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ヤフオクで刀(真剣)を買った話


購入まで

真剣を欲しくなったのは居合を習い始めて半年も経たない頃だった。
それまでは道場主に頂いた居合刀を使っていたが、まったく愛着が湧かず、自分の刀が早く欲しいと思っていた。暇さえあれば刀のオンラインショップを眺めたり、都会の刀剣店に足を運んだりしたが、私の心に刺さる刀は一振りもなかったのだ。
なぜかは自分が一番よくわかっている。
私が欲しい刀は、エピソードのある刀なのだ。
最近作られた刀や、値段の張る刀、有名な刀工がこしらえた刀・・
全く興味ない。

そうじゃない、こういう刀が欲しい!↓

妖刀使っている居合道家いたら連絡ください。

誰かの手を渡ってきた歴史(エピソード)のある刀が欲しいと、男なら一度は思ったことがあるのではなかろうか。

そんなある日、ヤフオクに一振りの刀が出品された。
私の目が釘付けになった。

キャプションにはこうある。

「居合を長いこと続けてきた者です。歳のため、居合を引退しこの度、愛用してきた刀を出品することとしました。私の意志を継ぎ、大事にしてくださる方にお譲りします。」

そして添えられている数枚の渋い刀の写真。あの時の感情を一言で言うなら、一目惚れだ。
私は迷うことなく入札ボタンを押した。

それから一週間、気になってそのページを何度も開いた。
私以外に入札する者はいなかった。
恐らく出品者の方にとっては、大損といえる価格で落札された。
キャンセルを切り出されても文句は言えまい・・。
そう思っていたが、直ちに発送された。
届くまでの数日間、首を長くして待ちわびた。

現物について

これは期待できます。

届いたのは、立派な白鞘袋に入った刀だった↑

普通の刀袋ではなく、この豪華な袋はそれだけでも高価な代物である。
ほどき方も知らない私はネットで調べて、丁寧にほどいていった。

そして、現れた真剣。私は思わず息をのんだ。

かっこええ

真っ黒な柄がひょっこりと顔を出した。
漆で塗り固められており、黒光りしている。
そして年季の入った鍔はずっしりと重い鉄製で赤い錆がうっすらと浮かんでいる。
鞘には銅版が一部埋め込まれ、これまた異様な雰囲気を出している。
刀身は研ぎ澄まされ、特に切っ先部分は指で少し触っただけで斬れそうなほどの鋭利な仕様だ。
とにかく意味が分からない。その時の私には理解できない加工が随所に施されていた。
正直、めちゃくちゃ気に入った。

登録証の一部。銘は「祐定」とあるが・・。

私はそれをホーム道場に引っ提げて、先輩方に見てもらった。
みんな笑顔になる。
「ええ買い物したなあ」
「えらい研がれとるなあ、よう切れそうや」
「時代物やな・・大事にしいや」
我が子(いないが)を見てもらっているようでなんだか気恥ずかしい。

まだ初心者だからそんなもの使うんじゃない、と誰も忠言してこないのがホーム道場のいいところであり、危ういところなのかもしれないと感じた。
(その時にはすでに道場主のY師範は亡くなっていたのである。)

専門家に見てもらうと

それからしばらく経ったある日、私はその刀を持って、わが県の刀剣保存協会の刀剣鑑賞会に参加した。
刀剣鑑定をしているところもあるが、タダでプロに見てもらうにはここしかないと、下心満載で乗り込んだのである。

保存協会のプロの鑑定士さん方に見ていただいた結果、この刀の情報として以下のことが明らかになった。
・製作は1670年ごろ(江戸中期)
・新刀
・茎(なかご)が削られていて、下の部分がカットされている
・↑68cmという短い長さになっているのは軍刀仕様にしたためか?
・おそらく祐定ではない。(本物の祐定はもっと反りが深い)
・鍔と頭と縁は製作当時の物だが、鞘と柄は最近作られたものだそう。

鞘の部分に銅版が巻かれているのは、割れ防止(あるいはすでに割れたのを修復した)のためであろう。柄が漆で塗られているのは水洗いをしやすくするためであろう。・・とのことだった。

実際の使い心地

ズシリと重い。量ってみると1340gもある。
実際、この刀をずっと手に持っていると非常に疲れる。
鍔が純鉄製のためか、短くカットされた故か、重心が手元に寄っているのも実に扱いづらい。
何より、真剣なので講習会や普通の練習に持っていくのも憚られる。(危険なので。)刀を置いて気楽に外出できなくなった。
樋はあるのに、なぜが振っても樋鳴りがほとんどしない。

総評

十数万円という破格の値段で良い刀と巡り合えるチャンスがあるという意味でネットオークションには夢があると思う。
しかし、真剣を所持するというのは大きな責任が伴う。
手入れの事、安全面のこと、防犯上の事、引継ぎの事。
安易な気持ちで手を出すのは危険な代物であることは間違いない。

しかし、引継ぎ手がいないから国内の歴史ある刀がどんどん失われているのも事実だろう。次世代に引き継がれなかった刀は、持ち主の死亡と同時に管轄の警察署が引き取り処分している現状を知る人は少ないだろう。

この刀と出会えたのは何かの縁だろう。
いつか誰かに引き継ぐとき「これはあの人の愛刀なんだよ」と言われる刀にしてあげたい。結局は、どんな刀を使うべきかではなく、私自身がどうあるべきか、なのだ。

研ぎ澄まされた刀身。湾れ刃が妖しく煌めく。

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