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読書日記2026年2月『異形コレクション グランドホテル極』

『異形コレクション グランドホテル極(きわみ)』(井上雅彦監修/光文社文庫)を読了しました。
こちら、私の大好きな書き下ろしホラーアンソロジーシリーズ。
久しぶりの刊行で、「待ってました!」という感じ。
今回も大変面白く読ませていただきました。

表紙もいつも素敵

今回のテーマ……と言いますか、舞台は、タイトルにもなっている<グランドホテル極>。
風光明媚な高原にそびえる美しいクラシック・ホテル。
ネット検索しても簡単には出てこず、限られた人しか訪れることができない、知る人ぞ知る幻のホテルです。
しかも極地でもないのに、大晦日の夜には極光(オーロラ)が現れ、それを目にしたものは幸福になれる(あるいは不幸になる……?)という噂まであるという……。

監修者の井上雅彦先生はじめ、15人の作者がこのホテル、大晦日の夜を舞台にして色とりどりのホラー短編を紡ぎ出しています。
このような小説形式を、〈モザイク・ノベル〉や〈シェアードワールド〉と呼ぶそうです(編集序文より)。

このホテルの設定が何より素敵なので、自分でも書いてみたいな~と思ってしまうのですが(実際、既刊「夏のグランドホテル」の舞台を拝借して短編を一つ書いたことはある)、それはひとまず置いておくとして。

今回の収録作品の中から、特に印象的だったものについて感想を書いていきたいと思います。

「雑な神隠し」背筋

「近畿地方のある場所について」があまりにも有名な背筋さんですが、短編も面白い。
この小説も一工夫ありました。
【一月二十三日】から始まり、大晦日までだんだん日付が遡っていく構成です。
主人公の男が自分の家に幽霊が出ていたけれど、もういない……と一安心した場面から始まるのですが、日付を遡ることにより徐々に恐怖が高まっていき、やがて幽霊の正体も明らかに。
最初、「あれ?ホテル出てこない?」と不思議に思っていたのですが、最後はちゃんと登場しますし、その登場のさせ方が何とも絶妙。
ラスト一行で「あー、そういうことか!」とびしっと腑に落ちました。
タイトルの意味もきちんと回収されます。
確かにちょっと「雑」ですね。

「ジェイルハウス・ロック」久永実木彦

<グランドホテル極>の近くに、ライバルとなるホテル<刑藍荘>(オーバーシアーズ)があるというお話。
この<刑藍荘>、「刑務所という非日常をリアルに提供する」のが売りの、コンセプト・リゾート・ホテルです。
ここの支配人、もとい所長は自分のホテルが流行らないのは<グランドホテル極>のせいだと思い込み、これまで十一人の殺し屋を送り込んできました。
しかしいずれも失敗、そして今回、主人公である朽名が破壊工作のため<グランドホテル極>へ行くことになりました。
気が進まない朽名でしたが、病身の妻を人質に取られるようなことを所長に言われ、逆らうことができず……。
まず<刑藍荘>の設定が面白くて、これだけで別の物語ができそうです。
<グランドホテル極>に客としてチェックインした朽名を迎える客室係・乙倉のキャラも際立っていました。
ミニチュアオタクだという乙倉は、ロビーに展示されているホテルのミニチュア模型について嬉々として解説。
このミニチュア模型があとで重要な役割を果たすことになり、その仕掛けが面白かったです。
破壊工作を始めた朽名を迎え撃つホテル側のあれこれも迫力があって良かった。
久永実木彦さんらしい奇抜な着想が光る一編でした。

「扉を開いて」柴田勝家

こちらはホテルのドアマンが主人公の物語。
「俺」は学生時代の先輩に誘われ、年末年始の二日間だけ<グランドホテル極>でドアマンをやることになった……はずが、なんと十二月三十一日の午後二時からの数時間を、何百回もタイムループするはめに。
というのは、このホテルには「ドアマンが招き入れてはいけない客」について不思議なルールがありました。
どうやらそれを破ってしまうと、時間が巻き戻り、また午後二時からやり直し、となってしまうらしい。
ホテルには通常のお客だけではなく、「人でないもの」たちも訪れます。
それらの存在がルールに反していないか、瞬時に判断し、OKならばお客として丁重に迎え入れ、そうでないなら無視する。
次々に現れる異形のモノたちの造形が面白く、そのモノたちがルール違反かどうか?と「俺」と一緒に考えるのも緊張感があって楽しい。
そもそもなぜそんなルールが存在するのか……と突き止めていくあたりは、ミステリっぽさもあって非常に良かったです。

「雪まつげ」篠たまき

<グランドホテル極>には天然温泉もあります。
雪の降りしきる中で温かい温泉につかる喜び、いいなあ行きたいなあ……と思ってしまうのですが、このお話の温泉はちょっと怖い。
主人公の「私」は「薄給の勤め人」、本来なら高級ホテルに泊まれはしません。
しかし単身赴任中の夫が、赴任先で浮気中(しかも相手は主人公の友人)。
年末年始は仕事で帰れなくなった、と見え透いた言い訳をする夫への半ば嫌がらせのため、夫に費用を負担させ、一人で<グランドホテル極>にやってきました。
この時期にだけ湧くという「泡湯」に浸かり、優しい女性スタッフにエステを施術され、心も体も和らいでいきます。
さらにオーロラを眺めながら陶然となっている時、女性スタッフから「泡に愛でられる方」「選ばれた、幸運な方」と謎の言葉をかけられました。
実はこの温泉には、とある重大な秘密が……。
その秘密が明かされる場面、とても恐ろしいはずなのに、でもどういうわけか官能的で魅力的。
篠たまきさんならではの世界をとっぷりと味わえました。
さらに最後にはもう一段階の謎解きがあって、そこもまた怖かった。

「忘却のグランデセール」上田早夕里

ホテル内の<珈琲店トルシュ>が舞台です。
<珈琲店トルシュ>では十二月三十一日のみ、特別な季節限定スイーツセットが限られた予約客に提供されます。
ただ、そのメニューがいったいどんな菓子でどんな味だったのか、なぜか情報がほとんど出回らず、幻のような存在となっています。
菓子職人である「俺」は、その<珈琲店トルシュ>の菓子作りを担当している占部という男から特別メニューの招待状を渡されました。
どうやら引き抜きをほのめかされているらしい。
洋菓子コンテストで優勝を二度も逃し、行き詰まりを感じていた「俺」はそれを打開するため、招待を受けることにしましたが……。
これは何とも美味なる物語でした。
大正モダンを思わせるデザインで統一された<珈琲店トルシュ>、その雰囲気がまず良いですし、そこで一品一品コース形式で出てくるスイーツが、何とも言えず魅惑的。
文字だけでお菓子の外観やお味を表現するのはなかなか難しいと思うのですが、どのスイーツも主人公とともに存分に堪能できました。
そして最後に、「俺」は占部から重要な決断を迫られて……。
その決断、そしてラストの爽やかさと切なさが印象に残る一編でした。

以上になります。
その他の作品もどれも面白く読みました。
やっぱり異形コレクションはいいなあ。
また次巻も楽しみに待ちたいと思います。
(了)

前巻『異形コレクション メロディアス』の感想はこちら。
音楽をテーマにした一冊、こちらもオススメです。

そのさらに前巻『異形コレクション 屍者の凱旋』の感想はこちら。
ゾンビ、復活する屍者がテーマ。恐ろしくも面白い一冊でした。


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