天空のレムリア物語 アーリエル編 第2話
🌌 天空のレムリア物語
第二部 アーリエル王編
第二話
『虹の王妃と聖視の覚醒』
天空レムリア黄金期。
人々は争いを知らず、
龍は歌い、
女神たちは祝福を与え、
星々は夜ごと王国を見守っていた。
だが。
その完璧な調和の中で。
ただ一人だけ、
誰も見えないものを見ている存在がいた。
エリュシア。

光冠の王妃。
虹の王妃。
そして。
後に
《光契の巫女》
と呼ばれる存在。
その朝。
エリュシアは眠りから目覚めた。
しかし。
世界が違っていた。
窓の外。
光の庭園。
風に揺れる花々。
空を飛ぶ光鳥。
全ては昨日と同じ。
だが。
彼女の目には、
別の光景が重なっていた。
花の周囲に流れる光。
鳥の軌跡に残る記憶。
人々の身体から立ち昇る色彩。
世界が。
光の糸で出来ている。
「……これは……」
エリュシアは胸を押さえた。
視えすぎる。
花の喜び。
鳥の自由。
庭師の幸福。
通り過ぎた少女の小さな不安。
全てが流れ込む。

その時。
背後から声がした。
「始まったか」
振り返る。
そこに立っていたのは。
ラーナ。

女神達を統括する虹の女神。
天空レムリアにおいて、
最も古い女神の一柱。
長い虹色の髪。
静かな微笑み。
瞳には星々が宿っている。
エリュシアは驚く。
「ラーナ様……」
ラーナは優しく頷いた。
「あなたの聖視が目覚めた」
「聖視……?」
ラーナはゆっくりと歩く。
「あなたはこれから」
「魂を見る」
「記憶を見る」
「未来を見る」
「そして苦しむ」
エリュシアは息を呑んだ。
苦しむ。
なぜ。
ラーナは静かに答えた。
「真実は美しいだけではないから」
沈黙。
女神の言葉には重みがあった。
「視えるということは」
「誰かの痛みも見るということ」
「誰かの後悔も見るということ」
「誰かの未来の涙も見るということ」
「それでも愛せるか」
エリュシアは答えられなかった。
すると。
ラーナは微笑んだ。
「だからあなたが選ばれたのです」
その瞬間。
虹色の光が部屋を包む。
エリュシアの瞳が輝く。
そして。
彼女は初めて見た。
遥か遠く。
地上レムリア。
まだ見ぬ人々。
海辺で笑う少女。
歌を学ぶ巫女。
龍と語る少年。
そして。
未来の地上王。
まだ幼いオクモラ。

その姿が一瞬だけ映った。
「……誰?」
ラーナは答えない。
ただ静かに言った。
「いつかあなたが出会う運命の一部」
その言葉を残し、
虹の女神は光となって消えた。
その日の夕刻。
光宮ルミナ・パレス。
アーリエル王は回廊にいた。
すると。
背後から足音が聞こえる。
振り返る。
エリュシアだった。
しかし。
どこか違う。
彼女の瞳。
その奥に。
無数の星が見える。

アーリエルはすぐに理解した。
「目覚めたのか」
エリュシアは小さく頷いた。
「怖いです」
王は何も言わない。
ただ隣に立つ。
沈黙。
しばらくして。
エリュシアが言った。
「人の悲しみが見えます」
「未来の涙も見えます」
「それでも……」
彼女は空を見る。
星々が輝いている。
「この世界は美しいと思いました」
アーリエルは微笑んだ。
「なら大丈夫だ」
「どうして?」
王は静かに答えた。
「本当に危険なのは」
「悲しみを見て絶望する者ではない」
「悲しみを見なくなる者だからだ」
エリュシアは王を見る。
その言葉は。
彼女の心を救った。
そして。
その夜。
天空レムリア全土で、
不思議な現象が起きた。
空に巨大な虹が現れたのである。

夜なのに。
星空に。
虹が浮かぶ。
人々はその虹を見上げ、
こう囁いた。
「光冠の王妃が覚醒した」
「新しい時代が始まる」
「レムリアはさらに輝く」
誰も知らない。
その虹が。
未来の別れへの、
最初の予兆でもあったことを。
