ガーベラ|掌握小説
子どもの頃、一度だけガーベラを一輪欲しがった。
理由は覚えていない。
歩いていると
すれ違いざま、誰かの右腕に抱えられた、赤や白や黄色が、目を刺した。
彼女の香りが残る先には、花が並んでいた。
足が止まる。
『Open』と書かれた木の看板。
だけど、うちには花瓶がなかった。
ショーウィンドウに映るのは、疲れて、くたびれたおっさん。
結局、通り過ぎた。
左手に、コンビニの袋を持って帰路につく。
冷やしうどんと、缶チューハイと外側に砂糖がついたバウムクーヘン。
家のドアを開けて玄関のスイッチを押す。
白い光に照らされて、テーブルには使いっぱなしのマグカップがあった。
あの日、見た赤を思い出す。
ずっと、花は誰かに貰うものだと思っていた。
缶チューハイを開けると、「プシュッ」と鳴った。
スマホを開く。
雨上がりの匂い。
子どもの笑い声。
道路脇で揺れる名も知らない草。
太陽が沈んだあとの、紫に混じる赤。
そういうものを、私は胸の中でそっと束ねていく。
言葉という紐で結んで。
誰かに渡す。
名前なんて、知らなくていい。
受け取った人がどう思うかは、知りたくもない。
ただ、一瞬。
私の景色を見てくれたら、それで十分だ。
今日もある。
大きな綿毛の、ケサランパサラン。
小学生の「暑すぎて、滅!!」
それらを花束にして。
言葉で束ねて、置いていく。
世界には毎日、花が咲いている。
私は、投稿ボタンを押した。
