ショートストーリー
紫外線の夜
午前二時の渋谷。ネオンが濡れたアスファルトに溶け込む頃、桐島レンはビルの屋上から路地を見下ろしていた。
コートの内側、特製のホルスターには三丁のUVグロック——弾薬の代わりに高純度の紫外線バーストを発射する代物だ。政府の非公開機関〈夜明け〉が開発した武器で、民間には存在すら知られていない。
「ターゲット確認。路地、十一時方向」
イヤホンから相棒の声が届く。
レンは屋上から飛び降りた。三階分の落下を膝で殺し、立ち上がりながら銃を抜く。
路地の奥に、それはいた。
スーツ姿の男——見た目は三十代、実際は何百年生きているのか。被害者の女性を壁に押しつけ、白い首筋に顔を近づけていた。
「そこまでだ」
男がゆっくりと振り返る。瞳が赤く光った。
「〈夜明け〉か」低い声。「邪魔をするな、人間」
「邪魔するのが仕事でね」
レンはトリガーを引いた。
UVグロックが閃光を吐く。凝縮された紫外線の束が直線に走り、男の胸を直撃した。
バンパイアは悲鳴を上げた。人間の皮膚が日焼けするより数千倍の速度で、スーツの下の皮膚が焦げていく。煙が立ち上る。
だが——立っていた。
「旧式の武器だ」バンパイアは焦げた胸を押さえながら嗤った。「私は三百年生きた。その程度では死なん」
レンは舌打ちした。情報通りだ。古い個体ほど紫外線への耐性が上がる。
男が跳んだ。人間の限界を超えた速度。
レンは横に転がりながら二丁目を抜き、連射した。閃光、閃光、閃光。路地がストロボのように白く明滅する。
バンパイアは壁を蹴り、天井を蹴り、まるで重力を無視して跳び回った。
一発が肩を掠めた。また煙。また悲鳴。
「面白い」バンパイアが言った。「久々に楽しい狩りだ」
「狩られてる自覚はあるか?」
レンはコートの内ポケットから小型のデバイスを取り出した。〈夜明け〉の技術班が先月完成させたばかりの試作品——UVフラッシュグレネード。半径十メートル、〇・三秒間だけ、真夏の正午の太陽光に相当する紫外線を解放する。
「終わりにしよう」
ピンを抜いて投げた。
バンパイアが空中でそれをキャッチした。
「馬鹿め——」
爆発した。
路地全体が白に塗りつぶされた。レンはUVシールドのゴーグルで目を守りながら、爆風に背を向けた。
悲鳴が響いた。今度は長く、長く。
光が収まった。
スーツだけが、灰の山の上に残っていた。
レンは銃を収め、壁際でへたり込んでいた女性に近づいた。記憶は消える。傷は残らない。バンパイアの噛み傷だけが赤く、首に残っていた。
「救急車を呼びます。もう大丈夫ですよ」
イヤホンが鳴った。
「レン、次のターゲットだ。六本木、VIPクラブの地下。複数確認」
レンは空を見上げた。東の空がわずかに、ほんのわずかに明るくなり始めていた。
夜明けまで、あと四時間。
仕事はまだ終わらない。
了
