【5】なぜ「分からない」が言える職場ほど、前に進むのか――仕事の"進み感"をつくる管理職の力
前回の記事では「合理的停滞」という考え方を紹介しました。
変化を止めているのは、抵抗勢力ではなく、真面目で誠実な人ほど、変化を止めてしまうことがある。
そんな状態から、どうすれば動き出せるのでしょうか。

1.真面目な人ほど「完成してから」話そうとする
以前、一緒に仕事をしていたメンバーに、こんな人がいました。
仕事は丁寧。責任感もある。改善したいことも、実はよく見えている。
それなのに、自分から提案することはほとんどありませんでした。
理由を聞くと、こう言います。
「いや、まだそこまで考え切れてなくて・・・」
「こうした方がいい気はするんですけど・・・」
「でも、これだって言い切れるほどじゃないので・・・」
彼は、改善案がないから話せなかったのではなく、
完成していないから、話せなかったのです。
2.上司が変えたのは「完璧を求めない仕事の進め方」だった
そんな彼に、上司はこう言いました。
「いつも、日ごろから現場のことを良く見ていますよね。何か気になっていることって、実はあるのではないですか?」
彼は少し迷いながら話し始めました。
「うまく言えないんですけど・・・お客さまへの説明で、少し気になることがあります。」
「こうした方がいい気もするんですが、でも自信がある訳ではなくて、企画書にまとまらないんですよね。」
すると上司は、少し考えてこう返しました。
「では、企画書にまとめる前に、自分が担当するお客さまだけで、一度試してみませんか。」
「もし違ったら、そのとき一緒に考えましょう。」
彼は、少し迷いながらも、
自分が担当するお客さまだけで試してみました。
もちろん、劇的な成果が出たわけではありません。
それでも、
「こういう反応が返ってくるんですね。」
「この言い方の方が伝わるかもしれません。」
そんな新しい気づきが、一つ増えました。
それ以来、違和感を見つけると、
その上司に話してみようと思えるようになりました。
最初から正解を出そうとするのではなく、
まず一度、小さく確かめてみる、
そんな仕事の進め方へと少しずつ変わっていったのです。
このやり取りの中で、上司が変えたのは、
一歩だけでも「前に進む」よう、
ゴール設定を小さく刻んだことでした。
それまで彼は、「きっちり準備してから動く」のが仕事だと思っていました。
うまく説明できないのは、自分の準備不足。
そう思っているから、完成していない考えは口に出せませんでした。
でも今回、上司は
「あるべき姿を描き切ってから動け」ではなく、
「まず一歩進め、その結果から考えよう」
そんな仕事の進め方へと、彼を導いたのです。
だから、全部を変えなくてもいい。
まず、自分ができる範囲だけ試してみる。
そこから次を考えればいい。
違和感があれば、まず小さく試してみる。
そんな仕事を続けているうちに、実際に、成果につながることも出てきました。
気づけば、以前は「言われたことをきっちりやる人」だった彼は、「いつも何かを試し、そこから周囲に提案する人」になっていました。
3.「進み感」をつくる管理職は、次の管理職を育てていく
数年後。彼は管理職になりました。
ある日、部下がこう言ったそうです。
「うまく言えないんですけど、何か変えられる気がするんです・・・。」
すると彼は、昔、自分が言われたのと同じように答えました。
「整理できていなくて大丈夫です。まず、気になっていることだけ聞かせてください。」
「全部変えなくてもいいので、まず、自分たちでできる範囲から試してみましょう。」
私は、この話がとても好きです。
受け継がれたのは、「まず一歩進めてみよう」と思える仕事の進め方でした。
管理職の役割は、部下に正解を教えることではありません。
部下が、「まだ分からないけれど、一歩進めそうだ」と思える状態をつくることです。
人は、勇気を持ったから動くのではありません。
性格が変わったから動くのでもありません。
「少し前に進めた」という実感を積み重ねることで、また次の一歩を踏み出せるようになります。
私は、それこそが管理職がつくるべき「進み感」なのではないかと思っています。
4.「前に進める人」の共通点
では、その「少し前に進めた」という実感は、どのように生まれるのでしょうか。
整理してみると、ある共通点がありました。
仕事の進め方が、明確に違ったのです。
次回は、その違いを図にして整理してみたいと思います。
(参考)本記事は、「なぜ、誠実な人ほど止まるのか―変革停滞論を考える」というマガジンの5話となります。
