【名字の雑学】家紋って何?〜あなたの家紋の調べ方〜
大河ドラマや時代劇を観ていると鎧兜や陣羽織、旗指物に大きく描かれた「紋」に目を引かれることはありませんか。
真田家の六文銭、徳川家の三つ葉葵、豊臣家の桐。
名前を聞けばすぐに形が浮かぶという方も多いはず。
戦国武将の家紋には詳しいのに「あなたの家の家紋は?」と聞かれると答えに詰まってしまうという方もいらっしゃるのでは。

家紋は時代劇の中だけの遠い存在ではありません。
お墓や仏壇、古い着物の奥に、実はあなたの家の紋がひっそり眠っているかもしれません。
そもそも家紋は、いつ、何のために生まれたのでしょうか?
片喰や桐、鷹の羽。数ある紋の中から、どうしてその図案が選ばれてきたのでしょうか?
自分の家の家紋は、どうやって調べればいいのでしょうか?
ご先祖様が遺したかもしれない小さな手がかりの見つけ方を一緒に探っていきましょう。
🔍家紋ってそもそも何?いつ生まれたの?
家紋の始まりは平安時代後期までさかのぼります。
奈良時代にもすでに、調度品や器物に飾りの文様を施す習慣はありました。
それが平安期に入ると「うちの家だけの目印」という性格を帯び始めます。
きっかけは、なんとも優雅な話です。
平安末期、西園寺実季(さいおんじさねすえ)や徳大寺実能(とくだいじさねよし)といった公家たちが、自分の牛車(ぎっしゃ)の胴に独自の紋を描き、都大路を練り歩いたのが始まりの一つとされています。

京の都には、牛車がひしめいていました。
数ある牛車の中から自分のものをぱっと見分けたい、家紋にはそんな実用的な理由もあったそうです。
おしゃれのはずが、いつのまにか便利な目印になっていた。
この二重の顔は家紋という文化そのものの面白いところかもしれません。
武家の家紋が生まれたのは、公家より少しあとのことです。
源平合戦のころだと言われています。
もっとも最初は紋ではなく「色」による見分け方でした。
源氏は白旗、平氏は赤旗というように、遠くからでも敵味方が分かる工夫がされていました。
鎌倉時代の中頃になると、ほとんどの武士が自分の家紋を持つようになりました。
旗指物や幟(のぼり)、幔幕(まんまく)、馬標(うまじるし)、刀の鞘(さや)まで、戦場のあらゆる道具に紋が入れられるようになります。
見分けを誤れば、時に命に関わります。
家紋は、戦場で欠かせない道具になっていきました。

敵か味方かを一瞬で見分けるだけでなく、あの旗の下に立つ武将が誰なのかを示す役目もありました。
家紋は、戦場における武士の「名刺」のようなものだったのです。
室町時代に入ると、家紋のついた礼服が広がっていきます。
今も知られる現存最古の家紋集『見聞諸家紋(けんもんしょかもん)』は応仁の乱のころ(1467〜1470年ごろ)に記録され、1475年ごろに蜷川親元(にながわちかもと)がまとめたとされています。
戦国時代になると同族同士の争いが増え、敵味方を見分ける必要から家紋の種類は一気に増えました。
本家と分家を区別するため、図案をわざと少し変える工夫もこのころ盛んになったといいます。
優雅な牛車の目印から、命のやり取りをする戦場の識別印へと姿を変えていきました。
同じ「紋」という言葉の中に平安と戦国、まったく違う二つの時代が重なっているのです。
🔍どんな家紋があるの?
家紋は、いったい何種類あると思いますか。
資料によって数字はまちまちで、5千種類程度とする説もあれば、2万種類、中には2万5千種類以上という説もあります(諸説あり)。
正確な総数は実のところ誰にも分かっていません。
日本家紋研究会が全国の寺院や霊園を長年調査した採集データは、なんと250万件にものぼるといいます(これは紋の種類ではなく、使われた事例の数です)。
家紋の図案は、自然紋(日・月・星・雲など)、植物紋(藤・桐・梅・柏など)、動物紋(鷹の羽・鶴など)、器物紋(扇・矢など)といった大きな分類に分けられます。
中でもいちばん種類が多いのが植物紋です。
昔の人たちがどれほど草花や木々を身近に感じ、暮らしに取り入れてきたか。
家紋の分類ひとつからも、そんな空気が伝わってきます。

代表的な紋には、それぞれ理由があります。
片喰(かたばみ)は、どこにでも生える強い雑草です。
一度根付くと絶やすのが難しいことから「家が絶えない」に通じるとされ、子孫繁栄の願いを込めて武家に好まれました。
柏(かしわ)は、新しい芽が育つまで古い葉が落ちない木です。
端午の節句に柏餅を食べるのと同じ発想で「代が途切れない」象徴とされました。
蔦(つた)は、地面や壁にたくましく絡みついて広がっていきます。
こちらも子孫繁栄を願う紋として武家にも庶民にも人気でした。
鷹の羽は、鷹狩を好んだ武士たちに愛された紋です。
よく見ると描かれているのは鷹そのものではなく、羽の部分だけです。
赤穂藩の浅野家が使った「丸に違い鷹の羽」が特に有名です。
そして桐(きり)は、これらとは少し格が違います。
もともとは皇室の紋で、鳳凰(ほうおう)が止まる神聖な木とされてきました。
桐紋には、たすきリレーのような歴史があります。
皇室から足利将軍家へ、足利義昭から織田信長へ、そして信長から豊臣秀吉へ。
秀吉はさらに、功績のあった家臣の山内一豊(やまうちかずとよ)にこの紋を分け与えました。
こうして桐紋は、格式の高さを保ったまま少しずつ広がっていったのです。

面白いのは、徳川家康です。
家康は桐紋を譲られる話を持ちかけられたものの、辞退したという逸話が伝わっています。
「自分の家柄は、桐紋をもらった足利家より格下に扱われたくない」という誇りがあったから、と言われています(この逸話には諸説あります)。
真田家の六文銭(ろくもんせん)も家紋の中でとりわけ印象深い一つです。
仏教で死者が三途の川を渡るときに必要な「渡し賃」を意味するとされ、いつ戦場で命を落としても覚悟はできているという決意を表したものだと語られています。
一つの紋の裏に、これほどの物語が詰まっているのです。
家紋を調べるということは、ご先祖様の願いや覚悟をのぞき見ることでもあるのかもしれません。
🔍自分の家の家紋の調べ方
ここからが今日いちばんお伝えしたいことです。
日本には家紋を登録する制度が一度もありませんでした。
江戸時代に葵紋の使用が制限されたような例外はあっても「これがあなたの家の紋です」と国が決めてくれる仕組みはないのです。
つまり、自分の家の家紋は自分で探しに行くしかありません。
ここでは、見つかりやすい順番にご紹介します。
まず試したいのは家族や親戚、特に年配の方に聞いてみることです。
両親や祖父母、親戚のおじさんおばさんに「うちの家紋って知ってる?」と尋ねるだけで、半分以上の確率で答えが返ってくるとも言われています。
もっとも手軽で、いちばん最初に試すべき方法です。
次に有力なのが「お墓」です。
台石や花立の正面に家紋が刻まれていることがよくあります。
近くにお墓があるなら、お参りのついでに確認してみてください。
遠方だったり、すでにお墓じまいをしていたりする場合は、昔の法事やお墓参りの写真に紋が写り込んでいないか探してみるのも一つの手です。
見つけたら、必ず写真に撮っておきましょう。
家紋は図案の細部がわずかに違うだけで名前が変わってしまうことがあるからです。
分家の場合は、本家に確認するのも確実な方法です。
代々の記録や言い伝えが残っていることが多く、家紋はお墓にも刻まれる比較的オープンな情報なので、電話で尋ねれば教えてもらえることも少なくありません。
仏壇や位牌、古い提灯もチェックしてみましょう。
ここは少し情報が分かれるところです。
大きな仏壇なら、上部や下部の中央に紋があしらわれていることがあります。
位牌の上部に入っていることもあります。
一方で、最近の小さな仏壇や位牌には紋が入っていないことも多いのが実情のようです。むしろ狙い目なのは、初盆や盆提灯として作られた古い提灯です。家紋入りで作られることが多いからです。

タンスの奥に眠る紋付きの着物や羽織も大事な手がかりです。
ただし、ここには二つの落とし穴があります。
一つ目は貸衣装の罠です。
成人式や結婚式でレンタルした着物には、自分の家とは無関係な「五三桐(ごさんのきり)」などの紋が入っていることがほとんどです。
レンタル品の紋を「これがうちの家紋」と思い込んでいる人は意外と多いのではないでしょうか。

二つ目は女紋(おんなもん)です。
女性の着物は、実家の紋をそのまま受け継ぐ場合と、女性から女性へと伝わる独自の紋を持つ場合があります。
特に近畿地方に多い風習で、必ずしも今の家の紋と一致するとは限りません。
こうして見つけた紋の図案は、家紋事典やインターネットの家紋検索サイトで名前を照合すれば完成です。
植物なのか動物なのか丸で囲まれているかなど、図案の特徴から正式名称にたどり着けます。
名字が参考になるのは、この最後の段階だけです。
名字が同じだからといって家紋まで同じとは限らないのです。
親戚に聞き、お墓を確かめ、本家をたどり、仏壇や着物を見て、最後に事典で照合するという順番さえ覚えておけば、あなたも今日から家紋探偵です。
あとがき
今回は「家紋」をテーマに平安貴族のおしゃれから始まり、戦場の識別印を経て、今のあなたの家に伝わる紋にたどり着くまでの物語をたどってきました。
もし自分の家の家紋が分からなくても、がっかりする必要はありません。
家紋には登録制度がなく、先祖の紋がどうしても見つからなければ、これから新しく定めても構わないとされています。
大切なのは正解を当てることよりも、家族や親戚と「うちの紋って何だろうね」と話してみること自体なのかもしれません。
なお本記事は、公開されている資料や文献をもとに個人で調査・執筆したものであり、学術的な正確性を保証するものではございません。
内容には諸説ある場合もございますので、あらかじめご了承ください。
参考:Wikipedia「家紋」「桐紋」、刀剣ワールド、家紋のいろは、日本家紋研究会、家系図作成会社のコラム 等
