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元カレと久々に会ってみた

彼(先輩)とは長い付き合いだった。
19歳のときに出会い、27歳までずっと一緒にいた。

誕生日やイベントごとは一緒に過ごした。
正月も例外ではなかった。

1月1日。
わたしは毎年「お金を〇円貯める、〜を旅行する」などと抱負を立てるので、彼にこう尋ねた。

「せんぱい、今年の抱負は?」

すると、彼はこう答えるのだ。
抱負なんか、ない。

(え、そんな人いるの?)と思い、しつこく「えー、抱負おしえてよ」と聞くと、

「抱負なんかない。なんでそんなん作らなあかんの?」
と言うのである。

あっけにとられた私に彼はこう言う。
「世の中には、目標とか抱負とか立てるのが嫌いな人もおるねんで。」

たしかに、彼の生き方は「波風立てず」「身の丈にあった暮らしを」なので、多くを望まないし、今あるものを大切にして過ごしている。
高い目標に向かって自分を鼓舞する感じでは全くない。

一方の私は身の丈に合わない高い目標を掲げて、全力でやって、途中でガス欠になって「やっぱ無理ぃ」となることが多々あったので、彼の考え方が新鮮で仕方がなかった。

お互い大切にしているものが少しずつ違い、それを「自分にはないもの」として認めあっていたので、これまでうまくやってこれたのだと思う。

しかし、私は安定した仕事を辞めたことで、将来のことが不安になった。

(これまで順調に進んできたと思われる自分の人生だが、まさかの正社員じゃないルートを進むことに。
お金、足りるのかな?子どもとか欲しいけど、育てられるのかな?
先輩はブラック企業で働いていて苦しそう、でも彼は多くを望まない生き方だから私が頑張るしかない...
でも待って、私、もう頑張れないんですけど?)

と思い、「もっと上昇志向があって一緒に目標に向かって頑張れるパートナーを探さねば!!」
という考えになってしまったのだ。

そうして、セックスレスだのなんだの理由をつけて、彼との穏やかな日々から逃げ出してしまった。

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彼の誕生日がやってくる。
私は彼にプレゼントを渡したいと思った。
今のところ付き合う気はなくても、相手に何かあげたいと思うのはよくあることだった。

久々に会った彼は、私があげたアロハシャツを着て、靴下の上にサンダルを履いて、おじいさんのような、なんともいえない格好で現れた。
そこまでは通常運転だったのだが、なんと彼はトレードマークのメガネを外してコンタクトになっていたのだ。

そこで私は、(かっこいい!)ではなく
(え、女ウケ狙ってる?ちょっとイヤなんですケド...)

と思ってしまった。

私ウケだとしても女ウケだとしても、彼が人からの目を気にして自分をよく見せようとしているのがなんかイヤだった。
理不尽極まりないのだが...
なんだろう、身なりに無頓着なひろゆきが急にバレンシアガとか着用するような違和感に近いのかもしれない。

反面、わたしが急に脱毛をはじめたり、まつげパーマをし出したときに、彼も同じように思ったかもしれない。

(なに色気づいてるんだよ、小娘が)

いや、彼はそんなに性格が悪い人ではない。
私が髪を染めたときは嬉しそうにしていたな。

まあいい、彼のコンタクトぶりに若干の蛙化現象を起こしてしまった私ではあるが、
会う前は(ああ、会えたら懐かしくて幸せな気持ちでいっぱいになるんだろうな)と思っていた。
実際、付き合っていたときは、相手の顔を見た瞬間、自然に口角が上がり、それを見た彼も嬉しそうに笑う、というようなハッピーな再会が多かったからである。

しかし5分遅れでやってきた彼の顔を見た瞬間、私は(このままプレゼントだけ渡して帰ろうかな)と思ってしまった。

それもそのはず、めちゃくちゃ気まずかったからだ。

わたしは最後、「やっぱり私にとってセックスはなくてはならないもの。なので、セックスをしてくれる人と付き合うことにします。今までありがとう。」
というような無茶な別れ方をしていたからである。
彼にとっての最後の私の印象は「セックスしたすぎて急に消えていった女」というほかならないのだ。


一方、彼は彼でどういう顔をしたらいいのかわからないのか、怒ってもいないし嬉しそうでもない、少し困った表情をしていた。

一言二言言葉を交わしながら、事前に私が行きたかった店に向かう。
しかし、行列ができていたので私が「別の店にしようか」と言うと、彼は「いや、その店でもいいよ」と言ってくれる。
元々彼は並ぶのが苦手なので、「行列ができている=その店に入るのを諦めて別の店に行く」という公式を持っており、私もそれを細胞レベルで染み込ませていた。
だから、行列を見た瞬間、一瞬で諦め、別の店に行こう、という提案をしたのだ。

彼は、常々、自分の言いたいことを言葉にしなくてもわかってもらえる関係を望んでいた。
だから、私が阿吽の呼吸のレスポンスをすると、いつも「わかってるやん」と言って嬉しそうな顔をした。

そうして出来上がったのが、完全先輩専用、きりしまだったのだ。

しかし、3ヶ月のお暇(おいとま)期間に彼も自分の行動を省みたのか、「並んでる店でもいいよ」と言ってくれた。

しかし、2人で行列に並んでいる間、何を喋ればいいというのだ。気まずい、気まずすぎる。
気遣いは嬉しいが、今はそのときではない。

「ガストいこう」
そう言い、比較的空いている店に入ることにした。

席に着くと、仕事や生活の話をした。
途中、彼は「これあげようか」と言って、ハンバーグを少し切り分けてくれた。
私は私で自分で頼んだハンバーグが食べきれず、「お腹いっぱい。いる?」と尋ねてみたが、「いや、いい」と断られてしまった。
いつもなら、私の残したものを食べてくれる係だったのに。

それは同時に、
”我々はもう、付き合っていないのだ。“

とい事実を突きつけられるシーンでもあった。

そうして店をでたあと、行き場をなくした我々は改札の方へと歩き出した。

彼がおもむろに口を開く。
「いま、楽しい?」

「...まあ、楽しいよ。」
そう答えると、彼は
「それならよかった!じゃあな!」
と言って、軽く手をあげて雑踏の中に消えていった。

1人になり、改札をくぐった瞬間、なんだか泣きそうになった。
もうこれで本当に終わってしまうのかな、と思うと、さみしいような、悲しいような、なんとも言えない気持ちに襲われた。

しかし電車に乗りこむまでの間にその涙はひっこんでおり、わたしはまた、男のいない平穏な日々に戻るのであった。

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