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『スター・トレック』が予見した通信の未来〜SF作品が描く携帯デバイスのレビュー#2


宇宙を舞台にした米国TVシリーズ『スター・トレック』(初作は1960年代)には、未来の携帯情報端末が多数登場します。その中でも「コミュニケーター」と「トリコーダー」、そして「PADD」(携帯情報端末)は現実世界に与えた影響も大きく、有名です。

コミュニケーターは、乗組員が携行する小型無線通信機です。TOS(The Original Series)では折り畳み式のフリップ型デザインで、蓋を開けると音声通話が可能というシンプルなUIでした。劇中では見た目はポケットベル程度の大きさながら、「亜空間通信」により衛星なしで軌道上の宇宙船ともリアルタイム交信できるほど高性能という設定です。紛失や故障で通信不能になると登場人物が孤立するなど、プロット装置としても機能しました。このコミュニケーターは現実の携帯電話の発明にも直接影響を与えたと言われます。実際に、世界初の携帯電話を開発したモトローラ社の技術者マーティン・クーパー氏は「『スター・トレック』でカーク船長が使っていたコミュニケーターに発想を得た」と度々公言しています。同氏が1973年にマンハッタンで行った史上初のセルラーフォン通話の際には、TOSの有名な台詞「スコッティ、ビームで転送してくれ(Beam me up, Scotty)」ではなく「今、携帯電話からかけているんだ」と言ってみせたという逸話も残っています。まさにSFのガジェットが技術者の夢を刺激し、現実のプロトタイプを生んだ好例でしょう。

スタートレックに登場するコミュニケーター

スター・トレックにはその後継として、24世紀が舞台の新シリーズで登場した「コミュニケーター・バッジ」(通称コムバッジ)もあります。これはユニフォームの胸に付けるバッジ型の通信機で、ピンをタップするだけで艦内外と交信できるというウェアラブル端末です。コムバッジは音声通信だけでなく、持ち主の位置情報を常時発信するビーコンにもなり、緊急時には即座に転送(テレポーテーション)する際のタグにもなる設定でした。このアイデアは現代のスマートフォン+GPSにも通じるものがあります。実際、我々はスマホの「友達を探す」機能で仲間の現在位置をマップ上に表示したり、紛失時に端末の場所を追跡したりできます。音声アシスタントを呼び出して質問する使い方も、艦内コンピュータに話しかけて答えを得るスター・トレックのシーンを彷彿とさせます。このように、コミュニケーターやコムバッジが持っていた常時接続性音声UI、位置追跡といった概念は、スマートフォン時代に現実のものとなりました。


スタートレック次世代Bluetoothコミュニケーターバッジ(Amazonで販売中)

トリコーダー(Tricorder)は、スター・トレック世界のもう一つの代表的携帯端末です。劇中でスポックやマッコイが肩から下げている黒い小型バッグ風の装置で、上部カバーを開くと小さな画面とセンサー類が現れます。トリコーダーは「探索/観測・記録・分析」という3つの機能を持つハンドヘルド多機能センサーで、未知の惑星で環境をスキャンしたり生物の生体データを測定したりと、劇中ではまさに「何でも診断機」として活躍しました。医療用トリコーダーには差し込み式の小型プローブが付属し、患者の体にかざして詳細な診断を行う様子が描かれています。

トリコーダーも現実の科学者・技術者を強く刺激しました。その影響は、近年開催された「トリコーダーXプライズ」にも現れています。これはスター・トレックに由来して命名されたもので、「医師より正確に多数の病気を自動診断できる携帯デバイス」を開発する国際コンテストでした。2017年に最優秀賞が発表され、優勝チームは複数のバイタルサイン非侵襲センサーとAI診断ソフトを組み合わせた「DxtER」という試作機を制作しました。

https://www.space.com/36461-star-trek-like-tricorder-medical-device.html

この装置はまさに家庭用トリコーダーを目指したもので、血圧・心拍から血液化学や呼吸音までを測定し、AIが疾病の可能性を解析します。実用化にはまだ時間がかかるものの、「SFの医療スキャナーを現実に」というモチベーションが具体的な技術開発を促した好例です。近年では病院の検査機器の小型化・多機能化が進み、スマホ連動の携帯心電計やAI画像診断など部分的にはトリコーダー的な技術も登場しています。とはいえ、異星の未知の病まで即座に解析するような夢の医療端末には、もう少し科学の進歩が必要そうです。

最後にPADD(パッド:Personal Access Display Device)にも触れましょう。これは『新スタートレック』(TNG)シリーズで登場した携帯情報端末で、一言で言えば「未来のタブレット」です。薄い板状のデバイスで、タッチパネル画面で操作しデータの閲覧や入力を行います。大小様々なサイズのPADDが劇中に登場し、エンタープライズ号のクルーはこれを使って書類にサインしたり報告書を読んだりしていました。1980年代の作品にもかかわらず、「滑らかなフラットスクリーン型のタッチ操作端末」というその形状は、2010年代以降に普及したiPadのようなタブレットPCそのものです。当時は現実に存在しないガジェットでしたが、まさに「未来を的中させた」デザインと言えるでしょう。Appleのデザイナーたちが直接PADDから影響を受けたかは定かでありませんが、少なくともユーザーやメディアには「Star TrekがiPadを予見していた」と受け止められました。実際、スタートレック関係者は「iPadこそ我々の夢の真実の実現だ」とコメントしています。興味深いことに、もっと前の映画『2001年宇宙の旅』(1968年)にも似たようなタブレット様端末(ニュースパッド)が登場しており、こちらは後述します。ともあれ、PADDは現在のペーパーレス社会やモバイルコンピューティング**を先取りした存在であり、SFが現実のユーザーインターフェース設計に与えた影響を示す好例です。

https://memory-alpha.fandom.com/ja/wiki/PADD

スター・トレックシリーズのガジェットは総じて、「あったら便利だろうな」という未来の道具の宝庫でした。そして多くは現実世界の技術開発にインスピレーションを与え、半世紀前の空想が現代では日常的なツールとして実現しています。空想が現実を形作る――SFのポジティブな力を体現する作品と言えるでしょう。


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