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浅野健一著「石ころを石礫に」

 浅野健一著「石ころを石礫(いしつぶて)に 安倍氏暗殺・山上徹也さん裁判記録」(三一書房)を読了した。じっくりと同じ問題を追いかけ続けるジャーナリスト浅野さんの力がこもった記録である。
 いくつか知らなかった事実に触れている。
 2022年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺北口前で選挙応援演説をしていた安倍晋三元首相が山下さんによって暗殺された。
 この6時間後、朝日新聞は山上さんの叔父で元弁護士の山上東一郎氏に取材して、のちに明らかになる全体像をすでに掴んでいた。
 が、朝日新聞は統一協会の名称を伏せたままで翌日に記事化。ようやく統一協会の名が記事に現れるのは、同協会が7月11日に記者会見を開いた後だった。7月10日の参議院選挙への影響を忖度したとも思えるが・・・
 というのも殺された安倍元首相と統一協会との関係が事件の背景にあったことが報じられていたら自民党は票を減らしていた可能性が大だからだ。
 それと驚いたのは、撃たれた安倍氏は現場近くの平城京跡の空き地から救急ヘリで奈良県立医科大学病院へ搬送されたが、近くに大病院である奈良県総合医療センターがあり、そちらに運ぶ方が早く処置出来ていたのだ。
 そのため奈良県総合医療センターへの搬送なら15分程度だったのに49分もかかってしまった。どうしてそんなことが起きたのかと言えば、高市早苗衆議院議員(現首相)が強引にそういう指示をする電話をかけ続けて来たからだという。謎であるが、知られていない事実である。

 浅野さんは裁判の傍聴を欠かさず続けた。浅野さんが見た裁判所での山上さんとマスコミが報じる山上さんの姿とではギャップがあることが分かる。
 新聞記事は本記と雑感というように書き分ける。
 いわゆる雑感はしばしばステレオタイプになり、記者の思い込みなどが入り込みやすい。そうした問題を感じたが、それはそこに留まらずに、読者をミスリードする危険性があるので注意する必要がある。
 例えば、冷静に聞いていたというのが、うつむいて聞いていたとなっていたら、受け手の印象は変わる。そうしたことである。
 また、この本では、統一協会を提訴した宗教二世の原告のこのような言葉が紹介されている。「山上被告は統一協会と政治の犠牲者だ」「重い刑を科して事件を終わらせることは、問題の隠蔽であり、真相究明や責任追及から逃げることになる」。これらは極めて重要な指摘だった。
 2025年12月18日に奈良地裁で開かれた公判で結審したが、地裁判決は「不遇な生い立ちは犯行に大きく影響しておらず、汲むべき余地も大きくなかった」という。はたしてそうだったのだろうか。
 母親が統一教会に入信し、献金を続けたため、生活が成り立たなくなって苦しめられた山上さんらの家庭環境をどう考えるのか。
 明らかに統一協会が山上さんの人生を狂わしたのだ。それは「生い立ち」にカウントされないというのか。

安倍氏に何ら落ち度はなく?
 あと判決に「被害者の安倍氏に何ら落ち度はなく」とある。確かに殺されることはなかったと思う。しかし、統一教会によって人生をめちゃくちゃにされた山上さんにとって、安倍氏は統一協会の極めてパワフルな後ろ盾のように映ったことから、関係なしではなかったのだ。
 安倍氏は統一協会を利用しただろうし、統一協会も安倍氏を利用した。そして大手新聞やテレビといったメディアが安倍晋三、その父、安倍晋太郎そして祖父・岸信介、三代にわたる統一協会との深い付き合いにきちんと触れないのは忖度だと言われても仕方ないだろう。
 何十年も統一協会を追及せずに来たツケが回って来たと言えるだろう。私は1980年代、週刊誌「朝日ジャーナル」が一生懸命に統一協会・原理研究会、そしてそれと裏表の勝共連合に対して展開していた批判を思いだす。
 そうした報道が継続的になされて、世間から統一協会に厳しい目が注がれ続けていたらどうだったのだろうか。
 メディアの安倍氏忖度は酷かった。
 例えば、私が所属した一般社団法人共同通信社の子会社(株)共同通信社のウェブサイトに退社後、記事を書いていた頃、麻生太郎元首相の「ナチスは合法的に政権に就いた」という、いわゆるナチス発言に言及した部分を削除させられたり、安倍氏批判と受け取られるような記述は避けるようにと言われていた。
 いやはやなんとも・・・やれやれ。
 奈良地裁は山上さんに対し無期懲役を言い渡したが、山上さんは2026年2月4日、これを不服として控訴した。大阪高裁に裁判の舞台は移る。


 

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