【2】「どうせ変わらない」は、いつ生まれるのか ― JTC管理職が見た"変えられる実感"を失うとき ―
人は変化を嫌う生き物である
そう言われることがあります。
しかし、果たして、それは本当でしょうか。
1.語られる変化の必要性
変化の激しい今、企業内では「変わらなければならない」と言われます。
AIを活用しよう。
生産性を高めよう。
もっと顧客の声を聞こう。
新規事業に挑戦しよう。
どこの会社でも、変化の必要性が語られています。
私自身も、多くの会社の方と接していますが、
「自分の会社は安泰です」という人は一人もおらず、
「変わらなくていい」と言っている人に出会ったことがありません。
それなのに、実際にはなかなか変わらない。
提案が生まれない。
新しい取り組みが進まない。
気づけば毎年同じ課題について話している。
そんな場面が、多くの組織で繰り返されています。
2.変われないのは「変化を嫌う人」がいるからなのか?
私は、組織が変われないまま同じことを繰り返してしまうのは
「保守的な、変化を嫌う人がいるから」だと思っていました。
しかし最近は、そこまで話は単純ではない、と感じています。
なぜなら、私が出会う多くの企業人は、
真面目で、誠実で、責任感のある人たちだからです。
彼らは、仮に今動けていなくても、
「こうしたらもっと良くなるのではないか」
と行動していた時期があるのではないか。
そう思うようになりました。
提案もしていた。上司と議論もしていた。
でも、その提案が通らない。
優先順位が違うと言われる。
説明が足りないと言われる。
もっと根回しが必要だと言われる。
まず成果を出してからだと言われる。
もちろん、組織には組織の事情がありますし、
それらの指摘は正しかったのかもしれません。
ただ、そうした経験を何度も繰り返しているうちに、提案する気力、行動する気力が削がれていきます。
そして、人は、自分からは言わなくなる。段々と、提案しなくなる。試さなくなる。
「変えたい」という気持ちが単純に消えたわけではなく、
「まず説明を整理しなければ」
「もう少し根回ししてから」
「今は優先順位が違うかもしれない」
という考えが浮かぶようになった結果、
気づけば、自分から動き出す機会が無くなっていくのです。
3.組織への適応が、変化を止める
私は以前、こういう人たちは挑戦を諦めた人なのだと思っていました。
でも最近は、少し違う見方をしています。
彼らは、組織で生きる術を身につけた人たちではあるのです。
根回し。調整。説明。配慮。
組織で成果を出すために必要なことを学び、
優秀な会社員になっていく。
ただし、その結果として、
提案に慎重になり、試行は減り、挑戦は少なくなる。
つまり、「変えられると思えなくなる」のは、
能力が下がったからでも、
やる気がなくなったからでもなく、
「組織に適応した結果」なのかもしれないのです。
もしそうだとしたら、少し皮肉な話です。
会社は変革を求める。挑戦を求める。主体性を求める。
にも関わらず、組織で成果を出そうとするほど、
人は慎重さや調整能力を身につけていく。
そして気づけば、変化を起こす力よりも、
変化を起こさずに仕事を進める力の方が磨かれている。
4.正解の無い環境で、人は手触りを取り戻すことがある
一方で、興味深いこともあります。
私は新規事業や変革プロジェクトに関わる中で、
普段はあまり積極的でなかった人が、
急に動き出す場面を何度も見てきました。
「社内に正解が存在しない」ことが前提になっている場では、
不思議と人が自発性を持ちはじめることがあるのです。
誰も正解を持っていない。
それが故に、完璧な答えを出さなくてもいい。
まず仮説で話してみる。まずやってみる。
それが許容される。
そして、自分の行動が現実に影響する経験をする。
その結果、自分が変えることの手触り、影響感を取り戻す。
私はこれを見ていて、人は変化が嫌いなのではなく、「正解を求められる環境」に適応してきた結果、動けなくなるのではないかと考えています。
つまり、「変化を止めるのは、組織における影響感の喪失なのではないか」ということです。
これらの観察から、実は、組織の中には「変えたいと思っているのに動けなくなった人」が、多いのではないかと思っています。
もしそうだとしたら、私たちが向き合うべきなのは、変化への抵抗ではなく「変えたいと思っていた人が、少しずつ動けなくなっていくプロセス」なのではないでしょうか。
5.人はどんな環境で「変えられる」と思えるようになるのか?
人はいつから、「変えられる」と思えなくなるのでしょうか。
そして、どんな環境なら、その感覚を失わずにいられるのでしょうか。
この問いを、次回は深堀りしていきます。
(参考)本記事は「なぜ、誠実な人ほど止まるのか―変革停滞論を考える」というマガジンの2話となります。
