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「現代の過剰な情報や音、光に対する「実存的な疲弊」」より

もっと身近で具体的な掠り傷。

ボクにはない痛烈な眼差しをキミは持っていたから、近づいてみたいと思った。

​普段からいつも俯いてあいさつを交わすと、「こんにちは」が「またね」に聞こえる。事実を語るにも事実らしきものはなく、理想を語るにも、それを語るための事実がボクにはまったく全くない。

​ある日、ボクは彼女と話す機会を得た。

​「あなたの目的は?」

​彼女に唐突に言われた。表情には私に対する嫌悪はない。カフェに誘ったら、彼女は断らなかった。

今、ふたりは向かい合わせで話している。

​「何か言いたいことは?」
「ボクはキミに興味があって」
「どんな?」
「他の人達とは違う興味からです」
「こういうこと? 私って相手の事実が分かっちゃうのよね」

​彼女はクスッと笑った。

​「あなたは、そうね。純粋かもね。大人に媚びることもなく、他人をどこかでバカにしてるわ。それをやめたら!生きにくいわよ、この世は。ほら、また誤魔化そうとしてる。インテリの癖なのかな?」

​ふいに彼女は立ち上がる。

​「さてと、どこかに行こうか。今からならまだ間に合うわよ」
「どこへ?」
「ここは?」
「……ここはね?」

「私の体内なのよ。あなたは私の息子になるの。大丈夫よ、あなたを私は愛するから、心配しないで」、これは事実か?

​世界の輪郭が急激に歪んでいた。
ボクは彼女の瞳が巨大な子宮のように見えて、そこに飛び込んでしまったようだ。

​「それなら、ひとつ約束して欲しい」
「何かしら」
「ボクが生まれたら、お父さんを殺して」「どうして?」
「あなたが殺されてしまうから」
「なぜ?」
「それが事実なんだ」
「どんな事実なの?」
「あなたの言うことは分からないけども、こんな事実じゃないかしら」

​気がつくとボクは、父親を惨殺し、その遺体の上に座りながら、アイスキャンデーを舐めながら笑っていた。

​なぜ、こうなってしまったのかを誰も説明してくれない。ボクは、これから起こしてしまった現実と向き合うことになる。全ての経緯を知ったら、ボクは生きる意味を知ることができるだろうか?
世間では、紫外線を3秒浴びただけで奇声を上げている女性がいる。何かがおかしいと思うが、それを語れる冷たい手触りは、依然としてボクにはなかった。しかし、どうしてこんなにも、人々はうるさくするのだろうか?
父親を殺めたのは、世の中がうるさすぎたから、そう思う日もあった。
事実は、残酷だ。ボクがそれに耐えることは難しい。だから、世の中からはみ出してしまった。牢獄のなか存在への無実を訴えても、ボクの命は光の中にはないのだろう。自然と手の中にあった闇も消えてしまった。

補足
グレゴリー・クリュードソン(Gregory Crewdson)の「理由のない恐怖」や「美と狂気」のバランスを参考にしてます。

※「希望は危険なものだ。正気を失わせる。塀の中では禁物だ。そのことを肝に銘じておけ」映画「ショーシャンクの空に」より







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