違和の記録|違っていたこと
放課後、部室で本を読んでいた。
珍しく、誰も来ていなかった。
しばらくして、部長が入ってきた。
「今日は早いのね」
それだけ言って、いつもの席に座った。
何も変わらなかった。
帰る前に、机に置いていたペンを手に取った。
そのとき、少し違和感があった。
キャップが、少しだけずれていた。
使った覚えはなかった。
そのまま鞄にしまおうとしたときだった。
「それ」
部長が言った。
視線が、手元に向いていた。
「……足りないのよ」
静かな声だった。
何が、とは言わなかった。
意味は分からなかった。
「さっき、俺しかいませんでしたけど」
「そう」
部長はそれだけ言った。
それ以上は続かなかった。
次の日、同じペンを使おうとした。
インクが、出なかった。
振ってみる。
何度か試す。
出なかった。
買い替えたばかりで、まだほとんど減っていないはずだった。
昨日までは普通に使えていたはずだった。
しばらく見てから、引き出しに戻した。
放課後、部室に行った。
部長はいた。
いつもの場所だった。
何も言わなかった。
そのまま席に座る。
少しだけ気になって、昨日のことを口にした。
「昨日のペンなんですけど、インク出なくなってて」
部長は顔を上げた。
少しだけ考えるような間があった。
「……そう」
それだけだった。
昨日の言葉の続きを言うことはなかった。
帰り道で、思い出した。
あのときの、キャップのずれ方を。
開けたまま閉めたような、そんな感じだった。
昨日、自分で何か書いた気がした。
何を書いたのかは、思い出せなかった。
ペンは、軽くなっていた。
減ったのかどうかは、よく分からなかった。
ただ、
昨日と同じではなかった。
部長の言葉が、頭に残っていた。
足りないのは、インクなのか、
それ以外なのかは、
最後まで分からなかった。
