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#35 あの頃のまま、いるはずのない夜

連載:「今夜も歩く」第35回

初めての街に降り立った。
有名な商店街がある。
商店街の周りは、マンションが立ち並ぶ。
これだけ利用者がいれば、安泰だろう。

商店街を一通り巡ったあと、
駅前の広場で休憩をしていた。

帰宅ラッシュは終わり、
人の流れも落ち着いている。

立ち止まり、宙を見ている女性が視界に入る。

いつもなら、気にならないはずの光景。

黒いキャップを深く被り、
その後ろから、茶髪のポニーテール。

息がしづらくなる。

10年前に別れた彼女に、
よく似ている。

そんなはずはない。
こんなところに、いるわけがない。

そう思いながら、
もう一度だけ見る。

視線を合わせないまま、
少しだけ距離を保っている。

あの頃にそっくりだ。
だが、なにか違う。

深く被ったキャップのせいで、
口元しか見えない。

ポニーテールが、
少しだけ揺れている。

立ち止まったまま、
動けない。

その場を離れるタイミングを、
少しだけ探す。

眼の前を人が通り、
視界が切れる。

雑踏の音が、
戻ってくる。

深く息を整え、
足早に、
その場を離れる。

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