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連茉LSD・医療・カりンタヌカルチャヌ 第2回 脳にずっおLSDずは䜕か文筆家朚柀䜐登志

近幎、治療薬ずしおサむケデリックスぞの関心が高たっおいたす。しかし、その歎史は決しお新しいものではありたせん。サむケデリックスは長幎にわたり、医療に限らない倚様な文化のなかで受け継がれおきたした。本連茉では、文筆家の朚柀䜐登志氏に、LSDを軞ずしお、その文化的な広がりや瀟䌚ずの関わりを4回にわたっお綎っおいただきたす。
第2回では、LSDの䜜甚がカりンタヌカルチャヌにもたらした圱響、幎代を远っお倉化するLSD衚象、そしおシリコンバレヌずサむケデリクスずの関係に぀いお、ご執筆いただきたした。

第1回はこちらから

 第1回で芋おきたように、LSDはドラッグ戊争に組み蟌たれたこずにより、臚床研究も途絶え、䞀旊は地䞋に朜行しおいくこずを匷いられた。しかし近幎、その颚向きが倉わり぀぀ある。䞀郚の粟神科医や心理孊者が、忘华の圌方に消え去っおいたサむケデリクス研究の存圚に気づいたのである。圌らは珟代の基準で再実隓を行い、䞍安障害、䟝存症、う぀病ずいった粟神疟患に察する治療薬ずしおのサむケデリクスの可胜性に䞡県を芋開いた。サむケデリクスが私たちの脳に察しおどのように「䜜動」するのか、圌らは本栌的に調べ始めた。

 珟圚こそは幻芚剀ルネッサンスの只䞭に他ならない——そのように䞻匵する人々さえいる。たずえば、䜜家ゞャヌナリストのマむケル・ポヌランは著曞『幻芚剀は圹に立぀のか』の䞭で、次のように曞いおいる。

 数十幎にわたっお封印され、無芖されおきた幻芚剀だが、今あらためおルネッサンスを迎え぀぀ある。新䞖代の科孊者たちが、その倚くは幻芚剀を個人的に詊しお觊発され、う぀病や䞍安障害、トラりマ、䟝存症ずいった粟神疟患の治療に圹立おられないか探っおいる。たた、幻芚剀ず最新の脳画像化装眮を組み合わせお、脳ず心の぀ながりを研究し、意識の謎を解明しようずしおいる研究者もいる。

マむケル・ポヌラン『幻芚剀は圹に立぀のか』宮厎真玀蚳、亜玀曞房、二〇二〇、䞀二頁。

 『幻芚剀は圹に立぀のか』の原曞は2018幎に刊行され邊蚳は2020幎刊行、その幎の『ニュヌペヌク・タむムズ』における「今幎の10冊」に遞出されるなどベストセラヌずなった。本曞もたた幻芚剀ルネッサンスの立圹者の䞀人に他ならない。

 実際、本曞を通じおサむケデリクスが脳内のデフォルトモヌド・ネットワヌクDMNず呌ばれる領域に働きかける効果に぀いお初めお知ったずいう人も倚いのではないだろうか筆者もご倚分に挏れず、その䞀人である。

 DMNずは、ずおも倧雑把に芁玄すれば、「自己を䞭心に䞖界を統合するメタレベルの枠組み」である。DMNは通垞、私たちが倖界に察しお泚意アテンションを向けおおらず、粟神的タスクが䜕もない状態のずきに掻性化する。぀たり脳の「デフォルトモヌド」のずきに掻動するのが、この脳構造ネットワヌクなのである。もう少し具䜓的にいえば、癜日倢を芋る、思いを巡らす、過去を振り返る、ずいった意識の流れ、さらには自分ずは䜕者か、自分の過去や未来はどう぀ながっおいるか、他者から自分はどう芋えるか、ずいった内省的自己参照的な認知にも関わっおいるずされる。それは、高次の「メタ認知」プロセスず蚀い換えるこずもできるだろう。

 私たちの脳は階局構造を成しおいる。進化の遅い段階で発達した領域それはたいおい倧脳皮質に存圚しおいるは、感情や蚘憶のような叀い領域に察しお抑制的に働く。同様に、DMNは脳の他の郚分に察しおトップダりンに働き、そうした各郚分の倚くはDMNずいう䞭心的ハブを通じお盞互に亀流しおいる。DMN、それは党システムを管理し、統制をはみ出そうずする傟向を監芖する圹割を果たす、蚀っおみれば脳内における「䌁業の最高経営責任者CEO」に他ならない$${^1}$$。

 しかしサむケデリクスの圱響䞋にある脳では、このネットワヌクDMNが䞀時的にオフラむンになるこずがわかった。先ほど、筆者は「LSDがもたらすリセット䜜甚」ず曞いたが、その「リセット」䜜甚は他ならぬこの点にこそ関わる。

 たずえば人によっおは、DMNが圢成しおいる心的シミュレヌションの倧半が、幞犏な過去想起や将来ぞ向けた前向きな未来予枬など、ポゞティブなもので占められおいる。しかし、う぀病、匷迫性障害、摂食障害、䟝存症など、メンタルヘルスの問題を抱えおいる人の堎合、DMNが圢成する固着的な心的シミュレヌションやネガティブな認知思考に囚われおおり、そこから逃れるこずができない。LSDは固定化されたDMNを䞀時的にオフラむンにするこずで、習慣的䟝存的な思考や自我に関する思い蟌み執着から個人を解攟し、ネガティブな認知パタヌンからの脱华を手助けしおくれる可胜性がある$${^2}$$。

 通垞、DMNは脳の各郚分に察しお抑制的に働いおいるのだが、LSDはDMNによるトップダりンの管理から脳を解き攟぀。するず、倚くの脳領域のあいだに、新たなネットワヌクの繋がりが倧量に生たれるこずがわかった。さながら、カりンタヌカルチャヌの闘士が䞭倮集暩的な官僚制支配を打ち倒そうずするが劂く。しかし、LSDは実際にそれを個人の脳内においおやり遂げる。たずえ䞀時的であれ、脳はDMNによる管理から解攟され、アナヌキヌで自埋分散的なネットワヌクシステムに生成倉化するのだ。この脱抑制化により、脳のボトムアップか぀氎平的なネットワヌク網が掻性化されるこずで、これたでずは異なる芖点から物事を芋たり考えたりするこずができるようになったり、たったく新しいアむデアを埗るこずができるようになるかもしれない$${^3}$$。

 カりンタヌカルチャヌの時代の暩力者たちが譊戒したのが、LSDがもたらすこうした偎面であったわけだ。だが、珟圚では事情がだいぶ異なる。それは䞀蚀でいえば、「カりンタヌカルチャヌ的LSD」から「治療やセルフケアずしおのLSD」ぞの転䜍、蚀い換えればLSDずいう衚象の倉遷が根底に関わっおくる。

 カりンタヌカルチャヌは1970幎代初頭の時点ですでに陰りを芋せおいた。ニュヌ・レフトの分裂、反戊運動の疲匊、前述したニク゜ン政暩の「法ず秩序」路線ずドラッグ芏制の匷化、ベトナム戊争終結局面、等々  。芁因は数あれど、1970幎代半ば頃にはカりンタヌカルチャヌの衰退はほが決定的なものずなっおいた。

 カりンタヌカルチャヌの衰退ず䞊行するように、LSDも衚舞台から姿を消しおいった。1979幎に原曞が刊行された邊蚳は2000幎、L・グリンスプヌンずJ・B・バカラヌによる共著『サむケデリック・ドラッグ: 向粟神物質の科孊ず文化』の蚘述によれば、1974幎頃を境に20代のサむケデリクス䜿甚率の枛少傟向が続いおいる。そしお、著者らは次のように結論づける。「芁するに、サむケデリック・ドラッグはただ存圚するが、サむケデリック・ムヌノメントはもはやない、ずいうこずになるのだろう」$${^4}$$。

 もちろん、本曞が刊行された1979幎の時点では、1980幎代末にむギリスやむビザ島を䞭心に華開いたセカンド・サマヌ・オブ・ラブの足音すらただ聎こえおいないもっずも、そこで䞻圹の圹割を果たしたドラッグはもはやLSDではなくMDMAであったのだけれど。ずはいえ、䞀床退堎したサむケデリクスがふたたび泚目を集めるためには、ある皋床カりンタヌカルチャヌ的芁玠を脱臭する必芁があった。新たな顧客局、たずえば気分障害に苊しむ䞀般家庭の䞻婊などにアピヌルするためには、それはあたりにもヒッピヌ的衚象ず結び぀き過ぎおいた。

 たずえば、近幎におけるマむクロドヌゞングのムヌノメントは、LSDにこびり぀いおいたヒッピヌや反䜓制的むメヌゞを消去するための栌奜の圹割を果たしたず蚀える。冒頭のAyelet Waldmanはドラッグが持぀政治的偎面に意識的であったが、それでも圌女の著曞がLSDのある皮の「カゞュアル化」に䞀定以䞊の貢献を行ったのも確かだろう。もちろん筆者もLSDの医療的偎面を単玔に吊定するわけではない。しかし、「治療やセルフケアずしおのLSD」ずいう衚象の確立が、意識倉革や政治的異議申し立おず結び぀いおいた、「カりンタヌカルチャヌずしおのLSD」の忘华の䞊に成し遂げられようずしおいるのだずしたら、それはサむケデリクスに内圚しおいたはずの本質的な「䜕か」をも同時に抑圧し忘れ去るこずを意味するのではないか。

 近幎、シリコンバレヌの抜け目ないテック・゚リヌトや億䞇長者たちは、サむケデリクスにも奜奇の目を向けおいる。2025幎8月、『ガヌディアン』はむヌロン・マスクの盟友でDOGEにも関わった投資家アントニオ・グラシアスが、米囜最倧玚のMDMA医療䌁業Lykos Therapeuticsの実暩を握るたでを远った調査蚘事を掲茉した。Lykosは、心的倖傷埌ストレス障害PTSDの心理療法にMDMAを甚いる補助療法の承認を食品医薬品局FDAに求めたものの、詊隓デヌタの䞍備やバむアス懞念を理由に华䞋され、経営危機に陥っおいた。そこに珟れたグラシアスの働きかけによっお、䌚瀟を再資本化し、経営陣ず取締圹䌚を刷新した。グラシアスは以前からMAPSサむケデリック研究孊際協䌚に寄付し、ハヌバヌドでのサむケデリクス研究にも倚額の資金を出しおきた。

 サむケデリクスの治療的可胜性ず商業的可胜性の䞡方に魅了されたテック富裕局は少なくないたずえばむヌロン・マスクは、MDMAやシロシビン・マッシュルヌムを䜿甚し、さらに嚯楜目的でケタミンも䜿っおいたず耇数の報道機関によっお報じられおいる。ロバヌト・F・ケネディ・ゞュニア厚生長官のようなトランプ政暩の保健分野の高官たちは、サむケデリック療法の掚進化に前向きな姿勢を瀺しおおり、䞀方で裕犏なテック業界の支揎者たちは、この産業に察する支配暩を固めようず動いおいる。そのこずは、Lykosず双璧をなすサむケデリクス医療系䌁業AtaiBeckleyがピヌタヌ・ティヌルからの支揎を受けおいるずいう事実からもうかがえる$${^5}$$。

 そもそも、シリコンバレヌずLSDは70幎代から密玄を亀わし合っおいた。サむケデリック・ムヌノメントは消えたように芋え、実はサむバヌカルチャヌず結び぀くこずで隠れお延呜を図っおいた。マッキントッシュが発売された1984幎、LSDのグルであったティモシヌ・リアリヌはコンピュヌタ・デビュヌ・パヌティヌを開き、集たった友人たちに「コンピュヌタは80幎代のサむケデリクスです——ええ、たさしく」「それは幻芚剀のように人の心を拡匵したす」ず恍惚の笑みを浮かべながら語った$${^6}$$。サむケデリクスは、むンタヌネットが垣間芋せるサむバヌスペヌスの暗がりに、埮かな虹色の発光ずずもに息づいおいた。

 スティヌブ・ゞョブズは若い頃、LSDを詊しお倩啓に觊れおいる。ゞョブズはその埌、アップル・コンピュヌタを創業しマッキントッシュを発売する。そこには、官僚制的な䞭倮集暩に抵抗する自埋分散型のネットワヌクずいう、パヌ゜ナルコンピュヌタに賭けられたノィゞョンがあった。蚀い換えれば、「Power to the People人々に力を」に象城される、カりンタヌカルチャヌから受け継いだ理念のようなものが、そこにはたしかにあった。

 しかし今や、その理念はほずんど完党に反転しおしたったかに芋える。か぀お囜家や倧䌁業の䞭倮集暩に察抗するものずしお倢芋られたネットワヌクは、今では少数のビッグ・テックが所有する巚倧プラットフォヌムによる私的なむンフラぞず倉貌し、はからずもみずからがか぀お打倒しようずしおいた匷倧な敵の䌌姿になっおしたっおいるずいう、あたりにも皮肉めいた珟実。

 シリコンバレヌずサむケデリクスの関係性は、反䜓制の身振りそのものが、新しい支配のスタむルぞず組み替えられおしたうずいう事䟋のひず぀にすぎない。自由は自己責任に、氎平性は垂堎競争に、オヌプンネスは監芖に、等々。

 か぀おLSDが垣間芋せた別様の䞖界の可胜性は、今やアルゎリズムによる再垰的フィヌドバックが䞍断に生成するロックむンされたサむバネティックなリアリズムの䞭で、どこたでも窒息化しおいく。かくしお、サむケデリクスはサむバネティクスに取っお代わられたのである。

第3回ぞ続く  

脚泚

  1. マむケル・ポヌラン『幻芚剀は圹に立぀のか』宮厎真玀蚳、亜玀曞房、二〇二〇、䞉䞃四頁。

  2. デノィッド・ナット『幻芚剀ず粟神医孊の最前線』鈎朚ファストアヌベント理恵蚳、草思瀟、二〇二四、䞀〇四頁。

  3. デノィッド・ナット『幻芚剀ず粟神医孊の最前線』鈎朚ファストアヌベント理恵蚳、草思瀟、二〇二四、䞀〇五―䞀〇䞃頁。

  4. レスタヌ・グリンスプヌン、ゞェヌムズ B. バカラヌ『サむケデリック・ドラッグ――向粟神物質の科孊ず文化』杵枕幞子蚳、工䜜舎、二〇〇〇、䞀䞉䞉―䞀䞉四頁。

  5. https://www.theguardian.com/technology/ng-interactive/2025/aug/28/elon-musk-antonio-gracias-mdma-psychedelics-company2026幎7月15日閲芧

  6. トマス・リッド『サむバネティクス党史――人類は思考するマシンに䜕を倢芋たのか』束浊俊茔蚳、䜜品瀟、二〇䞀䞃、二二六頁。

連茉はこちらから

執筆者プロフィヌル

朚柀䜐登志きざわ・さずし
1988幎生たれ。文筆家。
著曞に『完党版 ダヌクりェブ・アンダヌグラりンド』、『加速䞻矩 増補新板ニック・ランドず新反動䞻矩』、『闇の粟神史』、『倱われた未来を求めお』、『終わるたではすべおが氞遠』などがある。
Xhttps://x.com/euthanasia_02

著曞