見出し画像

後輩の池田#23【晒し愛】

池田の誕生日。

バイト先の店で、お祝いをした帰り道。

店を出ると、夜風がさっと頬を撫でた。

アルコールで火照った身体には、ちょうどいい。


「すいません、私けっこう寝てましたよね」

『いや、大丈夫だぞ』

「最後の方、なに話してましたっけ。あんまり覚えてなくて」

『まあ飲み過ぎたんだろうな、別に普通の話だぞ』

案の定覚えてないらしい、あぶねえ・・・

「私、なに言ってました?」

『え;;』

(もう少し先に進みたくて・・・)

さっきくらった酔い瑛紗の破壊力を思い出す。

「変なこと言ってないですよね?」

『ああ、大丈夫だぞ;;』

変なことしか言わなかったが、これ以上話して思い出されても対応に困る。

ごまかすように手をとって歩き出すと、指の間に池田の細い指が滑り込む。


夜の住宅街は人通りもなく、池田の少し覚束ない足音だけが、やけに大きく響いていた。

数分もしないうちに足取りが怪しくなる。


『瑛紗、大丈夫か?』

「んー・・・大丈夫です」

そう言った次の一歩で、案の定ふらついた。



『ほら、おぶってくから』

背を向けてしゃがみ込む。

「え・・・いいんですか?」

『恥ずかしいなら無理にとは・・・』

「は、恥ずかしくないです。お願いしますっ////」


少しだけ間を置いて背中に軽い重みが乗る。

いつもより甘い香りがふわっと漂って、細い腕が首に回る。


軽っ!


本当に背中に乗っているのか疑うくらい軽い。

その細い身体を太ももの裏で支える。

初めて触れる柔らかな感触に、変なところばかり意識してしまう。

密着度合いを更新している状況に気づいてしまって、足が動かない。


「先輩? 重い?」

『いや、柔らかい。あっ////』

何言ってんだオレは;;

アルコールのせいか、池田のせいか。だいぶ口が緩くなっている自分に気づく。


「むぅ、えっちですね////」

そう言いながらもぎゅうっと抱き着いて、密着度を更新してくる。

背中から伝わる熱さが、身体の前面に移らないように前方の景色だけに意識を集中させる。



落ち着け;;

今は池田と無事に帰宅することだけ考えろ;;

自分に発破をかけて暗闇の先を睨んだ、その時だった。


かぷっ。

『いっ!?』

首筋に硬い歯の感触が走って、すぐに離れる。

は、オレ噛まれた?


『な、何してんだよ////』

背中の池田が小さく笑う。

「ふふ、すいません。美味しそうだったんで////」

『美味しそうってなんだよ;;』

「ふふ・・・」

肩口に額を預けたまま、小さく笑う。


この酔っぱらいめ////



かぷっ。

『いぃっ////』



かぷっ。

『おいっって////』


これはやばい。変な気分にしかならないぞ。

「無防備を晒してる先輩が悪いんですからね////こんなの我慢できないです////」


なに言ってんだ、こいつは////


『瑛紗・・・』


「はい」


『やめなきゃ下ろすぞ////』


「ケチ・・・我慢します」


我慢って・・・こっちだぞ我慢してるのは


・・・・・・

「先輩?」

・・・・・・

「怒りました?」

・・・・・・

『別に怒ってないぞ。でももう噛むなよ』

「ふふ、分かりました。外では控えます」

うん、分かってない気がする・・・



それからしばらく、池田は大人しくなった。

さっきまで首筋を狙っていたとは思えないほど、背中に身体を預けている。

聞こえるのは、一定のリズムで鳴るオレの足音。

時折遠くを走っていく車の音と、夜風に揺れる木々の音。

店であれだけ騒いでいたせいか、夜道がいつもより静かに感じる。

首元に回された腕からも、もう力が抜けていた。

歩くたびに背中で小さく揺れる身体。

肩口に触れる池田の呼吸も、すっかり穏やかになっている。


寝たのか?

そう思って少しだけ顔を横に向ける。

そのとき、耳元で小さな声がした。

「先輩」

『ん?』

さっきまでとは違う声だった。

甘ったるい酔っぱらいの声でも、からかうような声でもない。

背中に身体を預けたまま、池田が静かに続ける。


「今日は、ありがとうございました。すごく贅沢な誕生日でした」

『そうか。それはそうとほんとにプレゼント的なのはいいのか?』

「んー、しいて言うなら・・・」


・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

「・・・ないですね」


少しだけ間を置いてから、ふっと笑う。

『毎年プレゼント負債が積みあがってくのは、それなりにプレッシャーなんだが』


背中で華奢な肩がぴくっと跳ねる。

体温がじんわりと上がっていくのが伝わってきた。

それを誤魔化すように、首元へぎゅっと腕が回された。

ん?

恥ずかしそうにしている瑛紗を背中で感じる。


『どした?』

「えっと・・・何年分くらいを想像したのかなって////」

瑛紗が照れた意味が分かった途端、こっちも熱が上がる。



『と、とにかくなにか思いついたら言ってくれ;;』

「はい、思いついたら」

『ああ・・・』


「でも・・・」


「・・・ずっと思いつかないかもしれないです」


その言葉と同時に、周りの音が消えて・・・

聞こえるのは二人分の心臓の音。



『そしたら・・・ずっと待ってるしかないな』


「はい////」


小さな返事と一緒に、首の後ろに頬が押しつけられる。


夜の帰り道、背中が少しだけ重くなった。




――――――

「ただいまー」

『オレん家だけどな』


靴を脱いだ池田は、そのままベッドへ。

かと思ったら、途中でくるっと振り返った。

オレの袖を掴んで、そのまま一緒に引っ張っていく。

『おい;;』

「先輩もこっちです」

『はいはい』





「先輩、二人で飲みなおしましょう」

『今日はもうやめとけ。寝たほうがいいぞ』

「え、一緒にですか?」

『なに言ってんだよ;;』

「むぅー、じゃあ嫌です。まだ先輩と話したいです」



ベッドにごろんと横になりながら、こっちを見る。

こんなに直球の甘えモードは初めてじゃないだろうか。

店でもあれだけだったのに、ここに来てさらに強い。


『風呂は?メイクとか落とさなくていいのか?』

「あー、そうですね」

『自分の部屋一回帰るか?こっちで入ってくか?』

「え、一緒にですか?」

『だから;;違うって』

間髪入れずに返すと、池田は唇を尖らせた。


「ぶぅー、ならいいです。キャンセルです」

『なんだそれ・・・』

終わらない池田のターンに、小さく息を吐く。



「先輩、お風呂入ってきていいですよ。私はそのあと考えます」

『そうか、じゃあとりあえず風呂いってくる』

ベッドから立ち上がろうとした瞬間、袖が引かれた。

『ん?』

見下ろすと、池田が横になったままオレの服を掴んでいる。

「先輩」

『どうした?』

少しだけ指先に力が入る。

「・・・ちゃんと戻ってきてくださいね」

裾を軽く掴まれる。



熱のこもった目と対照的な、指の力の弱さが、逆に離しづらい。

ずるいだろ;;

可愛いすぎるだろ;;

外でも、家でも、ずっとキュンキュンをくらっている。


『戻るって;;』

そう言って手を外し、背中に視線を感じながら風呂場へ向かう。


ちらっと振り返ると、小さく丸くなっている姿が目に入った。

じぃっとこっちを見ている。

『どした?』

「考えてました。お風呂出たら、キスしてくれるかなーって////」


『え;;』


「キス以外もそろそろかなーって////」


・・・・・・


「待ってます////」





無双状態の池田から逃げるように風呂に入る。

熱いシャワーを浴びながら色々考える。

このモヤモヤは洗い流せる気がしない。


さすがにこの後は・・・

池田も風呂に入ってからだよな・・・

もう何度想像したか分からない・・・

関係性は変化するんだろうか・・・

少し怖さもあるが、それ以上に池田ともっと繋がりたいという気持ちが強い・・・

きっと池田も・・・



時間の感覚が無くなったせいで、いつもより早いのか、遅いのか分からないまま風呂を出て部屋に戻る。

視界に池田の姿を捉えた瞬間。

さっきまで頭の中を占領していた余計な考えは、全部どこかへ消えた。





「すー・・・すー・・・」


『・・・寝てる』


ベッドの上で、池田は小さく身体を丸めて眠っていた。




まあ、そうだよな。

朝から色々準備をして、あれだけ飲んで、あれだけ喋って・・・

むしろよくここまでもったもんだ。


(待ってます////)

さっきくらった特大の可愛いを思い出して、思わず吹き出す。

たぶん、覚えてないんだろうな。

明日の池田は・・・



ベッドのそばに腰を下ろして、恐ろしく整った池田の寝顔を堪能する。


二十歳になった池田。

楽しそうに笑う池田。

オレの背中が好きだと言った池田。

先に進みたいと言った池田。

背中で甘えて、首筋に噛みついてきた池田。

今日一日だけで、知らなかった池田をいくつも見た。

贅沢な日だったな。




「んぅ、先輩・・・」

幸せそうに閉じた目のまま、わずかに開いた唇がオレの名前を呼ぶ。


『なんでこんなに可愛いんだ』

寝ているからこそ言える言葉を、小さく落とす。


返事の代わりに寝返りを打った池田の髪がさらりと流れて、白い首筋が覗いた。


くそ、無防備すぎる;;

思わず手で顔を覆ってから、自分の首筋に残る小さな感触を思い出して、そっと触れる。


そういえば・・・


無防備を晒してる方が悪いんだったよな・・・



【終わり】


最後までお付き合いありがとうございます。

おかげさまでなんとか終わりました。
8話で終わりのはずが、ついに23話。ずいぶん長い話になりました。
ここまで続けられたのは、読んでいただいた皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
てれぱん、はるちゃん、アルノちゃん、ヒナちゃん、梅ちゃん、さちゅき
いっぱい出てますが、みんな好き度が上がりました。
1話を書いてた時は、てれぱん一人か、出して梅ちゃんくらいと思ってたんですが、今となっては一人でも欠けたらこのシリーズは成立しなかったなと思っています。
お時間のある時に一気読みしていただけるとより楽しめると思います。
感想もらえたら嬉しいですー!感想ほしいですー!

余談ですが、以前からちょこちょこ質問などいただいていましたので、どういうことを考えて書いてましたみたいな記事を書こうかなと思ってます。
続きではないですが、よりこのシリーズが楽しめるように興味のある方だけに向けたものになると思います。色々ご意見あると思いますが、有料記事の方がいいかなとも思ってます。興味がある方、応援してもいいよっていう方は是非お付き合いください。

6期ちゃんも書きたいですし、櫻も書きたいですねー。

企画もやってます。参加してもらえたら嬉しいです。
お願いしますー!

ありがとうございましたー!






メイン   1~8
アフター① 9~11
アフター② 12~14
スピンオフ(アルノちゃん) 15
アフター③ 16~18
年末特別回 19



アフター③ 16~18

スピンオフ(アルノちゃん) 15


アフター② 12~14

アフター① 9~11


メイン  1~8





いいなと思ったら応援しよう!