見出し画像

海外一人旅で、「ここは無理だ」と思った瞬間

45歳。関東在住のゲイです。

旅行が好きで、これまでそれなりの数の国に行きました。

たいていの場所は、なんだかんだ楽しんで帰ってきます。多少のトラブルも、あとから思えば、いい土産話になる。

でも、正直に言うと——「ここは無理だ」と思った瞬間も、何度かあるんですよね。

今日は、その話を書いてみたいと思います。汚い話も、ちょっと際どい話も出てきます。先にあやまっておきます。

便座に、ゴキブリがびっしりいた夜

一つめは、衛生の話。もう10年以上前の、インドのニューデリーです。

昔、バックパッカーをしていた頃、『地球の歩き方』というガイドブックがありました。あれ、国によって厚さが全然違うんです。

いちばん分厚かったのが、インドで。なぜ分厚いかというと、トラブルが多いから。詐欺だ、だまされただ、という体験談と対策が、びっしり載っている。だから厚い。

そういうのはちゃんと読んで、覚悟して行ったんです。道が土で、野良牛がそこらじゅうにいて、その糞の匂いがすごい——というのも、知っていた。実際そのとおりで、まあ、なんとかやり過ごしました。

問題は、着いた日の夜でした。

ニューデリーに着いたのが、夜のわりと遅い時間で。若かったこともあって、宿の予約をしていなかったんですね。

だから、タクシーの運転手に、拙い英語でこう頼みました。「いちばん安い宿に連れていってくれ」と。

……これが、よくなかった。

連れていかれたのは、木造3階建てみたいな、最強に汚い安宿でした。掃除も、たぶんされていない。

まあ、寝るだけだしと思って、部屋に入って。トイレの電気をつけたんです。

便座に、ゴキブリがびっしりいました。

自分、大体のことは平気なんです。でも、あれはさすがに無理でした。あの便座に、お尻をつけるのか——と考えて、静かに電気を消しました。

その夜はなんとかやり過ごして、翌朝チェックアウトして、ニューデリーの駅に向かいました。

そこで、追い打ちがありました。

駅の公衆トイレが、扉がなくて。外から、中が見えたんです。

便器に、茶色いものが山積みになっていました。

どうやったら便器に山ができるのか、いまだにわかりません。便座から溢れて、山になっていた。アニメみたいな話ですが、本当なんです。今でも、ふと思い出してしまうくらい。

さすがに、そのトイレを使うのはやめました。

汚い話ばかりで、本当にすみません。でも、自分にとっての最初の「ここは無理だ」は、まちがいなくこれです。ちなみにこれは、ゲイとかは一切関係ない。ただの、衛生の問題です。

ゲイバーの奥が、発展場だった

二つめは、思いっきりゲイの話です。

スペインを旅していたとき、現地のゲイバーに行ってみたんです。雰囲気を味わってみたくて、一人で。

日本のゲイバーって、こぢんまりしたカウンターが多いですよね。でも、そこはやたら広くて。手前がカウンターで、その奥が、日本でいう発展場になっていたんです。

そんなつくりだと知らずに、のこのこ奥まで見学に行ってしまって。

SMが人気なんでしょうか。犬の格好をした人が、鎖につながれて、お座りをしていました。

その近くでは、レザーを着た、いかにもSっぽい人が、プレイをしていて。

Xでたまに流れてくる画像では、見たことがあったんです。でも、目の前でリアルに見ると、話が違う。慣れていないのもあって、正直、ちょっと引いてしまいました。

かといって、笑うのも違う。本人たちは、いたって真面目にやっているので。

自分は、そそくさとバーカウンターに戻りました。

……これは「無理」というより、「びっくりした」が近いかもしれません。知識としては知っていたものが、いきなり実物で目の前に現れた、あの感じ。

今になって思えば、なんてことはないんです。ヨーロッパの他の国に行けば、ああいうフェティッシュなお店やポスターは、普通にある。文化として、ちゃんと根づいている。

だからあれは、ちょっとビビりすぎたのかな、と今は思います。

逆に、安心できたのはどこか

さんざん「無理だった」話をしてきたので、逆の話も。

自分が「ここは安心だな」と感じたのは、たとえばバンコクです。

同じアジアなんですが、インドとはずいぶん違う。ある程度、経済的にも成長していて。都市部にはデパートもあるし、トイレも清潔。衛生的なレストランも、選び放題です。

——結局、自分にとっての分かれ目は、二つあるなと思っていて。ひとつは、さっきから言っている「衛生」。そしてもうひとつが、「安全」です。

安全のほうで、忘れられない場面があります。またインドの話で、本当にすみません。

少し観光地を外れたところで、子どもに「お金をちょうだい」と言われて。かわいそうに思って、1ドルを渡したんです。

そうしたら、ほんの数十秒でした。

四方八方から、小学生くらいの子どもが、山のように集まってきた。みんな手を出して、「くれ、くれ」と。

全員にあげたい気持ちは、ありました。でも、そんなことをしたら、こっちのお金がなくなる。結局、あげられなかった。

——ああいう場所は、やっぱり、心が休まらないんですよね。

貧しい人が多い街は、どうしても、安全とは言い切れないところがある。ずっと気を張っていないといけない。旅慣れた人なら対策もできるんでしょうが、慣れていないうちは、それだけで、へとへとに疲れてしまうんです。

もちろん、インドに行きたい人を止める気は、まったくないです。合う人には、たまらない国だと思う。ただ、衛生や治安に課題がある国は、そこをちゃんとわかったうえで行くほうがいい。休暇のつもりが、修行になってしまうこともあるので。

初心者のうちは、どう選べばいいか

だから、旅にまだ慣れていないうちは——まず先進国。これが、いちばん安心だと思います。

アジアだと、台北、ソウル、香港、シンガポール、バンコク、バリ島あたり。観光地として人慣れしている街は、それだけで、ぐっと動きやすい。

一方で、ラオスやカンボジア、ネパールにも行きましたが——大きな街でも、ちょっと安全とは言いづらかったり、街全体がゴミゴミしていたり。そもそも、大きなホテルがない、ということもあります。

もうひとつ、これは笑い話みたいですが——現地のごはんに飽きて、「日本食が食べたい」となる瞬間が、けっこうあるんです。

ソウルや台北、バンコクみたいな大都市なら、日本料理屋もちゃんとある。そこに入って、ほっと一息つける。大きな病院がある街だと、いざというときも安心です。こういう「逃げ場」があることも、自分にとっては立派な安心のひとつなんですよね。

ヨーロッパは、また別の注意が要ります。スリや置き引きが、とにかく多い。

自分はガタイが大きいのと、多少は旅慣れているのもあって、幸い被害に遭ったことはないんですが。スペイン、フランス、イタリアの観光地では、本当によく聞く話です。

慣れないうちは、そういう犯罪が少ない街から始めるほうが、気楽だと思います。あとは感覚的な話ですが——政治が安定しているかどうかも、地味に効いてきます。民主主義ではない国は、どうしても、少し身構えてしまうところがあって。

で、「ここは無理だ」って、なんだったんだろう

こうして並べてみると、自分の「無理」は、きれいに二種類に分かれるなと思います。

一つは、衛生や、安全の「無理」。これは、我慢してもしんどいだけなので、避けていい無理だと思っています。自分が耐えられるラインを知って、それに行き先を合わせる。無理に、背伸びしない。

もう一つは、文化への「無理」。発展場で見た、あのSMのプレイ——あれは、ただ自分が慣れていなかっただけ。びっくりして、目をそらしただけ。

こっちの「無理」は、たぶん、そんなに怖がらなくていいやつなんですよね。

もちろん、襲われたとか、実害があったなら、話は別です。でも、そうじゃないなら——ああ、こういう世界もあるのか、と。びっくりせずに、ちょっと観察するくらいが、ちょうどいい。多様性って、たぶんそういうことなんだと思う。

あとで、いい土産話にもなりますしね。

——「ここは無理だ」と思う瞬間は、旅をしていれば、これからもきっとあります。

その無理が、避けたほうがいい無理なのか。それとも、自分がまだ慣れていないだけの無理なのか。

そこだけ、その場でちょっと立ち止まって、見分けられたら。旅は、もう少し遠くまで、楽しくなる気がしています。

いいなと思ったら応援しよう!