ザリガニとミドリガメ『条件付き規制2年目の現実』
KVG保全クロニクル No.2
子どもの頃の「ザリガニ釣り」の記憶って、けっこう強烈じゃないでしょうか。赤いハサミを振り上げて威嚇してきたり、スルメに夢中でぶら下がってきたり。
その主役だったアメリカザリガニと、ペットショップの定番だったアカミミガメが、2023年に「条件付特定外来生物」に指定されてから、もうすぐ2年半。
2025年の今、政府広報オンラインでも改めて特集が組まれたり、X上でこの話題がたびたびバズったりしていて、「身近な外来種って、実はけっこうヤバいのでは?」という空気がじわじわ広がっています。
ただ、「じゃあ、うちのベランダのカメはどうしたらいいの?」「子どものザリガニ釣りって、もうダメなの?」みたいな “生活レベル” の疑問には、まだグラデーションがあります。
今回は、条件付き規制2年目のアメリカザリガニ&アカミミガメを、法制度・生態系・市民参加、この三つのレイヤーから整理してみます。
1:条件付特定外来生物って、結局なにが変わったのか
まずは、いちばんよく聞かれるポイントから。
アカミミガメとアメリカザリガニは、外来生物法に基づいて「条件付特定外来生物」に指定されています。法律上は特定外来生物と同じ扱いですが、一部の規制が“当分の間”ゆるめられている、というイメージです。
ざっくり整理すると、今こうなっています。
・2023年6月1日以降、新たに輸入・販売・購入することは原則禁止
・野外への放流や「逃がす」行為は全面的に禁止
・ただし、すでに家庭で飼育している個体は、これまで通り飼い続けてOK
・無償での“責任ある譲渡”は可能(ただし不特定多数へのばらまきはNG)
「条件付き」の意味は、まさにここにあって、
・いきなり全国の家庭から一斉に締め出すわけではないけれど
・これ以上、野外に広げることは止めたい
という、かなり現実的な落としどころになっています。
そして2025年には、環境省の相談ダイヤルが役目を終えてチャットボットに切り替わるなど、「制度としては常設フェーズに入った」感じが出てきました。
ルールがやっと“落ち着き始めた”今こそ、「じゃあ、これからどう付き合っていく?」を考えるタイミングなのかもしれません。
2:なぜここまで問題視されているのか?
アメリカザリガニもアカミミガメも、「すごく珍しいレア種」というわけではありません。逆に、日本全国の田んぼや用水路、公園の池に普通にいるからこそ、生態系への影響が大きくなっています。
アメリカザリガニについて、環境省や研究機関が指摘しているのは、主にこんな点です。
・在来の水草を食べ尽くし、水辺の“ゆらぎ”をなくしてしまう
・ヤゴやオタマジャクシ、小魚を食べ、両生類・水生昆虫のすみかを奪う
・田んぼのあぜに穴を掘り、決壊や漏水の原因になる
実際、ザリガニが増えすぎた池で、集中的に駆除を行ったところ、
・水草が戻り
・トンボやカエルがふたたび見られるようになり
・水が濁りにくくなった
という変化が報告されています。
アカミミガメも同じで、
・在来種のイシガメなどとエサや日光浴スペースを奪い合う
・卵や稚魚を捕食して、池のコミュニティをじわじわ変えてしまう
といった影響が知られています。
ここで大事なのは、「1匹のカメ」「数匹のザリガニ」が悪いのではなく、
・全国各地で少しずつ放されてきた積み重ね
・それが何十年も続いて、いまの分布になっている
という時間スケールです。
だからこそ、「1回くらい放しても同じでしょ?」を止めることが、今後の水辺の未来にとっては、かなり大きな意味を持ってきます。
3:市民参加型の“ザリガニ・カメ保全”が増えてきた話
おもしろいのは、ここ数年で、「ザリガニを釣る=悪」でも「カメを全部駆除=正義」でもない、第三の道が少しずつ形になっていることです。
・都市のビオトープ公園で、来園者がその場で参加できる「ザリガニ調べ」イベントを通年で実施し、増えすぎたアメリカザリガニを減らしつつ、水辺の生き物を一緒にモニタリングしているところ
・市の生物多様性センターが、環境カウンセラーと協力して約3カ月で2800匹以上のザリガニを駆除し、その結果を「エコ通信」として市民に共有しているケース
・河川敷の調査会が、特定外来魚やアメリカザリガニを駆除しつつ、在来魚はきちんと元の場所に戻すスタイルを20年以上続けている事例
こうした取り組みの共通点は、
・「完全駆除」ではなく「増えすぎを抑えて、生態系のバランスを取り戻す」ことをゴールにしている
・専門家だけでなく、子どもや地域住民、学生もプレイヤーになっている
・“やらされる環境教育”ではなく、“自分で手を動かすフィールド・アクティビティ”として設計されている
というところにあります。
KVG的に言えば、
「遊びと保全の境目を、あえて曖昧にした設計」
がじわじわ増えている、という感じです。
4:ベランダの水槽から始まる、アップデート
たとえば、あなたの家のベランダの水槽や、子どもの記憶に残る“初めてのペット”も、この話の外にはありません。
いま、自治体や環境省の情報を総合すると、アカミミガメやアメリカザリガニと暮らしている家庭に向けて、ざっくりこんなメッセージが出ています。
・すでに飼っている個体は、最後まで責任を持って飼い続けて大丈夫
・「大きくなったから」「飽きたから」と言って川や池に放すのは、法律違反
・どうしても飼えなくなったら、信頼できる引き取り手や団体を探す
・水槽や飼育容器から逃げない工夫も“立派な保全アクション”
ここに、私たちが関われる余白がけっこうあります。
・子どもと一緒に、「なんでこのカメは外に放しちゃダメなんだろう?」をストーリーとして話す
・学校や地域のイベントで、“元ペット外来種”についてのミニ展示を企画する
・KVGみたいなフィールド系コミュニティで、「ザリガニ釣り」を“駆除+観察+ごはん”まで含んだプログラムとして再設計してみる
ベランダの水槽と、遠くの湿地の生物多様性は、一見まったく別の話に見えます。
でも、「一匹をどう扱うか」という日常の選択が、全国で何万・何十万回と積み重なった結果として、水辺の風景ができあがっている――そう考えると、ちょっと視点が変わってきませんか。
5:「外来種コンパス指数」という、未来への小さな種
最後に一つだけ、研究の世界から出てきている少し先のアイデアを。
あるチームが考えているのが、「外来種コンパス指数」という指標です。
・その地域の外来種リスト(アメリカザリガニ、アカミミガメ、そのほかの要注意種)
・在来の生き物の多様性
・周辺の学校・公園・住宅地の分布
・市民ボランティアやNPOの活動量
こうしたデータを重ね合わせて、
「この町の“外来種コンパス”は、いまどっちの方向を向いているのか」
をひと目で見えるようにする構想です。
たとえば、
・市民参加イベントが増えると、指数の針が“回復方向”に少し傾く
・放流や不適切な飼育が多いエリアでは、“リスク方向”に触れる
・その変化を、行政の補助金や学校の授業、企業のCSRの方向性にも反映させていく
もしそんな“コンパス”が当たり前になったら、
「なんとなく良さそうだから、ザリガニ釣りイベントやろう」ではなく、
「このエリアでは、こういうデザインのイベントなら生態系にもプラスになる」というところまで、顔を上げて考えやすくなるかもしれません。
あなたは、この外来種コンパスの針が、どんな方向を指していてほしいと感じますか。コメントお待ちしています!!
※本記事は、公的機関や信頼できる報道などの公開情報を複数照合した上で作成しています。事実関係の誤りやアップデートがあれば、一次情報を優先しつつ、今後の更新で反映していきます。
文・ジャスミン(KVG保全クロニクル編集担当)
