ママに?
二つ目に就いた職場で、直属の上司は私より二歳年下だった。
第一印象は、無愛想で適当。
相勤者が決まるまでの仮のペアでもあった。
何かを聞いても、
「前にいたところ、今と全く違うことしてたからよくわかんねーんだよな」
そんな返答ばかりで、正直腹が立っていた。
いくつか案件が重なり、改めて指示を仰いだときも、
「んー、それでいいんじゃない?
まだ俺もよくわからなくてさー」
半笑いでそう言われ、つい口をついて出た。
「仮にも私の上司ですよね?
わからないから“それでいいんじゃない”で済むんですか?
私は誰を頼ればいいんですか?」
会社上がりの私は、公務の縦社会の空気など知らなかった。
だからこそ、言えたのだと思う。
――こんな頼りない人が上司なんて。
そう思い、自分でどうにかしようと、あちこちに聞き回りながら必死に仕事をこなした。
ところが、別の案件で行き詰まり、仕方なくまた上司に尋ねたときのこと。
どうせ大した答えは返ってこないだろうと思っていたのに、上司は別人のようにスラスラと説明し、進め方まで丁寧に教えてくれた。
驚いて
「どうしたんですか?」
と聞くと、
「mugiさんの言葉が刺さってさ。
あれからずっと勉強した。まだ完璧じゃないけど」
曲者で有名だった上司は、真正面からあそこまで言われたのが初めてだったらしい。
本気で反省したのだという。
その後、解釈の相違で小さな問題が起きたとき、その上司が矢面に立ってこう言った。
「その解釈に問題があった場合、mugiさんではなく私の責任です」
そこまで言い切ってくれた。
その頃から、私は上司を信頼するようになった。
雑談をしたり、昼休みに一緒にランチへ行ったりもした。
もちろん、これはLOVEではない。LIKEだ。
ただ、この上司、信頼関係を構築できたのはよかったが……想像以上によくしゃべる男だった。
月曜日の朝になると、待ってましたとばかりに土日の出来事を延々と語り出す。
例えるなら私がヤローで、上司が久々に会った彼女のような感じだ。
上司「土曜日はどこどこに行ってさ…」
mugi「あー、そう」
上司「日曜日は朝6時に起きてから…」
mugi「へー、そう」
朝礼中でさえヒソヒソ声で話し続け、
「ここ学校じゃないんだからさ」
と課長に注意される。
一旦止まるが、また始まり、さらに注意される。その繰り返し。
上司はその後昇進して隣の課へ異動したが、おしゃべりは変わらなかった。
後で聞いた話によると、上司はお母様から下の名前を『ちゃん付け』で呼ばれている、筋金入りのマザコンだったらしい。
もしかすると
上司には、私が“ママ”に見えていたのかもしれない。
だから、あんなに楽しそうに話し続けていたのか…何となく分かった気がした。
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