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認知症のあの人はなぜ「叫ぶ」のか? 生物学から考えてみる

認知症の方が突然大声を出す。介護現場ではよく見られる場面だが、「なぜ叫ぶのか」は意外と知られていない。
実は、その背景には人間が生まれつき持っている「叫び」の仕組みが関係していると考えられている。

――人はなぜ「叫ぶ」のか。
この問いに対して、生物学、脳科学、そして心理学の視点から解明が進んでいる。「叫ぶ」というとただの大声をイメージすると思うが、生物として生存に関わる非常に精巧なシステムが隠されているようだ。
そして、認知症の方が「叫ぶ」という行為にも、実はこの人間の根源的なメカニズムと深くつながっていることが分かっている。

本記事では、それぞれの意味や関係性についてお伝えしていく。
基本的に書籍やWeb上の記事を参照しつつGeminiで情報や解釈整理をしたものだが、誤情報や誤解を与える内容などあれば是非ご指摘いただきたい。
また、認知症における「叫ぶ」は症状の一つであって、全員必ずそうなるというわけでないことはお伝えしておく。


1. 生物学・脳科学における「叫ぶ」の意味

生物にとって叫びとは、「最速の生命維持アラーム」である。
近年の脳科学の研究では、人間の「叫び声」には、通常の会話や歌声にはない特殊な音響特性があることが分かっている。これを「ラフネス(荒さ)」と言う。
ラフネスとは、音量が1秒間に30〜150回という超高速で激しく変化する「不快なザラザラ感」を指す。逆に1秒間に数回程度のゆっくりな変化だと、「ゆらぎ」として心地よく感じる。

通常の音は、耳から脳の聴覚野(音を分析する場所)へと情報が送られる。
しかし、このラフネスを含んだ叫び声を聞いたとき、聴覚野で処理される一方で、恐怖や危険を察知する扁桃体も強く活性化することが分かっている。それは「危険、早く対処せよ」と警報のような役割を果たす。これにより呼吸は浅くなったり筋肉が硬直するなど、肉体が緊急回避モードになる。

自らが「叫ぶ」という行為をするときは、それは仲間への警告を意味する。姿が見えないジャングルなどでも、一瞬で「敵がいる!」と群れ全体に知らせることができる。
また、敵への威嚇行為にもなる。「叫び」によって、襲ってきた捕食者を一瞬ひるませ、攻撃の機会を作ったり逃げる時間を稼ぐ。 
 
このように、「叫ぶ」という行為は、生物が生き延びるために備えた重要な仕組みだと考えられている。


2. 人間はなぜ「叫ぶ」のか

人間は言葉という高度なツールを獲得した。それでも「叫ぶ」という行為をする。それは人間にとっての「叫び」とは、言葉の限界を超えた「感情の爆発」を表現する手段のひとつだからだ。

例えば、痛みの緩和。激しい痛みを感じたときに叫ぶと、脳内で天然の鎮痛物質(エンドルフィンなど)が分泌される。これにより実際に痛みの感覚が和らぐことが研究でも示されている。

また、感情の排泄としての意味もある。生命に危険があるほどの恐怖、想定外のことに驚いたときのショック、ライブの歓声のような極限の歓喜を感じたとき……様々な場面で私たちは「叫ぶ」。
それは言葉の処理が追いつかないほど感情がキャパシティを超えたとき、防衛本能としてそれを外に吐き出す役割を持っているからだ。

例えば、タンスの角に足を思い切りぶつけたとしよう。考えただけで痛い。
ここでぶつけた箇所を押さえながら「いってぇ~!!」と言うのは、痛みの緩和、突然の事態への驚き、やるせない感情を発露させたいといった意味があると思われる。

もちろん、人間も生物の一角なので、前述した「仲間への警告」や「敵への威嚇行為」としての意味もある。それらに加えて、このような痛みや感情にも関係しているのが人間としての「叫ぶ」の意味なのだ。


3. 認知症の「叫ぶ」は何を伝えているのか

認知症ケアでは、大声を出す・叫ぶといった行為はBPSD(認知症に伴う行動・心理症状)の一つに分類されている。これは認知症の共通症状ではなく、それまでの人生や生活環境によって個別に起きる可能性がある症状だ。

あらかじめお伝えしておくと、「意味もなくおかしな行動をとっている」わけではない。確かに介護者からすると困った行動であるが、そもそも認知症の行動は何かしらの意味や背景がある。

①周囲に自らの危険を伝えている

まず、先ほど説明した人間の根源的な「叫びの意味」そのものが挙げられる。つまり、「最速の生命維持アラーム」だ。
認知症が進行すると、脳の「中核症状(記憶障害や、言葉をうまく扱えなくなる失語など)」により、自分の状況を論理的に説明したり、言語化して周囲に助けを求めたりすることが難しくなる。
その結果、以下のような状態に陥ったとき、言葉で伝えることが難しくなるため、生物として備わった危険を知らせるような反応が前面に出る可能性がある。それは言葉の代わりのSOSである。

例えば、
「お腹が痛い」
「トイレに行きたい」
「寒い」

という不快感を伝えたいけれど、言語機能の低下や発語に関する障害で周囲に言葉にできない。そこで、危険アラームとして叫んで周囲に知らせようとする。

②極限の恐怖と混乱

認知症の症状の一つである見当識障害(ここがどこか、目の前の人が誰か分からない)が起きると、記憶障害や環境変化といった複合的な要素から強い不安や恐怖が生じやすくなる。
例えば、介護施設に入ったばかりの時期に「ここはどこだ!」「お前は誰だ!」と叫ぶ方がいる。それは自分が知らない場所や知らない人に恐怖心を抱いているからと考えられる。
ここで先ほどお伝えした「感情の排泄」が起こる。自らの危機的状況を知らせるとともに、戸惑いや恐怖心を言葉に出そうとする。それは人間として自然な行為であり、認知症だから特別というものではないのだ。

③感覚の過負荷

テレビの音や周囲の話し声が、脳の機能低下によって「耐えがたい雑音」に聞こえることがある。認知症でなくても不快な音が聞こえてきたり、ボソボソという声が聞こえると取り除きたくなる。イライラしたり不安感が増す。多くの人であれば人間関係を気にしてある程度は我慢するところを、認知症になるとその状況に耐えきれなくなり、パニックを起こしてその不快感を叫びで表現することがある。

このように見ていくと、認知症における「叫び」というのはただの問題行動ではなく、本人にとっての意味があることが分かってくる。


4. 介護する側ができること

とは言え、認知症の方の叫び声は、介護する側にとっても脳の扁桃体を刺激する。一時的に我慢できても、介護が続くとどうしてもイライラや恐怖を感じてしまう。
しかし、その背景には「言葉を失った人間が、自らの危機や不快感を訴えている」という生物および人間としての切実な理由があることはご理解いただければと思う。

「叫ぶ」という行為に対して、子供を叱りつけるように「静かにして!」と制止したくなる気持ちも分かる。しかし、「何か痛いところはないか」「寒くないか」「不安を取り除くために背中をさする」といった、不安や恐怖のアラームの根本原因を特定して安心させることが大切だ。

本記事では、認知症の「叫ぶ」という行為を生物と人間の根本から考えてみた。そこから認知症だから叫ぶのではなく、人間として備わっている「危険を知らせる反応」が、認知症によって言葉の代わりとして現れていることが見えてきた。
もちろん、これを知っただけで介護する側の負担が軽くなるわけではない。そでも、「意味のない問題行動」ではなく、「本人なりのSOSかもしれない」という視点を持つだけでも関わり方は少し変わってくる。

「叫ぶ」の意味を知ることは、認知症を理解する第一歩なのかもしれない。

ここまで読んでいただき、感謝します。
途中で読むのをやめた方へも、感謝します。

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