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なぜ目標だけでは、人は動けないのか。 ——「次の一歩」を翻訳する組織開発の実践知


1.現場での悩みながら見つけた”前進の力”

私が管理職になって、最初に戸惑ったのは、「どうすれば成果が出るのか」が誰にも分からないことでした。

売上目標はある。事業計画もある。
しかし、その目標を達成するために何が足りないのか、その足りないピースをどう埋めればいいのかは、誰にも分かりません。

日々を悩みながら、動き続けることしかできませんでした。
思うようにいかず、求められる短期的な目標が達成できなかったこともありました。

それでも、小さく試し、何が分かったのかを振り返り、次の一歩を考える。その繰り返しを続ける「風土」を作ることだけは止めませんでした。

その結果、組織は確実に前向きになり、成果も高まっていきました。

振り返ると、それは成果そのものを管理するというより、
成果へ向かう「前進」を支えるマネジメントだったのだと思います。


当時は、それを理論として説明できたわけではありません。ただ、「目標だけを渡しても、人は動けない」という実感だけがありました。

だから私は、会社が求める成果を、「次の一歩は何か」という仕事に置き換えてメンバーと対話していました。

今なら、それを一つの言葉で表現できます。

管理職の仕事は、翻訳すること。

経営が求める成果を、現場が動き出せる問いへ翻訳する。
現場で生まれた学びを、経営が判断できる言葉へ翻訳する。

管理職は、その両方を担う存在なのだと思います。


2.誠実な人が、再び動き出すための「翻訳」

このシリーズでは、真面目で誠実な人ほど動けなくなってしまう現象を見つめてきました。

特に、説明責任が重く、失敗を避けることが求められ、関係者との調整が複雑なJTCでは、「ちゃんと進めよう」とするほど、行動が止まることがあります。

本人に意欲がないわけではありません。
むしろ、組織のために誠実であろうとするからこそ、十分な根拠を揃え、失敗しない計画をつくり、関係者の納得を得てから動こうとします。
その結果、小さく試す機会が失われていきます。

そこで整理したのが、「誠実前進サイクル」です。

これは、組織変革を大きな制度や号令から始めるのではなく、管理職とメンバーの日々の対話から始めるための実践知です。

組織開発というと、研修やワークショップ、制度設計を想像する人もいるかもしれません。しかし、職場の空気を実際に変えるのは、日常の会議や1on1、意思決定の場面で交わされる言葉です。

管理職が何を問い、どこまでの失敗を許容し、何を前進として扱うか。その積み重ねが、職場のマネジメントを形づくります。


3.実践は理論に支えられていた

現場で前進につながった実践知を振り返ると、その多くは、組織開発の世界で長年研究されてきた知見と重なっていました。

理論の学びと実践を同時並行で繰り返す経験から、その対応関係を整理したものが、次の図です。

U理論、ダブルループ学習、アクションラーニング、アフターアクションレビュー(AAR)、経験学習。

この5つはあくまで代表的なものですし、それぞれの理論も、一言では表わせられない奥深いものです。

それでも、実践と理論を並べてみると、一つの共通点が見えてきます。

人は、違和感から学びを始めます。

正解を教えられることで変わるのではなく、自ら考え、小さく試し、経験を振り返り、その意味を見つめ直しながら前へ進んでいきます。

私は、この循環こそが、
誠実な人が再び動き出すプロセス
なのだと考えています。


4.翻訳が組織変革へとつながる

そして、この循環は、一人だけでは続きません。

管理職が違和感を歓迎し、小さな挑戦を支え、前進を言葉にする。

チームの中で学びを共有し、失敗を責めるのではなく、次の挑戦につなげる。

そうしたマネジメントが積み重なることで、個人の前進はチームへ、そして組織へと広がっていきます。

だから私は、管理職の役割は成果を管理することだけではないと思っています。

人が前進できる環境をつくり、その前進を組織へとつないでいくこと。

つまり、「変革を翻訳すること」です。


「管理職は罰ゲーム」と言われる時代です。

上からは成果を求められ、下からは支援を求められ、横との調整にも追われる。その中で、現場の管理職が疲弊していることも事実です。

それでも、変革を止めるのも、進めるのも、日々の職場における管理職の関わり方です。

必要なのは、強いリーダーシップだけではありません。

誠実な人が安心して違和感を口にし、小さく試し、学びながら前へ進めるように支える実践知です。

本マガジンが、管理職に「職場を変えるためのマネジメント」を届け、一人の前進がチームへ、そして組織全体へと広がっていくきっかけになれば、幸いです。


(参考)本記事は「なぜ、誠実な人ほど止まるのか―変革停滞論を考える」というマガジンの補足編となります。


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