28歳で東京に来た。|第1回「はじまりの話」
岡山から上京して、もうすぐ6年が経つ。
今思うと、上京する前の自分はどこか夢の中にいたような、不思議な感覚がある。
当時は何気なく過ごしていた出来事も、今の私から見ると少しずつ今に繋がっていたように思う。自分の人生を読み解くためにも、東京に至るまでの話を書いていこうと思います。
■アニメとの出会い
私は高校1年生。
自転車で30分かけて高校まで通学していた。
この年は、ニコニコ動画(通称:ニコ動)が広がり始め、初音ミクが発売され、ボーカロイドという文化も始まった年だった。私も友達の紹介でニコ動に会員登録をした。インターネットとオタク文化が一気に身近になっていった時代だったと思う。
夏が近づいてきたある日。
学校帰りに自転車で走っていると、幼馴染のAくんと出会った。Aくんとは保育園時代から一緒に遊ぶ仲で、秘密基地、鬼ごっこ、ゲームボーイ、任天堂64、プレイステーション、遊戯王カードなど当時流行っていたあらゆる遊びを一緒にして過ごしてきた。高校は別々の学校になっていたけど、その日はたまたま一緒に帰ることになった。
そのとき、Aくんから「らき☆すた」というアニメが深夜2時に放送されていると聞いた。当時の私は、深夜にアニメが放送されていることすら知らなかったので、それだけで驚いた。
それから、私は毎週「らき☆すた」を見るようになった。ほのぼのとした雰囲気、キャラクターの可愛さ、他のアニメにはない独特の空気感。気付けばどんどん好きになっていった。雑誌にイラストを投稿して、掲載されるたびに嬉しかったのを覚えている。Aくんと家に泊まって「らき☆すた」のラジオやアニメを一緒に聴いたり見たりもした。
■初回限定版の特典
秋頃になると、「らき☆すた」がPS2のゲームとして発売されることを知った。しかも初回限定版には、作中の制服が付いてくるという。今考えても、なかなか攻めた特典だと思う。その話を聞いてすぐに予約した。
そして年が明けた冬。
私は岡山にあったゲーマーズへ予約したゲームを取りに行った。学校帰りだったので学生服のまま。わくわくしながらも、ちょっと恥ずかしかったので、周りをきょろきょろ見渡して、人がいない隙に自転車を止めて、お店の中に入ったのを覚えている。
家に帰って、箱を開けた。
そして、その制服を着た。
赤色のセーラー服だった。
主人公の身長142cmに合わせたサイズの制服で、当時160cmくらいあった私にはかなりパツパツだった。布地は、つやつやとした光沢があり、薄くて安っぽそうな布地だった。実際に通学している女子高生が着ているのを見たことはなく、派手で、いかにもアニメに出てくるような制服だった。
その体験は、私の中ではとても新鮮だった。
そのとき、女の子として生活したらどうなんだろうって、少し思った。
ありえない。鏡に映っているのは普通に男だった。
でもメイクをしたら少しは可愛く見えるのかな。
自分自身を格好良いとも思えず、可愛いとも思ったことはない。見よう見まねで髪にヘアワックスを付けたこともあったけど、鏡に映る姿が微妙すぎて、やる気が失せる。いつもと違った格好をすると、親から「なんだその変な格好は」と言われ、やる気が失せる。知らない中学生から、肌が色白すぎて、幽霊だと言われたこともある。
そんなことを考えながら、親に見られでもしたら恥ずかしすぎるので、早々に脱いで鍵付きの引き出しに隠した。
■裏山での記念撮影
数日後、Aくんと一緒に裏山でこっそりと衣装を着て記念撮影をすることになった。
裏山は実家の裏にあり、木が生い茂った小高い丘になっていて、頂上にある無人の小さい神社までは階段が伸びている。人はあまり立ち寄らない場所だ。
驚いたのは、Aくんが別のアニメの衣装を持っていたことだ。
私とAくんはテニス部だったので、なぜか2人でラケットを構えて撮ることになった。私の家で戦利品とも言える衣装にお互い着替えて、上からジャンパーを着て、誰かに見られないか警戒しつつ裏山に向かった。
頂上の神社に着いて、撮影をしようと準備していると、誰かが階段を登ってきた。Aくんと私はかなり焦って、近くの草むらに隠れた。
静かに息を潜めた。
心臓の鼓動が今にも聞こえそう。
登ってきた人には気付かれず早く立ち去ってくれと祈りながら、永遠に続くような、このわくわくとした時間がずっと続いてほしいなとも思った。
少しすると、その誰かは階段を降りて行った。
本当に良かった。そのあと、私とAくんは無事に記念撮影を済ませた。
意味が分からないけど、青春で非日常的な高揚感。
楽しかった。
***
それはコスプレと呼べるほどのものではなかったけれど、数年後に私は本当にコスプレイベントへ足を運ぶことになる。
今の自分が、あの日の延長線上にそのままあるのかと言われると、少し違う気がする。ただ、あの頃の自分が感じていた非日常への高揚感や、いつもと違う姿になってみたいという気持ちは、確かに今の自分にもどこか繋がっているのかもしれない。
過去にどんな意味があったのか、正解は分からない。それでも、これから自分がどう生きたいのか。結局はそれが一番大事なのだと思う。
上京する13年前。高校1年生の私は、そんなふうにして、ほんの少しだけ非日常の世界に触れていた。
第1回「はじまりの話」は、ここで終わりにしたいと思います。ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
