞を受賞した「箱」、「行方知らず」で、いつものケッチャムとは違う意味での後味の悪さや怖さを感じられると思う。
ちなみにこの「ブラム・ストーカー」とは「吸血鬼ドラキュラ」の作者のことで、アメリカのホラー作家協会が主宰し、その年に出版された最も優れたホラーやダークファンタジーに贈られる賞とのこと。
1988年創設と歴史は浅いが、第1回目の最優秀長篇賞がスティーブン・キングの「ミザリー」、第2回目が「羊たちの沈黙」ということからも、この賞の権威が分かる。
ケッチャムは前述の2作品がそれぞれ1995年、2001年に短編部門で受賞。2004年には長篇フィクション賞(「閉店時間」)、最優秀短篇賞(「Peaceable Kingdom」)の二冠を達成している。
そんな偉大な賞を受賞したこの二作品は、ケッチャムが描くところの人間にとっての恐怖の正体そしてそのヴァリエーションについて、思わず唸らされる。
「ケッチャム読んだことないけど、いきなり『隣の家の少女』はハードルが高いよ!!」
という方々は是非この「冬の子」を手にとってみてください。
※なお以下のサイトは、2011年に先述のケッチャム作品翻訳者・金子浩さんが記した初心者向けケッチャム入門。
現時点では、今回このnoteで紹介した4冊以外の紙媒体は品切れ状態!
「冬の子」が話題になって是非再版して欲しい。
